■TOWER GOD 《たわごと》 2022■

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2022年12月某日 来年キング  

 年末恒例、横浜にぎわい座の大晦日の演芸会。フィナーレで舞台上に並んで、来年
の抱負など言うことになるのだが、なかなか気の利いたことが言えない。今年は前日
に思いついて、「短く一言で決められるぞ」と洋々と会に臨んだのだが、案の定、思
い出せなかったのであった。
 そこであらためて2023年の抱負。
「来年も、全力で!……脱力させます。」


2022年12月某日 連想ゲーム  

 お早よう、秋刀魚の味、東京物語……。
「小津安二郎!」――正解!
 疑惑、わるいやつら、張込み……。
「野村芳太郎!――正解!
 どん底、影武者、まあだだよ……。
「黒澤明!」――ブブーッ!ざんねん。岸田政権です。


2022年9月某日 死んでもマスクを離しませんでした  

 9月になって、いよいよ、皆さんお待ちかねの大イベントが近づいてきた。3の倍
数のおめでたき日、9月27日。そう、……前川清・川中美幸爆笑コンサート!於・
新潟県民会館。
 東京では、国葬が行われるそうである。黙祷や半旗の掲揚もするつもりはないが、
故人を偲ぶため満を持して、死蔵していたアベノマスクを装着してみよう。但し、鼻
や口を覆うのではなく、弔意を示すため、半旗にならってあごまでずり下げる。


2022年7月某日 ♪悩んでる身体が熱くて  

「カブト虫?」
「……いるはず無いんですけどね。」
 夜の須藤公園。林町側からの下り階段の降り口で、青年が足元を見てじっと立って
いた。横を通り抜けようとしたら、照明に白く照らされた階段の踏板に、角を含めて
7〜8センチのオスのカブト虫がいたのである。須藤公園にはクヌギもコナラも生え
ていない。どこからか逃げ出して来たのだ。「いるはずない」と言う青年は、それな
りに自然なり昆虫なりに詳しいのであろう。賢そうな青年であった。
 公園の坂を下りて、団子坂下の朝日湯に行く。不忍通りの団子坂下交叉点は、実は
本当の坂下ではなくて、へびみち入口の、朝日湯の手前が団子坂と三崎坂の谷間であ
る。不忍通りができる前からあるこの藍染川の跡(暗渠)が今も区境なのだ。
 オリンピック前に、都内の交叉点の信号機に付けられた交叉点名のローマ字表記は、
無駄に修正された。団子坂下は“DANGO-SAKASHITA”だったのが“DANGOZAKA HILL”
に変わった。ダンゴサカではなくて、ザカと濁るのが普通だから、修正に意義はある。
しかし、団子坂上も“DANGO-SAKAUE”が“DANGOZAKA HILL”に、つまり坂の上下の
交叉点の表記が一緒になってしまった。仏つくって魂金入れず、こういう「何かした
つもり」の税金の無駄遣いは本当に腹が立つ。
 朝日湯は、朝10時から夜1時半まで。近隣の銭湯が軒並み廃業した中で、使命感に
燃えている。東京の銭湯は、今月一気に20円値上げになって、大人500円。ぎりぎり
ワンコイン。
 立川談志師匠の名言「銭湯は裏切らない」。こんなに安価でのびのびとリフレッシュ
できる空間は、ザラにない。ところが、そんな場所でストレスを貯めて帰ってくるの
が、裸の寒空はだかなのである。
 今時、ほとんどの銭湯は、脱衣場に向いた番台式から、外向きのカウンター式に変
わってしまった。ただでさえ、牢名主のような頑固な年寄りが減って銭湯のルールが
守られなくなっている上に、店番の監視が届かなくなった。ろくに体をふかずに出て
きて、脱衣所の床をびしょびしょにする者――老若どちらにもいるのだが――の無頓
着さは理解しがたいけれど、今はこう推測している。小さいころから銭湯で育ったこ
とのない人間は、プールの脱衣所と同じだと思っているのだ。まあ他にもマナーに外
れた行為はいろいろあるけれど、真に正義をつらぬくならば、注意すればいいことだ。
ところが、もっとストレスの溜まることがあるのである。これは、ただ単に、私個人
の器の小ささが原因だ。それは何かと問われれば……。
――老若男女、御殿様でも家来でも、お風呂はいるときゃ皆はだか。その直前、最後
に脱ぐのは腰を隠すもの、パンツかふんどしか腰巻であるべきではありませんか!し
かるに、下だけ全部脱いでしまって、シャツは着てても股間は放り出しているという、
ヒト前でそういう間抜けな図の人間が、少なからずいるのである。
 もちろん、ただの言いがかりと理解するし、どう考えてもその人は悪くない。落ち
度はない。だがどうにも腑に落ちないのである。「オマエは犬か!」というやり場の
ない怒りを胸に秘め、悶々と洗い場に向かうのであるが、フルチン、素っ裸で何を偉
そうにしているのだと自戒する。
 とはいえ、名前が寒空はだかである。はだかについて一家言あっても、良くはない
かね?

♪生涯忘れることはないでしょう


2022年7月某日 国葬最前線  

 国葬という形式の是非はともかく、五十年ぶりに国を挙げて悼む大人物、逸物とは
思えない。憲法に照らしてどうだとか、税金の投入の問題以前だ。
 密集する都心でやる必要もなかろう。大阪の夢洲あたりなら、渋滞もしないし、検
問もしやすい。どうしても東京でやりたければ、新宿御苑かホテルニューオータニで
やるがよい。
 無防備に背中から撃たれて亡くなった、はだかの元総理。国葬に値する重要な人物
なのだ、そもそも、あんなに無造作に殺される環境に放り出したりしてはいけない。
 安倍晋三氏の死を悔む。氏の業績と政治姿勢は、評価しない。国葬という儀式の必
要性が見当たらない。ゆえに国葬には反対する。国葬に賛成したらマイナポイントを
くれる、と言われたら少し考えてみようか。カードを持っていないけれど。

 補遺。
 弔問外交の舞台になる、と国葬の効用を真面目に説く御仁は、まさに死者の身勝手
な利用であり、不謹慎この上ない。
 万一各国首脳が来るとしたらだ。「国民の大多数から尊敬されていた元総理」が、
いとも簡単に暗殺されてしまう国と承知で来るのだから、それぞれ強力な護衛をつけ
て来日するわけだ。日本の警備陣を信頼するとは思えない。もちろん、各国要人が傍
若無人なふるまいをするとも思わないが、我が国の治安機構は彼らの行動を見守るこ
としかできまい。そして、日本は外交の場を提供するけれど、頭越しに他国同士の駆
引きが行われるのだ。美しき日本が誇る出汁の文化、われら世界平和のダシとならん。
 そうだ、プーチン大統領とは何度も渡露して親しく会談したくらいだから、弔意を
表してくれるなら、葬儀の出前をしたらどうだろう。香奠として色丹くらい返してく
れないか。

 白状。
 今まで「逸物」をイツブツと読んでいた。「補遺」はホイツだと思っていた。偉そ
うなことを書いていてもこのテイたらくである。


2022年6月某日 政的欲求 ♪空いた穴なら落ちるのは覚悟  

 6月中に梅雨が明け、連日の猛暑日という異常気象。以前にも、こんな異常な暑さ
があったな、と記憶をたどってみたら、キングギドラが日本に襲来して、東京タワー
とマリンタワーが破壊された年であった。金星人を名乗る若林映子が、予言者として
注目されたあの時だ。マスコミ各社が、若林にアンケートの回答を求めたが、ほとん
ど無回答でひんしゅくを買ったとか買わなかったとか。――それは、おニャン子元メ
ンバーの話か。
 世間的にはさして話題になっていないようだが、自民党の広告塔に担ぎ出された
生稲晃子候補は、インターネット上で無節操ぶりと空っぽな主張が露呈して、ちょっ
とした渦中の人なのである。たぶん本人は真面目で一所懸命なのだろうが、デビュー
を目指すアイドルの気持ちでは困るのだ。知名度を武器に与党から出馬したのだから、
ボロが出たら目立つのは必然で、叩かれるのまた当然である。
「アノネ がんばんなくていいからさ 具体的に動くことだね みつを」私の好きな
言葉です。(メフィラス)

 れいわ新撰組から全国比例区に名乗りをあげた水道橋博士先輩は、実に地道に淡々
と主張を訴え続けている。浅草と新宿長野屋前で演説を聞いたが、その冷静な抑え気
味のトーンは、果たしてヒトの心に刺さるのか心配になるほどなのだが、国会に登場
して淡々とねちねちと痛いところをついて欲しい。博士号もないのに博士と名乗るの
は虚偽ではないか、というクレームは今のところないようである。

「それはおかしくないか?」という違和感、そこをピックアップすると笑いになる。
違和感が気になってしまうのは、ネタを作る者の性分である。笑ってすますだけでは
ストレスが解消できなくなって、具体的に改善にとりくもうとすれば、政治の範疇に
なってくる。笑いと政治は、とても近いことなのだ。
 地面に穴が開いていたとしよう。奇天烈な穴の埋め方を語れば笑いになるけれど、
真剣な埋め方を主張すると笑いにならないから、政治をネタするのは難しい。
 かつて参議院議員になった大先輩、立川談志とコロムビアトップ。もちろん御二人
とも非凡な賢さを持った方なのであるが、談志師匠は、芸人の美学を優先すると政治
家として自分が持たないことを悟ったしまったのだろう、1期6年で廃業。かたや
トップ師匠は真面目に世直しに取り組んでしまった。政治家としてトップセンセイは
尊敬するけれど、トップ師匠の政治漫談は面白くな……、そのう、なんというか、笑
えなかった。
 同じ価値観の人だけでなく、主義主張の違う相手陣営にも、痛いところをつかれた
ぜ、とニヤリとさせてこそ政治ネタなのだが、それは非常に難しい。

 芸人・寒空はだかとしては、与党でも野党でも、右でも左でも、違和感を見出せば、
そこをつついて笑いに変えたいと思うけれど、大きな権力をひっかくのが、野良猫芸
人のプライドである。野良猫なので気まぐれなのが玉にキズ。

 空いた穴を、いや空けた穴ぼこを、平気で無かったことにする政治家集団に腹が立
つ、こんなことを書くのは野暮の骨頂だけど、これも暑さのせいである。

 というわけで例によってだらだら長くなったけれど、今回の参院選で肩入れしてい
るのは、共産、れいわ、社民党。違和感をちくちくつつく、というのはやはり野良猫
の肌と合うのである。3番目に挙げた社民党は、別にオチで使ったのではない。今や
影響力に疑問はあるが、良いことを言っているのだ。報われない芸人の気持ちをくす
ぐるものがある。――私には過去の栄光は無いけれど。

 この随記ページに書くよりも、世の中に対する不満を解消するべく具体的に行動す
るべきなのであるが……。暑さを言い訳に、四畳半で伸びているのであった。九条を
めぐる論争の熱さは知らないが、少なくともその半分の暑さは相当なものなのだ。
「アノネ がんばんなくていいからさ 具体的に動くことだね みつを」私の苦手な
言葉です。

【おまけ】
「ちょっと……、安倍首相との質疑でこういう最後になるっていうのは、あまり、今
まで経験のないことでありますが……。(場内爆笑)」2002.3.3共産党小池書記局長
YouTube テレ東BIZ 終盤9:48あたり


2022年6月某日 お昼から重大放送があります  

 高校生の頃の日曜日。昼下がりにNHKテレビの「お好み演芸会」。
 夕方になると、文化放送の「キクマサ辛口名人会」から日本テレビの「笑点」。夜
9時から、フジテレビの「花王名人劇場」。最後はNHKラジオの「真打ち競演」を
聴いて、演芸三昧の一日が終わる。いい時代だ。名人劇場や真打ち競演を録音したカ
セットテープが実家には何十本とある。
 あれから四十年。まあぼちぼち声がかかっても良いのではないか、と内心、思って
はいたのである。今だって真打というネーミングからは程遠いけれど、「当時、『こ
のくらいなら私にもなれるんじゃないか』と演芸好き青年を思わしめ、進路を狂わせ
た某先輩」のハードルは超えているんじゃないか、と慢心タイガース。念願かなって、
渋谷の放送センターを久々に訪れる。「爆笑!オンエア(されない)バトル」以来、
――と思ったが、森口博子さんと柳家喬太郎師匠のラジオで収録に行って以来であろ
うか。建て替えを控えているとはいえ、西口玄関の雰囲気は時が止まっている。
 メディアで売れることもなく、演芸プロダクションにも所属しない芸人が、由緒あ
る演芸番組に出演するというのは、なかなか珍しいことではあるまいか。ラジオとは
いえ全国放送の電波に乗るのは、じれったい気持ちを秘めて応援してくださる好事家
の皆様への、ゴホウビである。
 放送日、故郷の村では、村長以下、村人たちがこぞって、小学校の校庭に据えられ
た大型ラジオの前でかたずを飲んで待っている、とのことである。
……放送後、聴衆は泣き崩れて悔し涙を流したとか流さなかったとか。


2022年5月某日 スカイツリー10周年  

 
 東京スカイツリーが10周年。
 ということは、「スカイツリー音頭・決定版」を収録したCDアルバム「東京モン
ド」
を発売してから、もう10年。こちらは皮肉にも、ちょうど先月、廃盤である。
 縮小開催の三社祭の最終日(初日の翌日)でもあるこの日、上天気もあって、浅草
は、近年まれに見る人出。東洋館もおこぼれに預かって、1年に1度あるかないかの
軽いお客であった。シン・ネタも良くウケて、最後はスカイツリー音頭・変則版で締
める。スカイツリーの本尊とは全く絡みがないのは情けないが、ささやかにおめで塔。


2022年3月某日 ウクライナは涙を信じない  

 ロシア連邦のウクライナ国侵攻。暴挙、愚挙。なんでもいいから、すぐに翻意して
撤退しなさい。ロシアも悪いが、とか、戦争は反対だが、などと言いながらバランス
を取った発言をする人に聞く耳は持たない。
 国家としてのロシアは、ドーピングが名物であるから、大統領プーチンも、何か悪
い薬をやっているに違いない。
 私の世代にとって、ウクライナを初めて認識するのは、ルパン三世である。という
のは、テレビ第一シリーズ第10話「ニセ札づくりを追え」に、「ウクライナの銀狐」
と言う女性が登場するのだ。このウクライナの銀狐という郷愁を帯びた言葉の響きは、
ストーリーを忘れても、第6話「雨の午後はヤバイぜ」の「お子様ランチ」、第13話
「タイムマシンに気をつけろ!」の「マモウキョウスケ」と並んで記憶に刻まれてい
る。
 そしてこれは私個人の話だが、私には原語で歌える国歌が2つだけあって、それが
君が代とウクライナ国歌「ウクライナは(未だ)滅びず」なのである。
 シェーネメーラウークライニ、ニースラーバーニーヴォーリャ
 なぜ歌えるかと言えば、非常に勇壮で格調高い曲だから、Youtubeで覚えたのだ。
自分のライブでも歌ったことがある。
 厄介なことに、2番目に好きなのはソビエト連邦国歌である。これは国家としての
好き嫌い、善し悪しの問題ではなくて、曲としての魅力である。
 第三者としては、仲良くしてくれよというのが本音であるが、現実に武力で痛めつ
けられれているのがウクライナである。まして、大きな国が小さい国をなぶっている
のだ。弱いものに肩入れするのが、江戸ッ子かたぎだ。幡随院長兵衛だ、助六だ。
 ゼレンスキー大統領の演説を、スクリーンがどうの、薄っぺらい理由をつけて渋る
国会は嘆かわしい。別に、議員それぞれがスマホなりタブレットなりで見てもいいで
はないか。問題は、演説中に、ワニの動画を見る不心得者がいる可能性なのだが。


2022年2月某日 うっかり鉄道(○C 能町みね子さん)2022 


   02番券売機はナント休止中であった。

2022年2月某日 ♪ああ人生とんぼ返り

 近江大介さん逝く。94歳。年齢的には大往生だろうが、やっぱり惜しい。
 アキラ、ルリ子、裕次郎、文字通り綺羅星のごとくスターが躍動したアクションの
日活映画。それを支える曲者ぞろいの大部屋役者連中の中でも、どこか愛嬌のあるア
ンチャンとして重宝がられ、無数の作品に出演した。
 齢90にして初主演、半生を語る映画「
人生とんぼ返り ある日活大部屋俳優が駆け
抜けた昭和の記録
」(2020年/監督;末永賢)、縁あって寒空はだかが、聞き役を
務めた。映画は1時間であるが、収録当日、近江老人は、およそ5時間、ほぼ休みな
しで話し続けたのである。
 そもそも、俳優になったきっかけが、一座の金を持って逐電した役者・妹の代りに
旅回りに加わり、穴の開いた役に急きょ舞台に立った事だという。ふりかかる災難の
手前で見事にトンボを切りながら、世間を渡って幸せな老後。如才なく愛される人柄
だ、落語家や芸人になっても、多分いいところへ行ったであろう。
 2月17日朝7時20分、S状結腸癌のため逝去、とその翌日に訃報をもらう。
 亡くなった日の夜、そうとは知らぬ私は、渡辺美佐子特集のシネマヴェーラ渋谷で、
「肉体の密輸」(1956年/監督;阿部豊)を観ていた。前名の「大美善助」名義で
あったが、奇しくも役名はダイスケ。横浜港のサンパン(タクシーやマイクロバスの
ように港内を連絡する小型船)の船長・河野秋武の助手役。途中で、タンカーの船員
に招かれて、秋武のもとを巣立つ。その挨拶に来たところで、秋武と娘・渡辺美佐子
の危機を救うきっかけを作る。出演シーンは多くはないが、なかなか重要な役ドコロ。
活躍する姿に私は喜んでいたのだ。28歳の近江さんは、60年後も変わらぬ、人なつ
こい笑顔であった。
 あの世の日活旧友会で、さっそく憧れの月丘夢路に挨拶に行っているだろう。
「あの、ワタクシは近江大介というもので……。」
「なに言ってんのダイちゃん、知ってるわよ、待ってたわ!」



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