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【103-2 下】警視庁物語 深夜便130列車(1960東映東京)監督;飯塚増一
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→【120】警視庁物語 遺留品なし(1959)
【103】警視庁物語 深夜便130列車(1960)
→【121】警視庁物語 血液型の秘密(1960)
→【122】警視庁物語 聞き込み(1960)
→【136】警視庁物語 十五才の女(1961)
→【89】警視庁物語 ウラ付け捜査(1963)
→【123】警視庁物語 全国縦断捜査(1963)
→【75】警視庁物語 行方不明(1964)
東映東京撮影所の人気シリーズ、長谷川公之原作「警視庁物語」第12作。
事件は、港区の汐留貨物駅で、トランクから発見された女性の絞殺体。
警視庁捜査一課の主任警部・神田隆と、6名の刑事たち。
堀雄二、花沢徳衛、須藤健、山本麟一、佐原広二、中山昭二。
東京の貨物の表玄関・汐留駅を振出しに、大阪、愛知へも捜査が及ぶ。
中盤の舞台は、荒川区の隅田川貨物駅近辺。
クライマックスは上り夜行鈍行、130列車。
ゲストスター、加藤嘉と山茶花究。ヒロインに小宮光江。
キーとなる手がかりに、コンタクトレンズ。
季節は歳末。捜査初日から6日目早朝までの物語。
事件発生は、捜査開始の6日前。
捜査本部は所轄・愛宕署(港区)。「準本部」に、大阪府警本部(中央区)。
松村達雄………警視庁捜査一課長
神田隆…………(捜査一課x号室)主任警部。温厚なボスだが、終盤ヒートアップ。
堀雄二…………刑事ナガタ。プレスシートに長田部長刑事。ポーカーフェイス。
花沢徳衛………ベテラン刑事ハヤシ。同、林刑事。口癖「ああ、なるほど。」
須藤健…………刑事ワタナベ。同、渡辺刑事。ハンチング。今回あまり活躍なし。
山本麟一………刑事カネコ。同、金子刑事。ソフト帽のダンディ。
佐原広二………刑事タカツ。同、高津刑事。神田隆と留守番が多い。
中山昭二………刑事ヤマガタ。同、山形刑事。独身。絵入りの図表を誉められる。
★……東映第5期ニューフェイス(1958年合格組)
加藤嘉…………大阪府警本部、捜査主任
山茶花究………大阪府警本部、部長刑事イチカワ。花沢とは知己、コンビを組む。
今井俊二………大阪府警本部、新米刑事ミズキ。大の南海ファン。
久保一…………府警本部刑事テラダ。玄関で出迎え。山麟とタッグ。
稲葉義男………東京鉄道公安室、公安官(警察権を持つ国鉄職員、現在は鉄道警察隊)
小宮光江………レビューガール・花山あや子。犯人の恋人。京成沿線在住。
河野秋武………軽三輪の運送屋・深尾。犯人の依頼で、トランクを隅田川駅へ運ぶ。
織本順吉………隅田川貨物駅員イシカワ。件のトランクを受付ける。
清村耕次………軽貨タクシー運転手。大阪で、梅田貨物駅から、トランクを運ぶ。
菅井きん………犯人の下宿・松美荘の1階。サンダル糊付の内職。ベンゾール中毒。
大村文武………江戸川区のそば屋店員オカザキ。犯人の元同僚。小宮の存在を示唆。
住田知仁(風間杜夫)…堀の息子、東京駅に出張のカバンを届ける少年
片山滉…………警視庁法医医師。白衣にメガネ。
石島房太郎……愛知、干拓地を案内する老刑事。ずさんな堤防工事を嘆く。「なも。」
山本緑…………愛宕署の婦人警官。小宮の身体検査を実施。メガネで固そうな中年。
滝謙太郎………冒頭、トランク開扉に立会う鉄道公安官
萩原正勝………冒頭、トランク開扉に立会う鉄道公安官
清見淳…………東京鉄道公安室の公安官
滝沢昭…………府警本部刑事、リヤカー聞込みを堀と。「遺留品なし」の羽田職員。
植田貞光………愛宕署の刑事
相馬剛三………警視庁の運転手
川崎玲子★(プレスシート参考)…問屋街の下着店の女店員。
藤里まゆみ……大阪のコンタクトレンズ店の女医。心斎橋あたり。
利根はる恵……被害者候補(コンタクトレンズ)の旅役者の姉。天王寺近辺。
八代万智子★…教師ヨシオカ。被害者の捜索で候補(コンタクトレンズ)の1人。
浦野みどり★…レビューガール。小宮のヘルスセンター同僚。
田中恵美子★…被害者クサマフミコ
谷本小夜子……パン工場の女工。
稲植徳子………被害者の部屋の大家か?
不忍郷子………小宮のアパート「花の木荘」の管理人
打越正八………冒頭、トランク開扉をする駅員
沖野一夫………冒頭、トランク開扉をする駅員
日尾孝司………天王寺駅員
滝島孝二………天王寺駅員 件の荷物を受付けた
長島隆一………梅田駅員 記事を見て心当たりありと準本部へ ※21.9.22追加
青山定司………梅田駅員、トランクを引き渡した係員
小塚十紀雄……隅田川貨物駅の駅員、織本の上司
岡野耕作………犯人の元同僚、機関区の職員
南川直…………急行〔筑紫〕専務車掌。鉄道公安官からの依頼で、滝川潤とともに検札。
滝川潤…………沼津駅から急行〔筑紫〕に乗込む車掌。連番の急行券を発見する。
岡部正純………急行〔筑紫〕の寝ぼけた客。大阪行(34.12.16発行)の切符を所持。
岩上瑛…………上り130列車の専務車掌
桜井基男………天王寺茶臼山の近くで野球をする少年
長谷部健………犯人候補の130列車の客。ハヤシ刑事・花沢がマーク。
小嶋一郎………犯人・ヨシムラハルオ。ヤマガタ刑事・中山がマーク。
※初代ナショナルキッド
※梅津栄……クレジットあるも不明
◆◆事件経過早見表◆◆ ※16.11.19 15:00訂正
●12月6日
夕刻、犯人、自宅にて被害者を絞殺。
●12月7日
犯人、被害者宅から通帳・印鑑を盗み出し、その預金を引出す。
死体を大型トランクに詰め、隅田川駅より発送。
※引き取り書類の、隅田川駅発の日付が12月7日。
●12月8日
トランク、大阪・梅田駅着。犯人、天王寺駅へ運んで、再び発送。
※大阪準本部の捜査地図に12月8日、とある。
●12月9日
トランク、東京・汐留駅着。到着通知を荷受人宛発送。
●12月10日
荷受人、宛て所なし。
※到着通知返送の付箋に、12.10のスタンプ。
●12月11日
●12月12日
天王寺駅より荷主身元不明の返電。
※電報の発信日付が12月12日。
公安官立会いのもと、トランク開箱。死体発見。捜査開始。
●12月13日
大阪捜査初日。
●12月14日
大阪捜査2日目。
トランク・死体は東京から発送と判明。
この日の朝、犯人はアパートを引払う。
この日の昼、犯人は、元同僚オカザキ・大村文武を江戸川区のそば店に訪ねる。
この日の午後、犯人は、郷里の愛知県で、両親を訪ねる。
この日の夜、犯人は、恋人・小宮光江のアパートへ。
●12月15日
この日の朝、犯人は、小宮に博多行の切符を渡し、一足先に熱海へ。
この日の夜、小宮は、情夫・都運輸局課長と会い、十万円を授受。
※同日発券の、博多ゆき乗車券(券番1846)の日付が34.12.15。
●12月16日
捜査に光明、事態が動く。
被害者特定、犯人特定。
カネコ刑事・山本麟一、犯人郷里の愛知県(干拓地)出張。
犯人の恋人・小宮の身柄確保。
下り急行〔筑紫〕、上り130列車に、犯人を追う。
●12月17日
未明、東京駅にて犯人ヨシムラ・小嶋一郎逮捕。
[5日目/12月16日]※急転、事態が動く
●朝の府中運転免許試験場
俯瞰映像(運転コース)に続いて、入構する堀と中山。
●朝の愛宕署捜査本部 ※有力な被害者情報
電話が鳴る。眼科医から。今朝、旅行から帰って、手配を知ったという。
被害者の特徴によく似た、29歳の女性の情報。
早速、女性の住所、三河島(荒川区)へ、花沢と須藤が出かける。
入替りに帰ってきた山麟、例の被害者候補のパンパンは違ったと聞いてがっかり。
※三河島は、偽名・宮本一郎の荷札に書かれた町名と同じ。隅田川駅とも近い。死者160名を出し
た大惨事「国鉄三河島事故」は、本作品公開後の1962年。住居表示実施時に★
荒川区荒川に町名を変更。駅名などを除いて、三河島の地名は消えた。
※上記文中★部「事故のイメージを嫌ったか、」の一節削除。町名消滅は事故の前とのことである。
●三河島、被害者の有力候補の下宿 ※被害者判明、保険外交「クサマフミコ」
花沢と須藤、該当の家の庭を掃除をしている女性に尋ねる。
花沢「クサマフミコさんのお宅は──」
警察と聞いて、こちらです、と神妙に玄関に案内。2階を貸しているが、専用玄
関が有る。
花沢に死体の顔写真を見せられて、驚く。
大家「まあ、クサマさん!」
・化粧品セールスの外交員。
・10日ばかり前に、関西に出かけたきり。
会社の所在を聞出す、2人の刑事。
●隅田川駅 ※トランクを持込んだ業者の男が判明、フカオ・秋武
堀と中山、再び織本順吉に会って、試験場で複写してもらった、免許申請の写真
を見せる。トランクを運び込んだ男の特定が目的だ。
「深尾」・河野秋武の写真に目が止まる。
織本「こいつです!」
●10:30 愛宕署捜査本部 ※物取りの犯行と判明/神田、本領発揮
花沢が手に入れてきた、被害者クサマの写真を見る神田、佐原。
会社の話では、得意先にまわった形跡なく、不審に思っていたという。
肋膜を患った点も一致。
仕事はやり手だが、男関係は固かった。
神田「三十ムスメってやつか。」
カネを貯め込んでいたようなので、須藤が銀行に照会に行っている。
佐原「それに手をつけていれば、モノトリの犯行ってことに……。」
須藤から電話、神田が出る。
隅田川駅から発送された日に、52万円の預金から、50万、下ろされていた。
そこへ、秋武が、堀と中山に連行されてくる。
秋武「あっしゃあ、なんでこんなところに連れてこられたんだか……。」
神田、なぜ昨日は嘘をついたか尋問する。免許写真で、証言者がいると言われ、
観念する。
秋武「すんません、あたしゃ、抜き荷の前科があったもんで、関係ないって言って
も信用してもらえないと思って。」
神田「誰に頼まれた?」
秋武「知りません。」
神田「(皮肉っぽく)口止め料いくらもらったんだい?」
秋武「口止め料だなんて……、チップに五千円もらっただけです。」
神田「(語気荒く)うそつけ!お前、殺しの共犯だろう!」
秋武「と、とんでもねえ、あたしゃ頼まれただけで、ほんとに知らねえんで。」
神田「住所も知らないのかね?」
秋武「いえ、それは分ります、松美荘ってアパートで──。」
●松美荘 ※犯人の名前と素性が判明
秋武「あすこです。」
堀、山麟、中山、高架線路にはさまれた、木造の安アパート前に連れてこられる。
秋武の指差す2階の部屋には、雨戸に「貸室」の貼紙。
1階で、サンダルを、業者のサイドカーの荷台に積んでいる小母さん・菅井きん。
堀が声をかけようとすると、頭を押さえてふらふらしている。
堀 「気分でも悪いんですか?」
きん「いえ、この糊の中に、ベンゾールとか云うのがはいってるとかで──」
堀 「ああ、ベンゾール中毒ってやつですな。」
2階の貸室について尋ねると、
・名前はヨシムラハルオ。
・2日前の朝、急に引越した。実家(愛知県の干拓地)へ帰るという。
・たまに訪ねてくる、30歳位の化粧品セールスの女性の手伝いをしている。
・最後にその女性が訪ねてきたのは、10日ばかり前。
・山麟、部屋を捜索するも、手がかりなし。
以前、勤めていた町工場を教えてもらう。
※ベンゾール=ベンゼン。サンダル糊付に使われるゴム糊の溶剤・ベンゼンによる中毒が、
当時、社会問題化していた。本作公開の1960年、有機溶剤中毒予防規則制定。
──参考;「化学はなぜ環境を汚染するのか」村田徳治 環境コミュニケーションズ(2001)
※けたたましく通過する蒸気機関車、渡るガードに「日暮里7号(線)架道橋」。
ロケ地は、常磐線と京成線、それに尾久橋通り(当時はおそらく開通前、現在は舎人ライナー
も走る)に挟まれた三角地、現・荒川区西日暮里5丁目16番と推定。
●愛宕署捜査本部 ※山麟名古屋出張
山麟、一足先に戻って、神田、花沢、佐原に報告。
犯人の勤めていた工場は倒産していた。堀と中山は、元同僚に聞込み。
神田は、山麟に、犯人の実家のある、愛知県への出張を命じる。
神田「急ぐから飛行機でな。」
花沢「時間表あるよ。」
署員から、小型時刻表を山麟に渡す。14時過ぎの飛行機の乗れば、夕方には現地
に着く。
ここで、神田と花沢が、事件の流れをまとめる。
・被害者はクサマフミエ、犯人はヨシムラハルオ。
・クサマの手伝いをしていたヨシムラは、クサマの貯金に目をつけ、クサマが出
張するその日に、ヨシムラのアパートでクサマを殺害。クサマの下宿から通帳と判
子を盗み出すかどうかして貯金を引出した。クサマの下宿の玄関が独立していたの
が、犯行を容易にした。
※満足げに一服する神田のタバコの煙、これが次のシーンの、蒸気機関車の煙につながる。
●機関庫 ※ヨシムラの消息を追う堀と中山 ※田端機関区
元同僚、機関庫職員によれば、一番仲のよかったのは、江戸川区の、「川より低
い」地域のそば屋に勤める男。
※プレスシートにある、「尾久駅の洗浄係 岡野耕作」のシーンがこれに相当と推定。
画面に登場する蒸気機関車、79659とD51 189を検索すると、場所は田端機関区。
●犯人ヨシムラの郷里、薄暮の鍋田干拓地(現・弥富市)※ヨシムラの消息を追う
去る9月の伊勢湾台風の傷跡のなまなましい干拓地。1956年の入植以来、初めて
の収穫を控えていたが、全域が水没した。
所轄の老刑事・石島房太郎の案内で、歩く山麟、心を痛めて、
山麟「どうしてこんなことになっちゃったんですかね。」
愛知県、名古屋市、農林省、通産省、建設省が入り乱れて堤防を造った結果、ず
さんな工事も行われた、と嘆く石島。
石島「ひどいところでは、堤防の厚みが30センチしかなかったといいますからなも。」
●江戸川区のそば屋「やぶ春」 ※ヨシムラの消息を追う
犯人ヨシムラと仲が良かった元同僚オカザキ・大村文武を訪ねる堀と中山。容疑
については触れずに聞込み。
大村「あいつも、かわいそうなヤツなんでシ。」
──胸を患い、3年休職して工場をクビに。療養したくても、仕送りはしなければ
ならなかった。帰省の車内で知合った、化粧品セールスの女性を手伝っている。実
家のある干拓地は、ようやく今年は米が穫れる、そんな矢先の台風襲来で壊滅──。
2日前の昼に、ヨシムラは、大村を訪ね、実家へ帰って療養すると言い残す。
堀が、女関係を聞く。
・犯人ヨシムラの彼女は、船橋のヘルスセンターの専属レビューガール「花山あや子」。
以前、遊びに行ったことがある、とその女の家を説明する。
大村「京成電車の──」
●犯人の恋人のアパート「花の木荘」 ※ヨシムラの消息を追う
京成線の高架線わき、電車がうるさいが、そこそこのアパート。
堀と中山を部屋に案内する管理人・不忍郷子。
昨夜から留守だという。鍵穴から中山がのぞくと、旅支度がしてあった。
※ちょっと不似合いなくらい大きな「花の木荘」という行灯看板がついている。
荒川区内、京成町屋駅と新三河島駅の間の高架脇に、花の木橋という交叉点がある。
かつての愛染川の名残だが(現在は暗渠)、この周辺には「花の木」を冠する施設がちらほら。
行灯看板は撮影用の道具と推察するので、名前をあてにしても信憑性は薄いが、
画面奥、ガード下の橋の欄干、ガードの架線柱の位置を比定すると、荒川5丁目41〜43番。
荒川4-42-4に「花ノ木荘」という木造アパートが2021年2月現在に存在するが、
場所が離れている。不動産情報を信用すると1963年建築、惜しくも別物件。
●愛宕署捜査本部
電話を取る神田。山麟から。犯人ヨシムラは、2日前に実家へ寄って5万円渡す
と、すぐ発ったと報告。
神田「もうどこか遠くへ逃げているかもしれんなあ。」
続いて、堀から電話がかかる。ヨシムラは、昨晩、情婦あや子の部屋に訪れたが、
その後、別々に出たという。
神田「その聞込みは確かかね?」
情婦あや子の勤め先、ヘルスセンターに行くという堀。残る張込み、中山の応援
に花沢と佐原を派遣。
※堀からの電話が遠いらしく、大声を張り上げる神田。ちなみに、神田のデ
スクには3台の黒電話。イス側から見て一番左は、ダイヤルなしの内線電話。
●19:20 ヘルスセンター舞台袖 ※犯人情婦の情報が迷走
堀は、出番直前の踊子・浦野みどりに、情婦あや子について聞く。
浦野、長い髪をいじりながら、上目づかいに答える。
浦野「カノジョ、もうここ、やめちゃったようなもんだモン。」
堀 「27、8くらいの男が訪ねてこなかったかい?」
浦野「あたしに?」
堀 「いや、あや子さんに。」
浦野「さあ?あの人のカレシって四十ぐらいの人よ。」
堀 「(困惑して)四十ぐらい?」
浦野、舞台に飛出して踊り始めるが、すぐに舞台袖近くまで戻って、
浦野「なんとかって役所の、課長さん!」
とだけ言って、舞台中央に駈け戻り、ポーズ。
●愛宕署捜査本部
帰庁した堀が、神田と須藤に報告。
情婦あや子は、浦野と、かつて、お座敷ストリップをやっていた頃に、その役所
の課長と知合ったという。
●情婦あや子アパート「花の木荘」 ※あや子・小宮光江の身柄を確保
タクシーから小宮が降りて、アパートの玄関をはいる。
張込んでいた花沢、佐原、中山、飛出して、小宮を部屋の前で呼止める。
中山「花山さん、花山あや子さんですね?」
少し驚くものの、神妙にうなずく情婦あや子・小宮。
※この時、小宮は、殺人事件の件で刑事達がやってきたとは思っていない。
●21:30 愛宕署捜査本部 ※小宮の聴取。主任警部・神田、真打登場。
小宮を囲む、神田、堀、花沢、中山。
誰と出かけるつもりだったか問いつめるが答えない。
小宮は、部屋の掛時計をちらりと見上げる。針は9時半を指している。
神田「黙秘権かね?」
ハンドバッグの中身を見せてもらおう、と言って正面の神田が手を掛けるが、押
さえる小宮。横から花沢が、それを機敏にバッグをひったくって、神田に渡す名人
芸。何事もなかったかのように、花沢は眠そうな自分の顔をなでる。
ハンドバッグからは、封筒にはいった10万円の札束(千円札100枚)。
神田「君はいつも、こんな大金を持ち歩いているのかい?」
小宮「銀行から下げてきたんだわ。」
神田「どこの銀行から?」
神田は札束の帯封を見ながら問うが、小宮は答えられない。
神田「……ハヤシ君、婦警さんを呼んでくれたまえ。」
花沢「はっ。」
居眠りしかけていたハヤシ刑事・花沢、はっとして承知する。
●アパート「花の木荘」
石焼芋の屋台が、アパートの前を通り過ぎる。
ひとり張込みを続ける佐原の元へ、応援にやって来た須藤。物陰から呼寄せる佐
原。
佐原「ワタナベさん。冷えますよ、今夜は。どうです、ひとつ。」
と、佐原は、須藤に焼芋を手渡す。
須藤「やっとるね。」
●22:10 愛宕署捜査本部 ※小宮の聴取。運輸局汚職とリンク。
10万円の出どころをヨシムラと推定し、昨晩会っていたものとして小宮の尋問を
続けるが、前へ進まない。
神田「ヨシムラハルオだろ!」
小宮「(迷いなく)違います!」
そこへ婦人警官・山本緑──固そうな中年、メガネ──がやってきて、敬礼する。
山本「遅くなりました。」
花沢「身体捜検をお願いしたいんですがね。」
山本「承知しました。」
捜査本部内の小部屋へ案内し検査を始める。淡々と、えりの裏などを触りながら、
山本「コートを脱いでいただけますか。」
無表情に従う小宮。下着にさせると、ブラジャーの内側にも事務的に手を入れる。
小部屋のドアにはまった小窓のスリガラスに、下着姿のシルエットが映って、ウ
ブな中山は恥ずかしそうに顔を横に向ける。
小部屋から小宮と出てきた婦警・山本、こんなものしか、と2枚の国鉄の切符を
渡す。
堀 「博多行の3等と急行券、まだ期限が2日残ってる。博多というと君の実家だ
ろう?」
神田「君はこれをどこで手に入れた?」
小宮「あたしが買ったんです。」
神田「東京駅でかね?」
小宮「(ゆっくりうなずく)」
神田「デタラメを言うんじゃないよ!有楽町発行って書いてあるじゃないか!!」
ヨシムラと、小宮の実家への高飛びが想起される。
なおも、因果関係の決め手となる、10万円の出どころを問いただす刑事達。
神田「誰にもらったんだい?」
花沢「ヨシムラハルオだろ!」
中山「そうなんだろ!」
言わないと返してくれないというので、小宮はついに我慢が出来なくなる。
小宮「課長さんによ!」
神田「(鼻白むように)課長さんってどこの?」
小宮「(ヤケ気味に)運輸局のカワハラ課長よ!」
神田「(少し面食らって)なに?」
堀 「(小声で)主任、例の、2課が動いているやつですよ。」
小宮「あたし、誰にも言わないって約束したんです……。」
神田、興奮気味に電話の受話器を取ると、警視庁の捜査2課を呼出し、カワハラ
課長の身柄を尋ねる。
先方が言うには、今日、逮捕されたが容疑は否認中。神田は、小宮の10万円に
ついての調べを依頼する。
●アパート「花の木荘」
一方こちらでは、ヨシムラの訪問を待ち、わびしく張込みの須藤と佐原。
寒空の下、犬に吠えられて閉口している。
●23:30 愛宕署捜査本部 ※犯人ヨシムラの動向が判明。
本庁捜査2課から電話。カワハラ課長が容疑を認め、小宮の件についても自供し
た。
・昨晩、「温泉マークで」10万円を小宮に渡した。
・小宮は、業者にとりもたせた女なので、手切れ金にと因果を含め、同時に汚職
の事実のもみ消しを図った。
一方、2課からは、こちらに関わる、汚職課長からの証言を得る。
・小宮は、男と、今晩9時半に、東京駅を出る急行で、郷里へ帰ると告げていた。
堀 「9時半というと〔筑紫(つくし)〕ですね。」
ヨシムラとどこで落合う約束かを問いただすが、小宮は黙ったまま。
神田「ヨシムラは、君が課長とつきあっていたのを、知ってたのかい?」
小宮「知らないわよ。いいじゃない、誰だって秘密ぐらいあるわ!」
小宮としては、汚職関連の自供はしたのだから、ヨシムラとのことはプライベー
トの範疇で大きな御世話だろう。
小宮「ヨシムラがどうしたっていうのよ!」
神田「おまえ……、知らなかったんだな……。新聞で見たろう。ヨシムラはトラン
ク詰め殺人事件の犯人なんだよ。」
小宮「……。ウソ……。ウソだわ!」
神田「ウソじゃないッ!!」
ヨシムラは世話になっていたクサマフミコの預金に目をつけ、殺害した上、現金
50万円を引出して逃走中だ、と小宮に教える。
神田「君は、そんなやつをかばいたいのかい?」
小宮「……アタミ。」
神田「熱海?」
小宮「あの人、一足先に熱海に行って待っているって。」
堀 「熱海なら今出た所です。次は23時53分着の沼津。」
神田は、鉄道公安官へ協力を要請、犯人を逮捕しようとする。
花沢「でも面も割れてないのにどうやって?」
神田「切符の番号で探すんだ。」
小宮の持っていた乗車券の番号が1845。一緒に買っていれば連番であるから、
1844か1846を持っている男が犯人と推測される。
●東京駅・東京鉄道公安室
丸の内側のレンガ駅舎、中央口の北側にある、東京鉄道公安室。
当直の公安官・稲葉義男、沼津駅へ愛宕署からの捜査依頼の電話をかけている
。
●23:53 沼津駅
ホームに進入する、電気機関車EF58。41列車、急行〔筑紫〕博多行。
公安官2名と、車掌1名が乗込む。急行〔筑紫〕の専務車掌に事情を説明。検札
を要請する。
車掌「3等は岡山までのを含めて7両ですから、静岡までには。」
沼津乗車の車掌・滝川潤と、専務車掌・南川直の2人で手分けして、車内改札を
始める。
※乗込む公安官、車掌・滝川たちのバックに、2018年現在も頑張る、駅弁「桃中軒」のスタンド。
ホームでは、深夜でも、ワゴンの売店が売り声をあげて、ゆっくり移動して行く。
●愛宕署捜査本部
ヨシムラの逃亡は一刻を争うが、ひとまず公安室からの結果を待つしかなく、静
まる本部。
中山「本当にヨシムラの写真を持っていないのかね?」
小宮「(無言でうなずく)」
花沢「(堀に)気がもめますな。」
堀 「深夜だから、検札も容易じゃなかろう。」
●富士山をバックに西へ走る急行列車 ※疑似夜景
画面右から左へ、EF58を先頭に、荷物車2両、2等車2両、寝台車……。
●急行〔筑紫〕車内
散らかった3等車内、満席ではないが、そこそこ混んでいる。
思い思いの恰好で眠りこけている乗客を、一人一人起こして切符を改める。
専務車掌「もしもし、切符を拝見します。」
ボックスシートに横になっている岡部正純、寝ぼけて、定期券や、バスの切符を
出す。
●トラス鉄橋を渡るEF58(正面) ※疑似夜景
●静岡駅直前の急行〔筑紫〕車内 ※ヨシムラは発見できず
沼津から乗込んだ応援の車掌・梅津が、博多ゆき、1846の乗車券を発見する。
しかし、所持していたのは中年の男であった。
ちょうど、その時、反対側から検札してきた専務車掌と落合う。首を振り合う2
人。
※券番1846の3等乗車券、日付は34.12.15。専門的なことを書けば、準常備式の硬券。
急行券は斜め赤線2本入り。ただし、この客がこの列車に乗合わせたのは、かなりの偶然である。
●01:10 愛宕署捜査本部
電話が鳴る。張込み中の須藤から。犯人ヨシムラは、熱海で小宮と落合うつもり
で東京を出ていると思われるが、万が一に備えて、そのまま張込み続行を指示する
神田。
再び電話、東京公安室から、静岡での検札結果を知らせてきた。
・(有楽町駅発行の)博多ゆきの切符。1846は中年男で、シロ。1844は、いな
かった。
堀 「君とヨシムラとは、どのくらいの仲だったんだい?」
小宮の話によれば、ヨシムラは本気で小宮と結婚する気だったようだ。
カネができたから、小宮の郷里へ一緒に行こう、自分も療養する、と。
小宮は、実家に弟と妹を抱え、仕送りをしていた。父の炭鉱は閉山し、電気も止
められて、毎日おかゆをすすっているという。中山をはじめ、刑事達は、小宮の不
幸な身の上話に聞き入る。
小宮が、10万円を返してくれと必死に言い続けたのは、そんな背景もあったの
だ。
堀 「彼女が乗ってないと知ったら、ヨシムラは東京に引っ返してくるんじゃない
ですか?」
時刻表を調べると、静岡1時19分発、沼津2時20分発で、東京へ上ってくる普通
列車がある。
神田は、堀、花沢、中山を、東京公安室へ向わせる。
小宮「あたしも行きます!」
神田「(小宮を引止めて)これからいくらでも会える、裁判だってあるんだ!」
小宮「あたし、会って聞きたいんです、どうして、どうして……。」
泣き崩れる小宮。
●東京鉄道公安室
堀、花沢、中山、レンガ駅舎内の公安室に車で乗りつける。
稲葉曰く、沼津公安室からの報告によれば、
・沼津駅では確かに、博多ゆきの乗車券で途中下車した若い男が1人いた
・入口の改札からは、若い男が3名、東京ゆきの切符で入場したが、その中に、
途中下車した男がいたかは、わからない。
静岡まで警乗した公安官が沼津に戻っていないので、沼津から乗車した男3人を、
車掌の検札で探させるよう指示したという。
●02:20 沼津駅
東京行130列車、ホームを発車する。
※ホームの洗面台で、うがいをして、動き出した列車に飛乗る男。ストーリーには関係ないが、
細かい演出。ホームの時計は、きっかり2時20分。
●02:20 捜査本部
無言の神田と小宮。寒々とした部屋で、動向を見守る。
●130列車
今度は、画面の左から右へ、富士山をバックに、EF58先頭の客車列車が走り抜け
る。
走行シーン(疑似夜景)や、寝静まった車内のシーンが綴られる。
●03:20 東京公安室
中山「小田原、3時13分でしたね。」
電話が鳴る、固唾をのむ刑事達。
稲葉「はい、東京公安室。……ああ、スリ、終電の。……、わかりました。」
沈黙の後、再びベルが響き、もう1人の公安官が、小田原駅からの電話に出る。
清見「……はい、……はい、……わかりました。」
車掌が沼津乗車の3人を特定、小田原では下車しなかったという。
次の停車駅は大船、4時01分発車。
堀 「あと40分ある──」
堀は、花沢と中山に、大船駅へ車で急行して130列車に乗込み、犯人を逮捕する
よう指示する。
※130列車(ダイヤ上の列車番号130の列車)は、大阪始発、東京行の普通列車だが、
深夜帯は、小さな駅を通過して、快速運転をする。
この5時前に東京駅に到着する列車の「スジ」は、電車化、運転区間の短縮をしつつも、
後の快速〔ムーンライトながら〕に引き継がれ、2009年に臨時列車になるまで存続した。
●東上する130列車、迎え撃とうと急ぐ自動車
線路を疾走する列車と、第二京浜を飛ばす自動車、交互に映し出される緊迫の演
出。
●04:00 大船駅
駅前に辷り込む車、改札上の時計は4時。花沢と中山、ホームへダッシュ。
●130列車、大船駅発車 ※ついに舞台になる「深夜便130列車」
車掌「そうでしたか。」
乗込んできた刑事達に驚く車掌・岩上瑛に、事情を説明。車掌は、花沢と中山に、
沼津から乗った3人の若い男を教える。
・1人の男、ぐっすり眠る小嶋一郎を中山がマーク。
・あと2人は同じ車両内にいる。花沢がマーク。
花沢は、ボックスシートの2席分を占領して横になっている、犯人候補の1人に、
花沢「ここ、空いてますか?」
若い男「(怪訝そうに)来ますよ。」
不機嫌そうにそう言う男の窓際には、お茶の土瓶が2つ並べて置いてあった。
花沢「失礼。」
こいつはシロだな、と、もう1人の男が見渡せる席に腰掛ける花沢。(ほどなく、
さっきの男には、連れの女がやってくる。)
花沢がマークする男・長谷部健は、深夜にも関わらず、目を見開いて、硬い表情
で雑誌(時刻表)を見ている。
※ガラガラではないが、急行〔筑紫〕に比べれば空いている。5割強の乗車率。
※長谷部健は、前作「遺留品なし(1959)」の犯人。
●愛宕署捜査本部
東京公安室の堀からの電話を聞く神田。
それによれば、横浜では、長谷部も小嶋も下車せず。
※両切りタバコを親指と中指で挟んで、根元近くまで吸っている神田、口に
入った葉を吐き出す。
●東京公安室
電話を受けている稲葉。
稲葉「品川駅でも降りなかった?」
稲葉のまわりには、応援の刑事や、警官隊が集結している。
●130列車、新橋駅停車
花沢のマークする長谷部、立上がる。花沢、降りたら捕まえようと長谷部を凝視
するが、網棚からカバンを降ろして、東京駅下車の準備をしただけであった。
●04:55 東京駅14番線ホーム
アナウンス「130列車は、有楽町駅を通過しました。」
静まり返った東京駅に、刑事、警官達が、配置に就いたまま、じっと到着を待受
ける。
電気機関車EF58を先頭に、ゆっくりと、レールのジョイント音を響かせながら、
列車が進入してくる。
思い思いに降りてくる乗客達。
デッキから降りた長谷部に、花沢が話しかける。
花沢「ヨシムラハルオさんだね?」
長谷部「違うよ!」
公安官・稲葉が、前方をふさぐ。
怖い顔で問いつめる花沢と稲葉。憮然とした長谷部が、懐から身分証を取出して、
2人に見せる。どうやら人違いだ。
花沢「あ、こりゃ失礼!」
稲葉「どうも。」
2人は慌てて、もう1人の犯人候補、小嶋の方へ走り出す。
●乗客の降りた130列車、車内〜ホーム〜地下通路 ※犯人逮捕
ガランとした車内に、ひとり、眠り続ける白いコートの若い男・小嶋一郎。
デッキに身を潜めていた中山が、そっと近づくと、ばっと立上がり、逃出す小嶋。
ホームに出て駈ける小嶋を、刑事達がいっせいに追いかける。閑散とした早朝の
東京駅構内に響き渡る無数の靴音。
中央口と書かれた階段を駈け降りる小嶋、タックルされて、通路行止りの壁に追
いつめられる。
断末魔のような悲鳴をあげて崩れ落ちる、犯人ヨシムラ・小嶋。
「ひやああああ、に、逃がしてくれェー。」
●愛宕署捜査本部
神田、犯人逮捕の電話を受ける。
神田「はあ、よかったなあ、ごくろうさん!」
電話を切ると、傍らで悄然と肩を落とす小宮の、茶碗の冷たい茶を床に捨て、熱
い茶をいれてやる。
薄暗い部屋、悲しそうな顔をしたまま、小宮は、じっと動かない。
●東京公安室前
連行され車に乗せられる犯人・小嶋。
●早朝の東京駅前俯瞰
犯人を乗せた乗用車が走り出し、行幸通りに消えてゆく。続いて発進したパトカー
2台も、どこかへ帰ってゆく。
「終」マーク、○C1959。
※おそらく東京中央郵便局屋上からの撮影。早朝のこととて、交通信号機は点滅している。
右に東京駅のレンガ駅舎、左手に丸ビル、新丸ビル、国鉄本社。整然と揃った美しい景観だ。
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