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【162】朝を呼ぶ口笛(1959松竹大船)監督;生駒千里
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 読売新聞社が募集した綴り方(作文)コンクールの優秀作品をもとに作られた
作品で、新聞配達の青少年たちの物語、62分。
 葛飾区を舞台に設定、土手のシーンがひんぱんに登場する川の手映画。
 主人公は貧しいながらも成績優秀な中学生、吉井稔・加藤弘(劇団こまどり)。
淡い思慕の対象に吉永小百合。副本線に、田村高広とフィアンセ・瞳麗子

 加藤と高広が勤める「小池新聞舗」は荒川放水路土手の下にある。看板に
「葛飾区下千葉町7の2」とあるが、これは作品の中の設定で、実際のロケ地は、
現・墨田区八広6丁目17。
 ガミガミやかましいが情にもろい店主、下町のおかみさんが沢村貞子。加藤の
父は事故で体を壊して療養中の織田政雄。はまり役。母はシャトルコック作りの
内職をしている井川邦子。彼女は胆石で入院し、手術が必要になる。新聞少年・
加藤は、定時制高校進学のために貯金したカネを手術費用にあて、進学を断念し
て鉄工所勤務を決意するのであったが……。

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【オープニング】

 白富士にファンファーレ、誇らしげに飛出すグランドスコープの文字、続いて
「松竹映画」松竹マーク。変わって早朝の荒川放水路土手。音楽・鏑木創のテー
マソング、軽快な口笛に乗って、新聞小脇に駈けるミノル少年・加藤弘。学生服
の上にスナップボタンのオーバー。画面いっぱいにタイトル「朝を吹く口笛」。
♪ドミミミミソラソラーシードー
 なんという爽やかなオープニング!
 京成本線荒川・綾瀬川鉄橋をバックに、堀切小橋の角の交番から土手下に降り、
あちこち配り歩く。
 土手の上でパンをかじっている牛乳配達のデブ少年・真塩洋一と挨拶をかわし、
また土手下に下りてゆく。「監督 生駒千里」

 タイトル空けて、京成バスの車庫。市川行の新型(日野ブルーリボン)が出庫
してゆく。営業所の新聞受けに朝刊を差していると、出発前のバス車掌、白エリ
嬢シズコ・瞳麗子に呼止められる加藤。彼氏の新聞配達リュウジ・田村高広に届
けるよう、成田山の御守を渡される。
「今日、面接試験の日でしょ?」
 ついでに「早番だから、3時にいつものところで待ってる。」とデートの約束
をことづかる。
「おーい、時間だぞ。」
 運転手の今井健太郎にせかされて、いすずBX、無骨なボンネットバスが発車
してゆく。
 放水路土手下の「小池新聞舗」に帰ると、高広ら住込みの配達員連中が、主人・
沢村貞子の小言をきき流しながら、朝食を食べている。
 貞子は、加藤を奥へ呼ぶと、
[はい、拡張手当。50円余計に入れといたからね。
 高校受けるのに貯金してるんだって?
 エライねえ、ずいぶん貯まったろ?今度借りに行くからね!]
と軽口をいいながら、封筒を手渡す。

 加藤が帰宅すると、母・井川と、父・織田が、内職のシャトルコック(バドミ
ントンの羽根)作りをしている。織田が羽根と頭のゴムを糊付けし、井川が接合
部をテープで巻いて固定する。
 織田は本来、染物の下絵師だが、自動車にはねられた後遺症で苦しんでいる。
起きていて大丈夫か心配する加藤に、今日はあまり痛まないから、と答え、逆に
徹夜の井川に少し寝るよう気つかう。
井川「9時までにオオノさんに届けないと。」
 加藤の幼い弟が、母のかわりにご飯を炊いた。「ボク、料理好きだから。将来
はコックさんになろうかな。」
 抱えてきたお釜、おこげだらけのご飯に、笑いが起きる。
 一方、末の妹は、靴が破けていて、学校に行きたくないと駄々をこねる。おカ
ネがはいったら買ってやるから、という両親の言葉にもすねたまま。
「ボクが買ってやるよ、拡張手当が出たから。」
「ホント?お兄ちゃん!」
織田がたしなめる、「だってそれは、お前、高校へ行くために貯めてるカネだろ?」
「いいんだよ、臨時収入なんだから!」
 一転、満面の笑みで出てゆく妹、それに弟と加藤。入れ替わりに、内職の依頼主、
町工場の主、オオノさん・殿山泰司がやってくる……。


 【キャスト】 ▼主要キャスト解説▼ ▼舞台設定▼ ▲オープニング▲ ▲▲ページ冒頭▲▲
 “ ”内は、配役で画面にクレジットされた役名 配達員は全て「小池新聞舗」

加藤弘[こまどり]……新聞配達“吉井稔”中学3年生、成績優秀で親孝行
田村高広……新聞配達“須藤隆司”夜間大学生 中央精工の入社試験に不合格
瞳麗子………京成バス車掌“前川靜子”高広の恋人
織田政雄……加藤の父 元は染物の下絵描き、交通事故で自宅療養中
井川邦子……加藤の母 シャトルコック作りの内職、過労で入院、胆石と判明
鳥居博也……加藤の弟“豊”料理好き
羽江まり……加藤の妹、末っ子“みどり”
吉永小百合…加藤の受持ちの家の娘“刈谷美和子”高校生?の美少女
沢村貞子……“新聞店の女主人”
殿山泰司……“大野”のおじさん 井川に内職を世話する工場主

田村保………住込み新聞配達員“岩崎” 加藤へのカンパを発案
吉野憲司……住込み新聞配達員“日比野” ボクシング好き、加藤と口げんかで手が出る
田中晋二……住込み新聞配達員“遠山” 追加のカンパに、田村保と古着を売る
佐山彰二……住込み新聞配達員「タケウチ」 ゲルピンなので、カンパは貯金箱
山内明………瞳の兄、高崎から上京 自棄な高広を諭す
土紀洋児……加藤の数学の先生
真塩洋一……デブの牛乳配達
後藤泰子……吉永の家“刈谷家の女中”
井上正彦……鉄工所の社長 殿山の紹介で加藤が見学にゆく

町田祥子……京成バス車掌 瞳の同僚
空伸子………京成バス車掌 瞳の同僚
堀みどり……京成バス車掌 瞳の同僚
佐谷よし子…京成バス車掌 瞳の同僚
今井健太郎…京成バス運転手 瞳とコンビ

島村俊雄……早朝、配達の加藤と挨拶をかわす客
渡辺文雄……都営アパートに引っ越してきた男[カメオ出演]

 ▲キャストトップ▲ ▼主要キャスト解説▼ ▲オープニング▲ ▲▲ページ冒頭▲▲



【舞台設定】

 東京の東側。川の手、荒川放水路(現・荒川)、中川のあたり。
 讀賣新聞販売店「小池新聞舗」は「葛飾区下千葉町7の2」の設定。ロケ
地は放水路西岸、京成荒川駅(現・八広駅)の北西の土手下。現・墨田区八広6
丁目17。角地に立つ木造二階家。画面では向いにそば屋、右隣は北玉ノ井醫院の
看板を出したコンクリート製と思われる建物、丸窓のある特徴的なデザイン。
 季節は春を待つ2月。オーバー、コート、それに火鉢の季節。初日のシーン、
主人公ミノル少年・加藤弘の通う教室の黒板には2月21日(土)。同日、田村
高広の就職面接があったのだが、不合格通知の日付は2月4日で、残念ながら整合
性がない。
 旧下千葉町が主な配達エリアのイメージ。現在は、京成本線の堀切菖蒲園駅と、
お花茶屋駅の間のおおよそ北側地域。殿山泰司の自宅兼工場横の番地表示のホー
ロー板には「下千葉町217」。おそらく現・堀切5丁目14。加藤の家の近く、焼芋
を買う店の向いには「下千葉町9X」のホーロー板。加藤のかぶる帽章には「双中」
の文字。実在する双葉中学校はまさに、上千葉町と下千葉町が学区域だったので、
双葉とつけたそうだ。
 吉永小百合の家は「3丁目の刈谷さん」。
 瞳麗子の勤める京成バス奥戸営業所は、立石から奥戸街道、本奥戸橋(先代・
ポニートラス橋)の東詰。裏は中川土手なのは2021年でもかわらない。実際の
旧下千葉町からはちょっと遠い。



【主要キャスト】 
▲キャスト一覧▲ ▲オープニング▲ ▲▲ページ冒頭▲▲

加藤弘………通いの新聞配達員“吉井稔”、ミノルくん

 夜間高校への進学を目指す中学3年生、学資稼ぎに、朝刊配達のアルバイトを
している。
 両親健在、小学生の弟と妹の5人家族。家族思いの少年である。
 成績は優秀で、前回の数学の模擬試験では1番だった。同じ販売店に住込む夜
間大学生、田村高広から勉強を教えてもらっている。
 ある日、欠配騒ぎから「3丁目の刈谷さん」の娘、吉永小百合と知り合う。故
障した自転車の代わりに小百合から自転車を貸してもらったりするうち、淡い思
慕が生まれる。
 母親が胆石で入院、その手術費用のために、高校入学のための貯金をはたく決
意をして、進学を断念。殿山の紹介の鉄工所に就職することにする。

田村高広……住込み新聞配達員“須藤隆司”(リュウジ)

 就職を控えた夜間大学生。丸ノ内の一流企業の「中央精工」を受験。成績は優
秀だったはずだが、不合格。原因は、大学が夜学だった故の差別と推測された。
 高広は就職したら、バスガールの瞳麗子と、結婚するつもりだった。
 第二志望の、秋田の山奥の鉱山には、瞳をとても連れていけない、と捨て鉢に
なり、別れる決断をする。
 一方、加藤の進学断念を、自分が就職差別された夜学へ悲観からだと思い込ん
だ高広は、加藤に進学をあきらめないように叱咤する。

瞳麗子………バス車掌“前川靜子”

 高広と結婚を約したバスガール。デートはいつも、営業所裏の中川土手。
 高広が就職したら入居できる家族寮の話をきき、すでに家具選びの想像をする。
 兄・山内明曰く「少々怒りっぽい」。
 高広が第一志望の就職に失敗し、秋田の山奥には連れて行かないからと、別れ
話を切り出され、怒る。

吉永小百合…「三丁目の刈谷さん」の娘“美和子”

 本作で唯一、裕福そうな登場人物。容姿端麗な少女、高校生か?
 加藤の受持ちの配達先。
 ある日、確かに配達したはずの朝刊が届かなかったと女中からの苦情を受けた
加藤とともに、翌朝張込み。犯人は、小百合の飼う犬だった。
 自転車のチェーンが壊れて往生していた加藤に、自分の自転車を貸してあげる
優しい性格。牛乳配達の真塩洋一から、加藤が学資稼ぎに新聞配達をしていると
きいて感心している。
 同級生たちと、荒川土手をコーラスしながら歩く幸せそうな姿は、加藤にとっ
て、境遇の差を見せつけらるようなまぶしさであった。
 日活入社前の映画デビュー作。

織田政雄……ミノル少年・加藤の父

 殿山のセリフによれば「染物の下絵描きの職人をしてりゃあ、ケッコウな暮ら
しなのに」、クルマにはねられて自宅療養中。歩く時には杖をつく。
 生活が苦しくても、息子・加藤の高校進学はなんとか叶えてやりたいと思って
いるが、母親の入院、手術費には途方に暮れる。
 酒を飲む様子もない、マジメな父親。

井川邦子……ミノル少年・加藤の母

 夫・織田が療養中の為、内職で家計を支えていたが、無理がたたったか、倒れ
て入院。胆石が発見されて手術が必要になる。
「丈夫なだけが取り柄だったんだけど……。」とベッドで悔やむ。

沢村貞子……“新聞店の女主人”、オカミさん

 女手一つで新聞販売店を切り盛りする。
 二階には、高広たち5人の若い男性配達員が下宿。配達が遅いという苦情を小
言。電話が鳴ると「(きっと)また苦情だよ。」と渋い顔。
 都営アパートの入居が始まると聞けば、日曜日でも、住込み連中を引越の手伝
いに駆り出し、販売拡張に貪欲。もっともこれは、当時、店の御用聞き達も顔つ
なぎに手伝いに出る、という映画によくある風物詩だ。
「加藤が母親の手術代のために配達員をや辞め、進学もあきらめる」と聞いた住込
み連中がカンパをすると知って、貞子も財布から千円札を2枚。
田村保「朝刊と夕刊やったって、たいしたカネにならないしね(あ、と口を押える)。」
貞 子「(納得したように)ウチは安いからねえ。」
 凝ったメイクは無し。

殿山泰司……町工場の主“大野”さん

 加藤の父・織田政雄が事故で働けないと知って、内職を回している面倒見の良
い男。バトミントンの羽根、シャトルコック「COSMOS」製造。
 加藤の母・井川邦子の手術費用を織田から相談されたが、余裕なく、かわりに
加藤に鉄工所への就職を紹介する。「オジサン(自分は)、カネは無いけど、カ
オは広いんだ。」
 井川と織田は、息子の加藤には、手術費用の事を内緒にしようと思っていたの
だが、殿山の口から加藤に知れて、進学断念のきっかけとなる。
 殿山の工場兼自宅のロケ地は、京成本線のお花茶屋駅の荒川寄り、築堤へのス
ロープが始まる踏切の北側と思われる。



【おまけ】



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