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■即席映画狂 第1部■

 ※黄金時代の日本映画を、にわかマニアが2010年代からランダムに振返る。
  時にお節介に、データの押売が鼻につくも、御容赦。
  脚本、プレスシート、キネ旬等の資料を鵜呑みにせず、鑑賞による検分にて。
  各作品を観ていない方に、梗概を説明する趣旨ではありません。
  観終わった後で、思い出す助けにでもなれば。

 →即席映画狂 トップページ →即席映画狂第2部【101〜】

【28】シリーズ・事件記者(1959〜62)

  →【日活事件記者 小事典】 →【日活版事件記者おぼえがき】


【00】シリーズ刑事物語(1960〜61) →【特集】

 ▼【01】▼ →【101】


【100】君も出世ができる(1964)
【99】父子草(1967)
【98】地方記者(1962)
【97】花のお江戸の法界坊(1965)
【96】童貞先生行状記(1957)
【95】駅 STATION(1981)
【94】大いなる驀進(1960)
【93】三十六人の乗客(1957)
【92】高度7000米 恐怖の四時間(1959)
【91】キングコング対ゴジラ(1962)
【90】かも(1965)
【89】警視庁物語 ウラ付け捜査(1963)
【88】拳銃0号(1959)
【87】希望の乙女(1958)
【86】旅情(1959)
【85】人間に賭けるな(1964)
【84】日本暴力列島 京阪神殺しの軍団(1975)
【83】東京湾(1962)
【82】野獣狩り(1973)
【81】ひとりぼっちの二人だが(1962)
【80】ギャング同盟(1963)
【79】明日は月給日(1952)
【78】もぐら横丁(1953)
【77】好人物の夫婦(1956)
【76】愛情の都(1958)
【75】警視庁物語 行方不明(1964)
【74】喜劇 男の泣きどころ(1973)
【73】橋(1959)
【72】東京の恋人(1952)
【71】特急三百哩(1928)
【70】アリバイ(1963)
【69】私は負けない(1966)
【68】月曜日のユカ(1964)
【67】おんなの細道 濡れた海峡(1980)
【66】続・酔いどれ博士(1966)
【65】ダニ(1965)
【64】硝子のジョニー 野獣のように見えて(1962日活)
【63】誘惑(1957)
【62】集金旅行(1957)
【61】ゴジラ(1954)
【60】閉店時間(1962)
【59】山鳩(1957)
【58】次郎長社長と石松社員(1961)
【57】サザエさんの青春(1957)
【56】背後の人(1965)
【55】重役の椅子(1958)
【54】川のある下町の話(1955)
【53】泣いて笑った花嫁(1962)
【52】はだしの花嫁(1962)
【51】のれんと花嫁(1961)
【50】ふりむいた花嫁(1961)
【49】わたしの凡てを(1954)
【48】愛人(1953)
【47】花嫁のおのろけ(1957)
【46】恋人(1951)
【45】33号車応答なし(1955)
【44】真田風雲録(1963)
【43】嵐を呼ぶ楽団(1960)
【42】サラリーマン目白三平 うちの女房(1957)
【41】人形佐七捕物帖 めくら狼(1955)
【40】流れる(1956)
【39】結婚のすべて(1958)
【38】踊りたい夜(1963)
【37】風流温泉日記(1958)
【36】喧嘩鴛鴦(1956)
【35】早射ち野郎(1961)
【34】香華(こうげ 1964)
【33】その壁を砕け(1959)
【32】おかあさん(1952)
【31】愛染かつら 総集篇(1938・39)
【30】赤い鷹(1965)
【29】人間狩り(1962)
【28】[シリーズ]事件記者(1959〜1962)
【27】地図のない町(1960)
【26】黒い画集 あるサラリーマンの証言(1960)
【25】吹けよ春風(1953)
【24】彼奴を逃すな(きゃつをにがすな 1956)
【23】我が家は楽し(1951)
【22】花ひらく娘たち(1969)
【21】麦秋(1951)
【20】浮草(1959)
【19】鉄砲玉の美学(1973)
【18】最後の切札(1960)
【17】黄色いさくらんぼ(1960)
【16】空の大怪獣 ラドン(1956)
【15】涙を、獅子のたて髪に(1962)
【14】特急にっぽん(1961)
【13】時をかける少女(1983)
【12】幸福の黄色いハンカチ(1977)
【11】お国と五平(1952東宝)
【10】可愛いめんどりが歌った(1961)/夢でありたい(1962)
【09】充たされた生活(1962)
【08】人間蒸発(1967)
【07】若い樹(1956)
【06】こだまは呼んでいる(1959)
【05】抱かれた花嫁(1957)
【04】新・事件記者 殺意の丘(1966)
【03】空かける花嫁(1959)
【02】現代っ子(1963)
【01】七人の刑事 終着駅の女(1965)


 →【101】


【100】君も出世ができる(1964東宝)監督;須川榮三  →【101】 →【99】

 まさに圧巻のミュージカルシーン「♪アメリカでは」。
 雑然としたオフィスが、カラフルに模様替されてゆく。青いスプレーで、そこら
ぢゅうを塗替えて跳び歩く、白いツナギ姿のペンキ屋ふたり。
 向って右のずんぐりした男が、「和っちゃん先生」こと泉和助
 左の背の高い男が、NHK「できるかな」の「のっぽさん」高見映。ともに、ノ
ンクレジット。

 夜の丸の内ロケ、後年のマイケル・ジャクソン「スリラー」を思わせる群舞
「♪男いっぴき」。ラストで一人だけマッチが点かない。

 工事現場のネコ車が、二輪の古いタイプ。

 道路標識が、現在のものに変わる過渡期。駐車禁止の標識が、セットの工事現場
は、現在のデザイン、箱根のドライブウェイには「駐」の字をあしらった四角い旧
デザイン。

 東和観光のオフィス、改装前には、課長・有島一郎の横にあった二宮金次郎像が、
「♪アメリカでは」の後には自由の女神になっている。

 ラストシーンのゴルフ場、ブルドーザーに乗っている高島忠夫フランキー堺
来訪に、「ちょっとこれを」、と運転していた部下に図面の画板を渡す。降りよう
とする部下、画板のひもが、シフトレバーにひっかかる。2回引張っても取れない
のだが、そのままオーケーカット。


【99】父子草(ちちこぐさ)(1967東宝・宝塚)監督;丸山誠治  →【100】 →【98】

 父子草とは、なでしこの別名なんだそうだ。
 美しいモノクロームの画面にあふれる情感。夜のおでん屋台を中心に、淡路恵子
と、主演・渥美清の人情噺。
 若い石立鉄男、そっと寄添う星由里子。それを見守る、踏切の警報器(電鈴式)。

 設定は東京だが、陸橋下の淡路の屋台のロケ地は、大阪・十三(じゅうそう)。
後ろを駆け抜けるのは、阪急神戸線。

 ……と推定していたけれど、訂正。阪急箕面線の石橋駅を出たところの陸橋、踏
切。「石橋住宅センター」という看板が、ちらちら映る。
 過日、筆者こと寒空はだかは、たまたま神戸の古書店で、本作のロケ写真を発見。
石橋駅付近でロケと注釈がついていた。2019年10月、「石橋阪大前駅」と改称。
 沿線在住でなくとも関西人ならピンとくる、シックな装いの阪急電車だ。セット
の屋台シーンでは、電車の窓灯りを再現する、特製の照明装置が活躍する。屋台の
横のフェンスに掲げられた「三宝建設」の看板は、電話番号から推定して、おそら
く撮影用のダミー。このおかげで、夜のシーンのセット撮影に違和感がない。
 宝塚映画おなじみ、醤油はヒガシマル。ミルクマリンは登場しない。

 渥美清が、一見乱暴者、しかし、不器用で情にもろい男を演じる。テレビの
「男はつらいよ」よりは前、「泣いてたまるか」を放映中の頃の作品である。
 これまた、淡路恵子らしい、サバサバした屋台の女将は、神田生まれの江戸ッ子。
石立鉄男が、あまりに若い、モジャモジャ頭の「チー坊!」のイメージではないの
で、冒頭では誰だか分らなかったが、激昂すると、やはり石立なのであった。
 苦学生の石立は、ご飯だけの這入った弁当箱を持って来る。そのおかずに、細々
とおでんを買って食べるのだ。脚本は木下惠介。

 どっと笑うて立つ浪かァぜのォー、ハイーハイーハイー (佐渡相川音頭)

「雨が降らないといいんだけど……。」
「どうもあぶないよ。電車の音が近いもの。」

 生きていた英霊、夜のプール、夜逃げとノート、そして大辻伺郎。


【98】地方記者(1962東宝)監督;丸山誠治  →【99】 →【97】
 →キャスト等

 映画全盛期の東宝を、代表する美人スターのひとり、白川由美
 晩年までTVドラマで活躍を続けたから、往年の大スターではなく、現役女優と
して、世間での認知度は高いと思われるが、映画作品で白川由美の代表作というと
なんだろう。
 後世に名を残す作品で、あまりこれといった役がないのである。


 本作で白川は、──まるで家族経営の商店のような──新聞社の地方の通信局を
切盛りする。局長・フランキー堺、といっても部下は1人、田舎警察の駐在さんの
ようなもの、常に外にいるから、通信局の運営は、妻・白川が一人でこなす。電話
番、写真の現像・焼付け、写真電送。もちろん、炊事洗濯、家事一切も彼女の役目
だ。
 頑固な夫・フランキーのわがままを懐深く受けとめ、幼い娘の面倒をみて、時に
は、新米の若い記者・夏木陽介を母親代わりに見守る。
 他作品の白川は、美人が鼻についたり、冷たくて気が強い印象が多いのだが、本
作では、芯が強くて優しくて家庭的で、なにより夫の仕事を理解して愛している。
芝居も細やかで自然だ。
 少し硬い表情が、かえってリアリティを出しているのか。新珠三千代だと、もっ
とウェットになる。

 さて、前置きが長くなったが、本作の主人公は、その白川の夫を演じる、
フランキー堺である。
 大手全国紙「東朝(とうちょう)新聞」の地方支局、その下で、「平尾市」に駐
在する通信局員「中野俊次」を演じている。
 オープニングに、「朝日新聞社通信部編『地方記者』より」。
 福島県浜通りの中心、現・いわき市が舞台であることは、「平尾」という地名に
も暗示されている。合併前の旧・平市内の設定で、東朝新聞、平尾通信局がある。
「──だんす。」「──たんせ。」 街の人々の会話はズーズー弁だ。
 冒頭、蒸気機関車が走り抜ける田舎の風景。田んぼの畦道で、公用車(FUJI
マークの自転車)に乗ったフランキーは、老巡査・榊田敬二とすれ違う。何か事件
はないか、と問うフランキーに、
「なんも無くて面目ねえす。」
 そのままフランキーは、ズリ山のそびえるさびれた炭坑町、ひなびた漁港……、
事件とは縁遠そうな、平和な受持ち地域を、ペンタックス片手にひと回り。今日も
記事になりそうな出来事は無い。

 春5月。この支局に、新人・夏木陽介が赴任して来て、物語の幕が開く。
 というわけで、新米記者の成長、ベテラン記者が抱く地元と仕事への愛と誇り、
警察との丁々発止のやりとり、他社との抜きつ抜かれつの取材合戦、が描かれる。
こう書くと、ありきたりにみえるが、実際にあったであろう細かいエピソードもう
まく織り交ぜて、佳作に仕上がった。
 白川由美の好演が、まさに内助の功で、本作を支えている。


 山場は、田舎町に起った大事件、工場の排水による漁業被害。ここでは、本社か
ら派遣されたエリート記者達との確執も描かれる。

 ※平市が、周辺の勿来、湯本、磐城(小名浜)などと合併していわき市になるの
 は、本作公開後の1966年。

 ※漁港「江見」のロケ地は、小名浜・江名地区。
  →http://bochibochi-ikoka.doorblog.jp/archives/3348399.html
  →http://blog.livedoor.jp/aryu1225/archives/52131957.html


【97】花のお江戸の法界坊(1965東京映画)監督;久松静児  →【98】 →【96】

 →キャスト※犯人明記

 久松静児+小国英雄+フランキー堺、でマゲ物コメディ。
 松竹から岡田茉莉子榊ひろみ。二枚目、平幹二朗
 ぐるぐるっとかきまぜて、久松監督の遺作は、傑作娯楽映画となった。コメディ
部分のキレが良くて、シリアスな芝居とのコンビネーションが絶妙。
 役者それぞれが、適所できっちり仕事をして、きれいにまとまっているのだ。

 音楽は広瀬健次郎、和物も器用にこなす。

 フランキーの動きの洒脱さは、前年の「君も出世ができる」(1964東宝/監督
;須川栄三)をしのぐ勢いだ。ともすればクサすぎる伴淳三郎も、本作ではテンポ
良いコメディアンぶりである。
 ヨシダのバカ殿・三木のり平は顔芸をおさえて、なお面白い。有島一郎ファンに
は、もの足りないが、まあ、ここでは我慢しよう。だいたい、コメディアン達が、
それぞれ面白いことをやろうとすると、映画はつまらなくなるのである。
 そして、画面をぎゅっと引き締め続ける山茶花究、今回の殊勲賞。

 さて、岡田茉莉子奪還と、百万両の奪取をせんと、向島、二本榎の化け物屋敷へ
乗込む、「掃溜め長屋」連中。
 有島一郎、田崎潤、太宰久雄と山田吾一のコンビ、それに控え目だが、「和っちゃ
ん先生」こと泉和助が、抜擢されてついて来ている。

 よく観たら、掃溜め長屋の突当りに「桶八」。これは「幽霊繁盛記」(1960/
監督;佐伯幸三)の、主役フランキーの葬儀屋。同作で大村千吉が演じた二八そば
の屋台が、それと同じく、桶八の向いに置いてあった。味なことをするものだ。


【96】童貞先生行状記(1957日活)監督;春原政久  →【97】 →【95】

 夏目漱石の「坊っちゃん」を、信州・小諸の女子高を舞台に置換えた宮下幻一郎
原作の、フランキー堺主演作。脚本は柳沢類寿。

 江戸ッ子で一本気な野々宮先生・フランキー、「童貞先生」というアダ名をもら
う。ヤマアラシならぬ山猿先生に河野秋武。野だいこにあたる役を、高品格が、丸
メガネにポマード頭で、嬉々として演じている。
 怒って追いかけるフランキーから、並んだ机の上を両手でバランスをとりながら
逃回る、高品が可笑しい。
 春原&類寿コンビおなじみの、ドタバタコメディである。


 さて冒頭、小諸へ赴任するフランキーを乗せた列車が、信州への関門、碓氷峠の
めがね橋を渡る。アプト式時代の旧線。ED42という横軽専用の電気機関車が先頭、
次位に暖房車をつないだ古めかしい編成だが、新鋭の軽量客車ナハ10系をはさん
でいるあたりが、難所を越える信越本線らしい絵面である。
 ……毒をくらわば、で、マニアックな話を続けると──、列車は軽井沢駅に到着
する。
 ここで、チンピラ2人組、小沢昭一近江大介が乗込んで一悶着。デッキで格闘、
うっかり、フランキーはドアの外へ。当然、列車から落ちて、小諸まで、保線のお
じさんと、軌道自転車をこいで、小諸駅へ向うのだ。


 ※以下の記述に重大な間違いあり。2019.2.24訂正

 マニアックな話は、軌道自転車の件ではなくて、軽井沢駅のホームのシーンであ
る。
 柱に付けられた、縦書きの駅名板、「かるいさわ」と、どうやら濁点が抜けてい
る。おやおや、これは撮影用の小道具ではないか、と推測すると、あにはからんや、
やはりロケに使われているのは軽井沢駅ではないのである。その証拠に、列車の上
に架線が張られているのだ。
 当時の軽井沢駅では、それはあり得ない。なぜならば……。
 ──ややこしくて申し訳ない──横川から軽井沢までの線路は電化されていたが、
アプト式時代なので、地下鉄銀座線同様の第三軌条集電だから、中空に架線はない
はずなのだ。
 ……と、一人合点して、本稿にも長らくそう記述していたのだが、軽井沢駅構内
は架線集電だったそうで、確かに、電気機関車ED42の写真を見ると、屋根にパンタ
グラフが載っている。
 以上、訂正御免。


【95】駅 STATION(1981東宝映画)監督;降旗康男  →【96】 →【94】

「樺太(カラフト)まで聞こえるかと思ったぜ。」

「そういうことか。」

「だけど……、男と女ですからね……。」


 夏の増毛(ましけ)駅前。日本海に面した留萌本線の終点。その先の雄冬(おふ
ゆ)への道路は未開通。
 容疑者・根津甚八が帰って来るだろうと、妹・すず子の働く「風待食堂」の、向
いの旅館で張込む刑事。道警本庁の高倉健と留萌署の小林稔侍。身分は旅館には隠
しているらしい。
 なんとなく、野村芳太郎監督の「張込み」(1958)を思わせるな、と観客が感
じた所に、元東映組から出演の女中・谷本小夜子、[このへんでトラクターの売込
みは大変だね。]
[船舶用の発動機も扱ってるんだけど……。]
 「張込み」でも、宮口精二と大木実が、発動機のセールスマンと偽って、猛暑の
中、旅館に張込むのである。
 そして、張込み7日目。公開捜査に踏切ろうかとあきらめかけた朝、動きが出る
のも「張込み」と同じである。

 となると、倍賞千恵子の役名が「桐子」なのは、「張込み」と同じ松本清張原作、
山田洋次監督の「霧の旗」(1965)へのオマージュと考えるのが自然だ。
 ちなみに、おでん屋「桐子」で、「コップのがいいんじゃない?」と、年末に呑
んでいたのは内地の「白雪(シラユキ)」。年明けに呑んだのは、地元・増毛産の
「国稀(クニマレ)」。

 映画の主な舞台となった増毛駅。ついに2016年12月に廃線になるという。


【94】大いなる驀進(1960東映東京)監督;関川秀雄  →【95】 →【93】

 東京駅で、工員同士の職場結婚とおぼしき新婚夫婦を、同僚たちが見送る。
♪悲しい歌、嬉しい歌、たくさん聞いた中で〜
「仕事のうた」の合唱、新郎新婦の上手(画面右手)で、ひときわ大きく手を振る
男。石橋蓮司であろう。

 その新郎新婦は、名古屋まで2号車の1等指定席に乗車。名古屋駅ホームで、そ
の二人をうらやましそうに見つめる主人公ヤジマ、白詰襟の列車ボーイ(給仕)・
中村賀津雄に、「潮岬は何番線ですか?」と乗場を尋ねる。
 よく見ると、賀津雄の手には、駅弁とお茶。担当号車の客に頼まれたものだろう。


●5列車 特急【さくら】東京16:35→12:25長崎(+30分延着)

先頭 機関車(EF58/C62/EF10/C59/C61)
次位 電源車(カニ21またはカニ22)※土砂崩壊現場発車シーンはカニ22 2
1号車 1等寝台AB(ナロネ22)B開放室に、上田吉二郎、大村文武、小川虎之助
2号車 1等座席(ナロ20)新婚夫婦、土砂崩壊現場で曽根晴美。三國連太郎の部屋
3号車 食堂車(ナシ20)中原ひとみ、古賀京子 ※日本車輌製の内装
4号車 2等寝台(ナハネ20)波島進、花沢徳衛、駆落ちの二人(小宮光江)
5号車 2等寝台(ナハネ20)静岡で捕まる刺客(直木明)は、セリフではこの号車
6号車 2等座席(ナハフ21)佐久間良子、久保菜穂子、母が危篤の少女(大原幸子)

(博多までの最後尾 ナハフ20)※土砂崩壊現場で最後尾に平面ガラスのナハフ20


【93】三十六人の乗客(1957東京映画)監督;杉江敏男  →【94】 →【92】

 →キャスト※犯人明記

「婦人警官って、もう募集しないんですってね?」
 三つ編みにメガネ、ミステリー好きな少女役に、河美智子。淡路恵子の洋裁店
「マミー」の留守番店員。
 近眼の彼女が顔をすりつけるように読んでいたのは、ハヤカワの「ホロー館の殺
人」、アガサ・クリスティー。中学生の頃から婦警志望だったという彼女は、刑事
・志村喬の聞込みに、嬉しそうに答えてしまう。
 河美智子史上でも、指折りのキュートな役。キャストのクレジットではその他大
勢の最後だが、ポスターでは、佐藤允の隣に名前が並び、允と同ランクの扱いであ
る。


【92】高度7000米 恐怖の四時間(1959東映東京)監督;小林恒夫  →【93】 →【91】

 双発プロペラ旅客機のベストセラー、ダグラスDC-3。その日本の一番機、
JA5015大雪号。
 操縦士は高倉健、副操縦士に今井俊二(後に健二)。スチュアデスが久保菜穂子
小宮光江
 羽田を出発、途中、仙台・矢野目飛行場(現在の仙台空港に同じ)に寄港して、
札幌・千歳に向う、北日本航空108便、31人乗り。東京札幌間の運賃は11,700円。
 所定では羽田13:50発、仙台15:10/15:40、千歳到着17:30。
 大卒の初任給が10,200円の時代、まだまだ高嶺の花の飛行機に乗り合わせる様
々な乗客模様。殺人犯・大村文武がピストル持って逃避行に乗り合わせて、空の密
室が迷走を始める……。

 さて、作品の出来不出来とかリアリティについては、観た人がそれぞれ判断すれ
ば良いとして(本稿筆者は、十分楽しいのだ)、飛行機を題材にした映画として、
なかなか貴重な作品なわけである。
 北日本航空、NJAというのは、実在した、北海道資本の航空会社で、後に日東
航空、富士航空と合併して、日本国内航空。以後、(東亜航空と合併して)TDA
東亜国内航空からJAS、さらに併合されて、今は日本航空。
 当時の映画では、飛行機が空を飛ぶシーンはたいてい模型で代用している時代に、
実際に飛行する映像が、ふんだんに登場する。つまり、もう一機、並行させて撮影
しているのだ。
「協力」として冒頭にクレジットもされているNJAの全面バックアップで製作さ
れた本作品ならではの、クオリティ。復興期の本邦航空史上の記録としても貴重な
作品となった。

 ところが……。

 この、NJAの羽田千歳線というのが、ウソ、といっては可哀想だが、架空の路
線だったのである。
 道内ローカル線への就航を目論んで、中古のDC-3を購入したNJA、さっぱり
運輸省の認可が降りず、2年前に、ようやく丘珠空港(札幌)から、道内に、週何
便かの季節運航(毎日運航ではないということ)を開始したばかりであった。
 そして、歴史上、一度もNJAが、羽田に定期路線を持ったことはなかったので
ある。
 でもいいのだ。ジリ貧の弱小航空会社が、起死回生の一手として、東映と組んだ
おかげで──どういう経緯で企画がまとまったかは知らねども──、白いボディに青
いラインの、短命に終わった「北日本航空」という会社の飛行機が、鮮明なカラー
フィルムの中に、克明に記録されているというのは、奇跡的な幸運なのである。

 ※参考 ヒコーキ雲 > 日本におけるダグラスDC-3研究
http://dansa.minim.ne.jp/


【91】キングコング対ゴジラ(1962東宝)監督;本多猪四郎   →【92】 →【90】

 東宝が、21世紀の東宝マニアに残してくれた贈り物。
 表向きの主役は、もちろん2頭の怪獣だが、本当に暴れまわるのは、高島忠夫
藤木悠、そして有島一郎。特に有島は、アクセル全開である。
 トランジスタラジオから流れる歌を、中島そのみが歌っているのも嬉しい。

「ゴジラは死んだはずじゃないんですか?」
新聞記者が、シゲザワ博士・平田昭彦に尋ねる。それよりも、平田自身に、死んだ
んじゃなかったんですか、と客席から問いただしたくなるではないか。


【90】かも(1965東映東京)監督;関川秀雄  →【91】 →【89】

「チャッカリ屋のノリちゃん、男にだまされたげな。あ、こりゃこりゃ、どじゃど
じゃ。」

 梅宮辰夫に捨てられた緑魔子。明け方の東銀座、万年橋の公園で自嘲する。あま
りの悔しさと馬鹿馬鹿しさにか、涙も出ない。アオリ気味で魔子を描く。哀しくも
美しい朝のシーン。バックに流れる内藤法美の音楽が、優しく切ない。
 この後、不幸の駄目押しが待っていることを、ノリちゃんは知らない。

「ゆるされてェ。」大原麗子、赦さない蜷川幸雄


【89】警視庁物語 ウラ付け捜査(1963東映東京)監督;佐藤肇  →【90】 →【88】

 →【114】警視庁物語 顔のない女(1959)
 →【120】警視庁物語 遺留品なし(1959)
 →【103】警視庁物語 深夜便130列車(1960)
 →【121】警視庁物語 血液型の秘密(1960)
 →【122】警視庁物語 聞き込み(1960)
 →【136】警視庁物語 十五才の女(1961)
  【89】警視庁物語 ウラ付け捜査(1963)
 →【123】警視庁物語 全国縦断捜査(1963)
 →【75】警視庁物語 行方不明(1964)

 シリーズ第20作。
 迷宮入り事件の犯行を自供した留置中の男。この男が犯人かどうか疑わしいので、
その裏付けをしてゆくという、ひねった内容。演出の仕方も、かなり凝った意欲作
である。
 情報量の多さも他のシリーズ作品同様で、細かく作り込んである。

 登場する所轄の警察署は、浅草署と世田ヶ谷署。それに、迷宮入りしていた「オー
トレース場裏殺人事件」は、捜査簿の表紙によると、「西多摩署」(架空)とある。
そこへ、新潟県は小千谷の在の駐在所も加わる。
 ちなみに、事件現場近くのランドマークが「多摩オートレース場」ということに
なっているが、これも架空で、ロケは川口オート。バックに今はSKIPシティになっ
た、NHKの送信所の2本の鉄塔が映っている。
 みどころは、いろいろあって簡単には書けないので、機会を移す

 さて、刑事達の奔走によって、ようやく、無銭飲食で留置されていた川村正直
(かわむらまさなお)・井川比佐志が殺人犯であることが証明される。しかし、何
度作品を観直しても解明されない疑惑が、一つあった。
「アタシのように戦前から捜査課でメシを食ってるとね……。」と、戦後の、自白
だけでは犯人にできない捜査方法を感慨深く話しだす、ベテラン刑事ハヤシ・花沢
徳衛。
 長いワンカットの中の長ゼリフ。この花沢徳衛、カンペ、カンニングペーパーを
見ているのではないか、という疑惑である。

「そういうのは罪にならないんですか、刑事さん。」アパート管理人・澤村貞子


【88】拳銃0号(1959日活)監督;山崎徳次郎  →【89】 →【87】

【メモ】
●宍戸錠が、裏切者・待田京介の裁きをつけに行く貨物駅……新鶴見操車場
──登場する蒸気機関車「C50 93」の所属機関区から推定。
   操車場をまたぐ「下路ボウストリングトラス」式(橋梁は専門外なので、まちがっているかも
   しれないが)の跨線橋が2度ほど映る。このほぼ真下付近で撮影されている。
   ネット上で写真が1点しか見つからないが、どうやら人道橋らしい。本作では、宍戸錠達の乗っ
   た乗用車が、橋を渡って線路脇にスロープで降りてくる様子なので、また別の橋かもしれない。
   江ヶ崎跨線橋でないことは確かである。
   ※参考「しゅうちゃんのお出かけ日記」
http://sl-taki.blog.so-net.ne.jp/archive/200901-1 (No301)5枚目の写真

●浜村純の下宿はおそらく越中島。対岸は佃島の石川島重工業(現・リバーシティ)。

●川地民夫と稲垣美穂子、夜明けの埠頭……日の出埠頭
──完成後間もない東京タワーが映る。芝浦運河を渡って(南浜橋)、港湾局の貨物
線を2本横切って三角屋根の倉庫群が並ぶ岸壁へ。
   ※参考「廃線探索 芝浦埠頭貨物線(歩鉄の達人)」
http://www.hotetu.net/haisen/kanto2/110123shibaurafutousen.htm

●バタ屋がチンピラ・近江大介に拳銃を売る、山手線高架のレンガアーチ、高架下
に、2014年まで営業した映画館「新橋文化」の看板がちらり。

●浜村純が、拳銃を届けようとする築地警察署。玄関から護送車に乗せられる繋がっ
た連中の最後尾が、安部徹の情婦・南風夕子。自首したということか。

●浜村純が、弟の修学旅行の参加費のために、愛するバイオリンを、三千円で質入
れ。その質札の日付によると、4月10日が、物語の2日目。
 翌日朝、ラストシーンの数寄屋橋では、電光時計が、5:48を表示している。

●日活撮影所に勤務した大西俊郎氏のウェブ日記「愛・青春 映画日記」によれば、
劇伴の演奏は、猪俣猛とウエストライナーズ。あの印象的なドラムは、2016年現在
も現役のイノさんなのであった。(2009年06月01日付)


【87】希望の乙女(1958東映東京)監督;佐々木康  →【88】 →【86】

美空ひばり 芸能生活十周年記念」、母・加藤喜美枝の原案。笠原良三、笠原和
夫のダブル笠原、脚本。ひばりの、ひばり一家による、ひばりのための映画。
 山村聰、孤軍奮闘。埋もれるべくして、埋もれた映画ではあるが、見所は多い。

 完成間近の東京タワー。よく見ないとわからないかも知れないが、頂上のアンテ
ナがまだ上がっていない。

 ひばり達が、公園を造るために、デッキでチャリティー演奏をする東京湾遊覧船。
興安丸」。かつて関釜連絡船として、日本領だった朝鮮半島と内地を結び、戦後、
シベリアからの引揚船として、舞鶴港へ抑留者を運んだ、有名な船である。「岸壁
の母」が、息子の帰りを待ち続けた船だ。それが、引揚げ事業終了後、観光船とし
て使用されていたとは。
 興安丸のシーンからの転換のアクセントに、海上要塞跡の第二海堡らしき実景が
挿入される。

 ひばりが中心となる、ショーのシーンは楽しい。中でも、探検家スタイルでライ
フルを手に、「アフリーカ!」と歌うナンバー。4匹の猛獣のぬいぐるみは、ダー
クダックスが演じている、という設定。
 ぬいぐるみの動きと、ひばりの振付けもマッチして、良い出来。ダークは歌う、
「虎でも女はこわい」と。……猛獣が、虎なのだ。この虎が愛らしくてまた良いの
だが、御承知の通り、アフリカに虎はいないのが惜しい。

 サックス奏者、高倉健が率いる「ゴールデンエイセス」。テナーサックスが見覚
えのある顔、杉義一。オープニングでクレジットもされている、役者で編成された
バンド、「東映アクターズバンド」らしい。

 若き美空ひばりは、江戸の町娘や男装をしてこそ映える、と再認識する。ラスト
でテーマ曲「歌声は虹の彼方へ」を歌うと、すべてをチャラに、まとめあげてしま
う力は、さすがに美空ひばりなのであった。


【86】旅情(1959大映東京)監督;田中重雄  →【87】 →【85】

 この年、パンナムのジェット機・ボーイング707が、日本に初就航。プロペラ機
にかわって、羽田からホノルルへ、ひとっとび。
 というわけで、パンナム協力でハワイロケ敢行。
 ヒロイン・山本富士子。優柔不断に女心をもてあそぶ、おなじみ川崎敬三という
メロドラマ。べそをかく役はこれも指定席、野添ひとみ
 終盤、ホノルル空港の片隅で、富士子と敬三が、延々ぐじゅぐじゅと別れを惜し
む。フライトを待つN914PA、アナウンスによれば、96便東京行“Golden Eagle”。

 さて、本作は、同年に日本進出をしたペプシコーラとタイアップの模様で、そこ
ここに、ペプシのロゴや、飲んでいるカットが出てくる。
 日系3世ジュンコ・野添ひとみ、プールサイドの売店で、コーラを注文する。
「コーク、トゥー!」
──もちろん出てくるのはペプシコーラなのだが……。


【85】人間に賭けるな(1964日活)監督;前田満州夫  →【86】 →【84】

 渡辺美佐子、絶品。
 藤村有弘が渋い二枚目役。いつもの怪しさもコミカルさも封印、話の進行役にな
る。この二人が主人公で、濡れ場もサービス。
 仲を取り持つ競輪選手・川地民夫。本能のままにノホホンと。人の気も知らず、
嬉しそうにペダルを漕ぐ。
 クレジットの一枚目に、この3人、美佐子、民夫、有弘が並ぶ。

 宣材スチールの、金網越しの美佐子が、不細工に写っていてもったいない。もっ
たいないといえば、連込み宿の女中役で、1シーンだけ出演の原知佐子。
──と思っていたのだが、違いました。大変失礼、訂正します。
 クライマックスに、満を持して、オヤブン・二本柳寛が登場。ザ・二本柳。

藤村有弘………外資系社員サカザキ  会社の金で、本命に賭けたが、15万の大損。
渡辺美佐子……酒井組の「アネさん」小松妙子  元、浅草の少女歌劇の踊り子。
川地民夫………競輪選手、飯田栄治  酒井組の息がかかっている。
結城美栄子……美佐子の夫の姪ミヨコ  川地と結婚したいと思っている。
二本柳寛………美佐子の夫・酒井組長、松吉  おなじみ。

 藤村有弘の「天国と地獄」で踊る、渡辺美佐子。


【84】日本暴力列島 京阪神殺しの軍団(1975東映京都)監督;山下耕作  →【85】 →【83】

「花木だす。」

「そうやな、わいらには、墓はないもんな。」

「アンタ、コワイ男だ。」

♪満鉄小唄
あめのしょぽしょぽふるぱんに からすのまとからのつぉいてる
まんてつのきんぽたんのぱかやろう

赤い傘。


【83】東京湾(1962松竹大船)監督;野村芳太郎  →【84】 →【82】

 浜村純のギョロ目に始まり、息つく間もなく目まぐるしく突っ走って、衝撃の結
末。
 東京東部のきゅうくつな空間で犯人を追う所轄の刑事・西村晃。コンビを組むの
は本庁の若手・石崎二郎、晃の妹・榊ひろみと結婚を約した仲。しかし、石崎が優
秀な刑事ゆえ、妹をやりたくない晃。
 容疑者・玉川伊佐男(クレジット「伊佐夫」)は、晃の戦友だった……。
 ベテラン刑事のカン。戦友同士の葛藤。
 一服の清涼剤、玉川の妻、やや知恵遅れだが明るい葵京子。きらめく荒川の水面
と、無垢な葵。待受ける運命が切ない。

 晃、榊兄妹の家は、東京都の東のはずれ、今の江戸川区江戸川。トロリーバスの
今井車庫
裏。画面の奥に、トロリーバスがちらちら見えて、落ち着かない。


【82】野獣狩り(1973東宝/監督;須川栄三)  →【83】 →【81】

 犯行グループが、藤岡弘を連れて乗込むウグイス色の山手線。
 ドアが閉まって走出す。効果音が玉電だ。独特のポーというタイフォン(警笛)
に吊掛けモーターの音。真面目にやってもらいたい……。

 とはいえ、面白い作品だということに、異存はない。


【81】ひとりぼっちの二人だが(1962日活)監督;舛田利雄  →【82】 →【80】

 主役のコンビはおなじみ、吉永小百合浜田光夫。半玉とチンピラ。どちらも半
人前。
 タイトルの元になる主題歌を歌う坂本九、狂言まわしだが、ポスターではトップ
クレジット。見方によっては主人公。
 二枚目役が高橋英樹。プレスシートや日活公式サイトでは、キャストのトップ。
 二番手のヒロインが、渡辺トモコ。以上、5人が主要キャスト、それぞれに「ら
しい」役。そして……。
 クライマックスで危機を救うヒーローは、高品格
「今の気持ちを忘れるな!」

 映画作品で、コメディアンを任された時の坂本九は、道化ぶりを作りすぎた演技
が気になるけれど、本作では、ダニー・ケイばりにスマート。「九ちゃん刀を抜い
て」(1963東映京都/監督;マキノ雅弘)と並ぶ、いい仕事ぶり。

 浅草を舞台にする映画作品群の中でも、ロケシーンの楽しさは屈指。他に、設定
として柳橋。ロケ地として、南高橋(現、中央区新川と湊の間)の舟溜り。

 青木富夫、榎木兵衛、柳瀬志郎、水木京二、木島一郎のロイヤルストレートフラッ
シュ!

 九が吉永をかくまっていた、自称スミダビル、渡辺曰く「鳩の番小屋」が屋上に
あるオンボロビル。
 1階の看板には「クリーニング白泉舎」。撮影用の道具くさいが、よく見ると、
墨田区寺島3丁目とある。もし本当ならば、今の堤通1丁目、首都高速向島ランプ
の近所。吾妻橋から1〜2キロの隅田川東岸。つじつまは合うが、画面からすると、
かなり街中にある雰囲気なので違うかもしれない。隣の茶色いビルは、役所風の建
築だが……?。

 九の働くレビュー小屋は、今はなき中映ビル(浅草で最後まであった映画館群)
の裏側。2016年の2月時点では、なんとパチンコのマルハンが工事中。
 浅草文芸坐なるか?
「吉野組」の入口には「浅草神農会」と看板が出ているので、テキ屋である。横の
駐車場は、場外馬券売場WINSの裏側だ。驚くことに、50年後も空き地で、ほと
んど雰囲気が変わらない。ただし、2016年2月現在、老人ホームの建設予定の
標示が出ている。
 その駐車場の奥に、この作品でもちらりと映る呑み屋街。「初音小路」。ここと、
花やしき前の通りの間の路地は、「喜劇 にっぽんのお婆あちゃん」(1962)で、
よれよれの北林谷栄が、チンピラ相手にタンカをきる所。
 現・演芸ホールは、東洋劇場の看板を出している。


【80】ギャング同盟(1963東映東京)監督;深作欣二  →【81】 →【79】

三田佳子「このビール、なかなかいけるわね。」
 タカラビール大々的に協賛。

 御本人にはなんの罪もないけれど、菅義偉官房長官にどうもひっかかるのは、顔
が○田研二に似ているからだ。(2016.2.1現在)

 ……薄田研二ね。珍しくも現代劇への出演で、「組織」の親分をふてぶてしく演
じる。


【79】明日は月給日(1952松竹大船)監督;川島雄三  →【80】 →【78】

 →キャスト

♪あす〜は楽しい月給日
 むやみに楽しいテーマソングで始まる、からっとした人情コメディ。
 日守新一英百合子夫婦の大家族。スエコ・東谷暎子の下に、トメオ。さらに、
その下にできた子供はノゾミと名付けられている。らしさ発揮の渡辺篤をはじめ見
所満載。

 主題歌を歌う鶴田六郎・久保幸江コンビ。鶴田は経済観念に長けた学生、日守の
三男役。歌手とは思えぬ器用な演技。
 鉄道マニア的には、改装前の東急の緑ヶ丘駅(現・緑が丘駅)。日守一家の最寄
り駅として、色々な角度で登場。ツートンカラーの大井町線が進入する高架ホーム
のシーンもある。

 そして貴重な演芸資料としては、先代「おばあさんの」古今亭今輔と桂小金治、
落語家の師弟役での出演がある。

古今亭今輔……今昔亭なん馬(なんば)、ヒロイン・紙京子の父
桂小金治………今昔亭とん馬(とんま)、今輔の弟子、紙に片思い

 今輔が小金治に、家で稽古をつけるシーン。そして、極めつけは寄席のシーン。
 高橋貞二が、紙京子を連れて、寄席にやってくる。客席は畳敷き。高座では、音
曲漫才の都上英二・東喜美江から桂小金治へリレー。転換シーンに楽屋がはさまっ
て、袖で三味線をひく下座さん。小金治が英二に、
「キンちゃんはどうです?」「いいお客だよ。」
なんという、映画を観ている観客にはわからない符牒の会話。
 川島監督と組んで、まだ2本目の映画出演の小金治。話の本編にははいらないが、
古典のマクラがたっぷり聞ける。そのまま映画界に連れ去られるには惜しい、幻の
名人の達者な落語。「羽織の大将」の時より、数段いい姿である。

 その寄席「新橋烏笑亭」(烏森付近の設定だろう)で、貞二と紙を案内するお茶
子に谷よしの。給料の遅配に、会計課長・日守をなじる社員に大杉莞児(侃二郎)。


【78】もぐら横丁(1953新東宝)監督;清水宏  →【79】 →【77】

「おとうちゃん、あたしも喜んでいい?」
「いいとも。」

 尾崎一雄のヨシベエもの。
 あっけらかんとした島崎雪子。ほのぼの佐野周二。ザ・日守新一。
 西早稲田「大観堂書店」、21世紀にも、同じようなたたずまいで健在。(場所は
移動しても、早稲田通り沿いに。)

 おしめは借金取りの合図、どら焼、「遠慮のカタマリ。」


【77】好人物の夫婦(1956東宝)監督;千葉泰樹  →【78】 →【76】

「いやなことしちゃ、いやァよ。」



【76】愛情の都(1958東宝)監督;杉江敏男  →
【77】 →【75】

 映画全盛期に、東宝が誇る美男美女、宝田明司葉子で撮ったメロドラマ。プレ
スシートにもある通り、豪華なキャスティングだ。

 なんと、一万慈鶴恵と河美智子の女中共演なのである!
 しかも同じ一軒の屋敷に雇われているのだ。社長の息子、ムラタクニオ・宝田明
の家。父は柳永二郎、母は夏川静江。
 まず電話を受ける女中が、河美智子。次のカット、宝田の母、夏川の肩をもんで
いる一万慈鶴恵。おなじみ和装にメガネ。切り返して、電話の内容を伝えにくる河。
 登場シーンはここだけだが2人とも、きちんとクレジットされている。

 そして物語の大事な舞台になる、御茶ノ水の喫茶店(バー)「カビリア」。司の
義姉、マダム・草笛光子の下に、バーテン・佐田豊。女給三人娘が北川町子宮田
芳子
森啓子
 バタ臭い美人顔、ちょいとお姐さんな宮田芳子。ショートヘアーの角張った顔が
森啓子。どちらも東宝おなじみの、ちょい脇役。
 宮田、森の一つ下のランクで、いつもクレジット当落線上の記平佳枝も、堂々名
前入り。司が流れ着く、新宿の場末のキャバレーの女給。わりあい、セリフもある。

 美しい、村木忍の美術
 そしてもう一つ、淡路恵子が登場するシーン、みんな納得の反応が客席に。



【75】警視庁物語 行方不明(1964東映東京)監督;小西通雄 
【76】 →【74】

   ※2016.1.21修正 →詳しい調書

 →【114】警視庁物語 顔のない女(1959)
 →【120】警視庁物語 遺留品なし(1959)
 →【103】警視庁物語 深夜便130列車(1960)
 →【121】警視庁物語 血液型の秘密(1960)
 →【122】警視庁物語 聞き込み(1960)
 →【136】警視庁物語 十五才の女(1961)
 →【89】警視庁物語 ウラ付け捜査(1963)
 →【123】警視庁物語 全国縦断捜査(1963)
  【75】警視庁物語 行方不明(1964)

 うどんをすする花沢徳衛、のんびり昼食をとっている刑事達のシーンから映画は
始まる。
 今回は、捜査一課長・松本克平の知人、太平皮革の技術部長・加藤嘉の依頼によ
り、その日の在庁番、おなじみ、警部トガワ主任・神田隆以下の刑事達が、消えた
2人の技師の行方を追うことになる。
 冒頭、依頼シーンに続いて、タイトル。警視庁を出発、現場に向う車内からの視
点の道中が楽しい。有楽町のガードをくぐって、晴海通り。三原橋の交叉点を左折
して昭和通り。上野駅前から浅草松屋を左に見て、白鬚橋で隅田川を渡る。例によっ
て、無駄のある行程だが、最終的には、木下川(きねがわ)地区、今の墨田区東墨
田が目的地だと思われる。
 裏側が旧中川の、広大な皮革工場。内部のロケシーンがふんだんにあって、興味
深い。

 手頃な美人、小林裕子はアルサロの女給。後の山守組長夫人、木村俊恵は、まだ
珍しそうなトリマー。木村の元姑、岡村文子、寺島6丁目(玉ノ井、今の東向島駅
あたり)在住。
 東映の万能おばさん、戸田春子は、失踪した小山技師のアパートの管理人。その
アパートの窓から建設中の高架橋は地下鉄日比谷線の南千住付近ではないかと推測
したが、冒頭に示された身上書では、亀戸3丁目(天神付近)在住であった。
 ヒロイン、太平皮革BG西田・水上竜子が登場して、膠着状態がようやく動き出
す。

 クライマックスは浅草。犯人を追って、目撃情報を頼りに刑事達が浅草の街を駈
け歩く。あまりに忙しく歩き回るから、細かいところは判明しない。主任神田が待
機する喫茶店ベルが、電柱の住居表示から雷門2-17(雷門の南西側)の前。雷門通
りとの位置関係から類推すると、今のスーパー・オオゼキの路地か。
 浅草寺は本堂前や二天門。仲見世、六区興行街、五重塔通り(現・奥山おまいり
まち)、花やしき、といった所を聞き込み歩く。
 大勝館(現・ドンキホーテ)向いの新聞売りのおばさんの証言で、ついにつきと
める。
 流れるように行き着く先が、今の場外馬券売場にあった新世界ビル。松屋の屋上
は良く出てくるが、新世界のフロアや屋上のロケシーンは珍しい。
 ラストカット、新世界前に群がる群衆。画面左隅に、バナナの叩き売りの屋台
見える。


【75-3】警視庁物語 行方不明(1964)監督;小西通雄 ※蛇足  →【75】

 クライマックス、浅草六区を、犯人を追ってかけめぐる刑事達。
 2016年現在には、1軒もないなどと想像できないくらい、林立する映画館。
 看板の中に、「史上最大の作戦」。名作、“THE LONGEST DAY”である。
 日本公開は1962年。翌年公開の「下町の太陽」(1963山田洋次)にも、
大勝館の前に「史上──」の大看板がある。ひょっとして同じ頃のロケか、と思っ
たが、「行方不明」は、そのまた翌年の公開なので、当然、別の時期、別の映画館
であろう。
 ビートたけしさんが、初めてお兄さんと観に行った映画が、大勝館の「史上──」
だという記述を見つけたので、この3つが重なれば面白いなと推理したのであるが、
本作品とは関係ないのであった。


【74】喜劇 男の泣きどころ(1973松竹大船)監督;瀬川昌治  →【75】 →【73】

 舞台は、文字通り舞台が、ストリップ小屋の舞台が登場する。ストリップ小屋と
いえば……、老ストリッパー・メリー桃原として賀原夏子
「6年ぶり」という出番は、残念ながら叶わないのだが、往年の舞台写真として、
賀原のヌード披露。ファン狂喜、本物かどうかなんか問題ではない。
  →●【40】流れる(1956)
  →●【20】浮草(1959)



【73】橋(1959松竹大船)監督;番匠義彰  →
【74】 →【72】

 いわゆる「大船調」というものの定義がまだ腑に落ちていないので、この作品が
その範疇に含まれるのかどうかは知らないが、好き嫌いの分れる映画だろうことは
わかる。
 好みの問題であるから、嫌いな方は嫌いでかまわない。私・寒空はだかは、番匠
監督ファンであり、本作も好きなのである。
 おしなべて、インターネット世代には熱狂的ファンのつかない分野らしく、他の
大船作品同様、ネット上に具体的データが少ない。
 個人的には、が可愛らしくて、ざらざらした画面のカラーフィルムで
1950年代の東京が映し出されれば、それだけでも8割がた満足である。

 赤富士に、誇らしげにせりだしてくる「グランドスコープ」。
 オープニングは番匠監督御得意の、青空を映す水面。水上からの勝鬨橋にタイト
ル。橋の上を走る都バスは、三吉橋から区役所の脇を通って、備前橋の方向から築
地川南支川沿いに、暁橋を右折。
 聖路加病院の塔の見える、この暁橋前の細い道は、「如何なる星の下に」(1962
豊田四郎)のおでん屋「惣太郎」の前の道である。ルートとしては無理があるが、
監督 番匠義彰と文字が出て、バスは「明石町」のバス停に着く。
「北砂町5丁目行ー。」ここで、降りてきた岡田茉莉子石浜朗 が出会う。
 手元にある1959年発行のキャピタル東京都区分地図帖に、東京駅乗車口から、
北砂町五丁目行のバス路線の記載がある。経由地は、築地、勝鬨橋、永代橋、川崎
(洲崎の間違い)、葛西橋とある。実際には、銀座四丁目から勝鬨橋の手前を左折、
明石町から永代橋を右折して、門前仲町から洲崎弁天町、葛西橋へ抜けているので、
画面に映るルートは映画用のサービスだ。
「洲崎パラダイス赤信号」(1956川島雄三)で、勝鬨橋から、新珠三千代と三橋
達也が飛乗るバスもこの系統だろう。
※旧27系統→東21(1988廃止)……参考「都営バス資料館」http://pluto.xii.jp/bus/

 さて、こんな細かいことは読者の皆様、退屈であろうから、少し興味深そうなと
ころに話を移すと、この「橋」は、笠智衆と番匠義彰が組んだ数少ない作品の一つ
なのだ。探してみると、あと3作あった。
 前年の「白い炎」(1958)、「銀嶺の王者」(1960)、「花の咲く家」(1963)。
 残念ながら、どれも未見。ちなみに本作同様、音楽は名コンビ・牧野由多可。
「橋」での笠は、おなじみ頑固者だが、ふだんは小津調のおっとりした元海軍の艦
長。酒癖の悪くない智衆。元部下達(渡辺文雄、須賀不二夫、佐竹明夫)からの人
望も厚いが、正義感が強すぎて、新聞ダネに。火種は幾野道子
 娘の亭主・細川俊夫と口論の末、家を飛出し、居候になっていたのが、明石町の
渡辺のボロ家。渡辺に、笠の「家庭教師」として雇われるのが、法科の大学生・
石浜朗だ。
 細川の妻、つまり笠の長女が福田公子。その妹、次女が岡田茉莉子21歳。
 岡田茉莉子が婚約する、元同僚で現・自動車ブローカーが大木実。そのパトロン
に水戸光子。
 以上が主な出演者。厄介なのは、福田公子と水戸光子が似ていることである。

 ここで、脇役マニアにはお楽しみの2人。
谷よしの……帰省する石浜と、出張中の岡田&大木が偶然出会う大阪の食堂、の客。
大杉莞児……意気消沈した石浜を渡辺が誘う安酒場に顔を出すギター流し。

 騒動の発端、笠と幾野が出会う工事現場は、洗足池のほとり。細川のセリフでは
目黒と言っている。(厳密にいうと目黒区ではない。)
 大木の事務所は、セリフの通り「新橋の近く」。川を前にして、遠くのガードを
横須賀線が走る。地名の元になった、新橋健在の頃。
 岡田が笠を引き連れて借りる「並木荘」は代官山。山手線の跨線橋脇。貨物線の
蒸気機関車がちらり。そのさらに向うの東横線高架を「アオガエル」が行ったりき
たり。楽しいのは、部屋の窓の外を走る模型の電車。夜景ではスパークする芸の細
かさ。
 マダム・水戸光子のバー「和」は新橋・銀座界隈の設定であろう。

 石浜朗に叱られる笠智衆。心憎いマフラーの伏線。
 明け方、シルエットの猿楽橋跨線橋。橋に始まり橋に終わる。
 観終わって食べたくなるのは、親子丼とカレーライス。カレーは大盛で。



【72】東京の恋人(1952東宝)監督;千葉泰樹  →
【73】 →【71】

 →【72】キャスト

「フーチャカピーの粕漬みたいな女。」清川虹子が、藤間紫を称してこう云う。

♪朝日と一緒に街へ出て、並木の木陰で店開き〜
 ベレー帽にハイウエストのパンツルック、似顔絵描きのユキ・原節子。文字通り
ナイトのような三銃士こと、ショーさん・小泉博、チューさん・増渕一夫、ダイちゃ
ん・井上大助を従えて、毎朝、月島のアパートから勝鬨橋を渡って銀座へ出勤。三
銃士の仕事は靴磨きだ。ショバは、「並木ビル」という雑居ビルの入口脇。
 路地を隔てて隣には宝石店・宝山堂、主人に十朱久雄、妻・沢村貞子。並木ビル
の赤澤工業は、パチンコ玉製造で景気がいい。社長が森繁久彌、妻君は清川虹子
浮気相手が小料理屋お多福の女将・藤間紫。盤石の配役である。
 そして、ちょっと冴えないが頼りになる二枚目、十朱の宝石店に出入りする模造
宝石職人(本業は宝石ブローカー)、クロカワ・三船敏郎。ソフト帽、時に蝶ネク
タイ。
 日が落ちると、原と同じアパートに住む夜の女ハルミ・杉葉子が、病み上がりを
おして、並木ビルの前に立つ。
 原と杉の暮らすアパート「中澤荘」は、勝鬨橋を渡ってほどなく。今の勝どき1
丁目か、月島3丁目あたり。病がぶりかえした杉を、三船が診せようとする医者が
柳谷寛。「西仲通診療所」とある。今やもんじゃストリートなどと妙な呼ばれ方の
月島西仲通り。旧西仲通1丁目から12丁目は、現在の月島1・3丁目、勝どき1・
3丁目である。

 危篤の杉。故郷の母に至急電報を打つよう、原が小泉にそっと頼む。「ウナでお
願いね。」
 上野駅へやってくる杉の老母が、これもおなじみ岡村文子。蒸気機関車ハチロク
が進入してくる駅のホームの柱には「うえの」とあるが、どうも上野らしくない。
4番線というのもおかしい。
 調べてみると、18691というナンバーの機関車は、ずっと千葉局内で働いてき
たカマなので、ホームのシーンは両国駅であろう。

 衰弱して床の上の杉。窓の外に、川開きの花火があがる。花火の音に、
「お父さんの亡くなった空襲の夜みたい。」
渡された手鏡で花火を見る。

 ダイヤの指輪と川エビ、と山本廉。

 ※一部資料に、河村黎吉、藤原釜足、飯田蝶子とあるが、出演、クレジット、
ともに無し。


【71】特急三百哩(1928日活大将軍)監督;三枝源次郎  →【72】 →【70】

「大変だ!/あの機関車は/空ッポだ!」(字幕)

「暴風雨を衝いて苦悩の特急は走った」(字幕・上とは別のシーン)

 サイレント映画は字幕の文字も演技する。

 サイレント映画には、音楽や、弁士に依る映画説明がついて、相乗効果で作品が
大いに盛上がる。だからといって、音が付かなければ成立たないのかと言えば、そ
うでもない。
 演技とカメラワーク、それに最低限の字幕を付ければ、映像だけでも、じゅうぶ
んに内容は伝わるように作られている。

 この作品には、これでもかというほどに、蒸気機関車の牽く列車が登場する。必
死のカメラワークが、躍動感と緊迫感を伝える。音のない上映だと、観ている側は、
初め、居心地の悪さを感じるけれど、しだいに、音がないからこそ、この緊迫感を
覚えるのではないかと感じてくる。集中力が高まるのだろう。

 前半、いきなりのクライマックス。無人で逸走する蒸気機関車を追走する島耕二、
追いついて乗移る。島の運転する猛スピードの「キューロク」、ボイラー脇からキャ
ブ(運転台)を捉えたカメラが、なんと前方を振返る。
 ということは、カメラマンが機関車の横に張付いていたのだ。
 営業線上かどうかはわからないが、逃げる急行列車、暴走する単行機関車8926、
追いかける機関車19691が今にもぶつかりそうな距離で続くシーンにも驚く。
 念のために書いておくと、無人で暴走する機関車、一瞬、文字が軍行機関車に見
えるが、旧字体の単、「單」行機関車(貨客車なしで1両で走る機関車)である。

 さて後半。
 森茂機関手・島耕二の乗務するのは最新鋭の蒸気機関車C53、東京行特別急行。
暴風雨の中、妻おみよ・瀧花久子の幻を見て急停止。その先の線路は土砂崩壊して
いた。それより前に、瀧花の危急を知らされた島。次の駅で別の機関手に運転の交
替をと切出す機関助手を制して、
「この機関車はスリーシリンダーだよ」(字幕)
と、誰にでも運転できる機関車ではないことを叫ぶ。
 国鉄史上唯一の国産3シリンダー(3気筒)の機関車・C53。
 サイレントで残念なのは、その特徴あるドラフト音がきけないことである。
「シュッシュッポッポ」ではなくて「シュッポッポ、シュッポッポ」なのである。



【70】アリバイ(1963日活)監督;牛原陽一  →
【71】 →【69】 

 アスパラ、ゴムヒモ、マタンゴ。


【69】私は負けない(1966大映京都)監督;井上昭  →
【70】 →【68】 

「頭の上にはいつも青空。」

 冒頭、旅立つユウコ・安田道代(大楠道代)を、フタミ先生・早川保が見送る。
海沿いを走る線路脇に腰掛けて語りあう二人。すぐ下が波打際だ。
 実は、これは海ではなくて琵琶湖である。作品の半ば、帰郷したシーンでは「し
らひげ」と、はっきり駅名標が映る。今はJR湖西線にそのルートを譲った、江若
(こうじゃく)鉄道の白髭駅。現在の北小松駅と近江高島駅の間だろう。
 ホームに入線したのは、ずんぐりした流線型のディーゼルカー、キニ13。ローカ
ル私鉄マニアには、ちょっと驚きの貴重なシーン。鉄道に興味がなくても、愛嬌の
あるスタイルは、気になるのではあるまいか。本作から3年後に江若鉄道は廃止に
なって、この車両は岡山臨港鉄道で余生を送った。

 若尾文子主演の「青空娘」(1957大映東京/監督;増村保造)より、リメイク
版の安田道代は健康的だが泥臭く、川崎のぼるの世界を彷彿とさせる。タイトルか
らして「私は負けない」、大映テレビのドラマ路線に重なる空気感、それはそれで
安田道代らしくて良い。キニ13の野暮ったさにも通ずるものがある。
 そして「青空娘」で菅原節全開であった菅原謙二のように、早川保は早川らしい
役を演じる。


【68】月曜日のユカ(1964日活)監督;中平康  →
【69】  →【67】

 加賀まりこの足の親指は長い。


【67】おんなの細道 濡れた海峡(1980にっかつ)監督;武田一成  →
【68】 →【66】

「ポロポロってさみしいね。ボロボロよりさみしい。」

 雪景色の城下町・盛岡と、ウミネコ舞う三陸海岸。三上寛と、3人の女が織り成
す、叙情映画。冬の岩手で、人情と人肌に弱い、どうしようもない男女が場末でか
らみあう。3人の女が、山口美也子桐谷夏子小川恵。ヒロインたちをめぐる、
石橋蓮司草薙幸二郎がまた良かった。

 名勝・北山崎の荒波を見下ろす崖の上、寒風ふきすさぶ中、三上寛と桐谷夏子が、
少し離れてはいるが、尻丸出し、しゃがんでそれぞれ用を足す。黒崎漁港と思われ
るロケ地から、宮古へ向かう途中、トイレが我慢できず、二人はバスから降ろして
もらったのだ。
 三上、桐谷の尻に見とれて、思わず口に出す。
「でっかいなあ。」
 何がと問われて、あわてて、「海が」ととりつくろう三上。三上の股間をちらり
とのぞいて桐谷、
「かわいいわネ。」
 雄大な景色に、情けない男女。名場面だが、撮影の様子に思いを馳せると、身を
切るような寒さの中での尻出し、さぞつらかったろう、と同情してしまう。
 例によってどうでもいいことだが、このシーンの直前、二人がバスを降りるのは、
北山崎から宮古をはさんで反対側の重茂地区。別の場所でロケをしている。バスの
正面の方向幕に「重茂─石浜」とあるのだ。


 さびれた、うすら寒い旅館の一室。浴衣姿で差し向い、イクラののったうどんを
所在なげにすする三上と桐谷。三上、口癖の「ポロポロ」について説明をする。
 三上の父は牧師。わびしい響きのポロポロという言葉だが、元は「パウロパウロ」
からきているという。
桐谷「ポロポロってさみしいね、ボロボロよりさみしい……。(短いうどんを箸で
  つまみ上げ)このうどんもさみしいね。」(そう言って三上とキスをする。)
桐谷「このキスもさみしいね。」
三上「(桐谷の胸元に手を入れて)このオッパイもさみしいナ。」
桐谷「このオチンチンもさみしいね。」
 (再び、短いうどんを、ともに箸でつまんで、微笑みながら)
桐谷「さみしいね。」
三上「さみしいナ。」(しばらくその応酬が続く)
(いきなり、後ろの引戸がガラリと開いて、ヌッと顔を出す桐谷の情夫・石橋蓮司)
石橋「たのしそうだの。」


【66】続・酔いどれ博士(1966大映)監督;井上昭  →
【67】 →【65】

 スラム街を焼酎の瓶片手に渡り歩く、免停中の医者、勝新太郎の現代劇、シリー
ズ全3作中の2作目。
 今回流れ着いたのは、大阪「喜楽町」。時に、芝居調に左右(かみしも)を広く
使ったロングショットを使用、長めのカット、陰影を強調した室内照明。観客は、
物陰から見守るようにストーリーを追うことになる。
 印象的なのは、黒のザアマスめがねの看護婦・悠木千帆(樹木希林)と、冷めた
若い警官・荒木一郎
 街の浄化のため、勝新は、ブルドーザーで大暴れして、消えるように去って行く。
前回同様、診療所の黒板に、チョークで書き残されたメッセージ。
「また逢いましょう。」
前より字が下手になっている。

 さて、資料によると本作だけ大映東京作品となっている。ラピュタ阿佐ヶ谷のチ
ラシでも、ウェブ上で検索してもほとんどが東京撮影所とあるのだが、前後作同様
に京都製作ではあるまいか。
 冒頭、愚連隊が車で、いやがる娘を拉致して来た広い河川敷。ここで勝新登場と
なるのだが、ちらりと遠くに映る鉄橋から見て、淀川と推定できる。
 出演者からして、西岡慶子、今喜多代、島田洋介、西川ヒノデと関西喜劇人を登
用。
 そしてなにより、スラム街のオープンセットの空に、一瞬、山が映り込むのだ。
これが決め手である。たとえ江戸の街でも山が近くに見えたりするのが、太秦らし
さなのである。

 ちなみに、東宝系で、舞台が東京でも阪急電車が走り、ミルクマリンという看板
が映り、環三千世が登場すれば、これはもう、まちがいなく宝塚映画作品である。


【65】ダニ(1965東映東京)監督;関川秀雄  →
【66】 →【64】

「恥知らず? そんな日本語きいたことねえヨ!」
 社長夫人ハルミ・北あけみをだまして部屋に連込んだ主人公、ヤクザのアキラ・
梅宮辰夫。北に恥知らずとののしられて返す、あっぱれなセリフである。
「俺はナ、アンタが思ってるよりサイテーの男だよ。」
 本作の梅宮は、女を食い物にする、すがすがしいほど最低の男である。そして、
わかっていながらもそんな男を求めてしまう、どうしようもないダメな女と男のサ
ガを、内藤法美の優美な音楽が包込んで、まるでメロドラマのようにうたい上げて
しまう。
 梅宮に汚されて、絶望する北に、死ぬなんて馬鹿馬鹿しいという梅宮。
「死んだらアレもできねえしな。」
 東宝でお色気担当の北が、珍しく貞淑な役を務める。梅宮に次ぐ重要な役で、個
人的には嬉しい、ただ、時折、北の顔に草野大悟が宿る時がある。

 さて、そんなどろどろした話であるが、終盤に、当時19歳、コケットなサチコ・
大原麗子が登場、全部「持って行って」しまう。
 監禁されていた部屋で、ナイフで自殺を図る北。運ばれた病室で泣き崩れる夫・
杉浦直樹。同じ頃、雨の中で、梅宮の情婦どうし、香月美奈子と金子克美が、雨の
路地裏でキャットファイト。そんなことはつゆ知らず、ベッドで抱合う梅宮と大原。

 しかし、梅宮は、愛憎のもつれから、香月に突落とされて腰を打ち、大怪我をし
てしまう。
 2ヶ月後、大原に介添えされて、杖をつきつつ退院する梅宮。
「死にてえよ。」と初めて弱音を吐く。医者に不能を宣告されていたのだ。
 スリップ姿の少女のような大原麗子に「好き!」とおおいかぶられても、なすす
べのない梅宮。
 それは死にたくもなろう。



【64】
硝子のジョニー 野獣のように見えて(1962日活)監督;藏原惟善  →【65】 →【63】

「元気を出すのはアンタだよ!」

「きたなかないよ、きたなかないよ、……汚れてなんかないよ。」

「ウソをつくとそっから腐って死んでしまうよ。」

「トモダチ!古いトモダチ!」


【63】誘惑(1957日活)監督;中平康  →
【64】 →【62】

「キミ、化粧したまえ。神様は君にいい顔を与えている。
 ……化粧したまえ。」


 さて、メインステージの洋品店スギモトの向い、殿山泰司の喫茶店「桃園」、そ
の隣は、目をこらすと「松島眼鏡店」。ということは、轟夕起子がキツネ眼鏡をや
めて新しく作った眼鏡は、銀座の老舗の高級品ということになろう。
 実際の松島眼鏡店は、「鈴らん通り」ではないが、協賛している可能性ありか。


以下の記述を訂正、フィルム上映で目をこらすと、ASAHIと読めた。

 画廊でのパーティーに供される壜ビール。ラベルが不鮮明なのだが、どうやら、
1957年に登場したばかりの、タカラビールのオリジナルラベルのようだ。
 金ラベルになってからは、大映作品でおなじみになるが、ヱビスビールを借用し
たような旧デザインは、あまり見かけないような気がする。



【62】集金旅行(1957松竹大船)監督;中村登  →
【63】 →【61】

 →【62】研究発表

佐田啓二………………「旗良平」倒産寸前のゴシップ雑誌社長
岡田茉莉子(松竹専属第一回)…「小松千代」元キャバレー女給、某2号
五月女殊久(若草)…「勇太」死んだ望岳荘主人の息子
 アカの他人の、佐田と岡田の二人が、残された五月女のために、それぞれ債権と
慰謝料を取立てようと、子連れ珍道中。
 季節は晩夏。(位牌に八月十五日とある。)

【競輪場】
 是好大当り。
 中村是好
  ●花月園競輪場(横浜・鶴見)
【東京】(アパート望岳荘/東京駅)
 失踪した是好の妻。シミーズ姿の是好が頓死。是好の債権回収係に任命される佐田。
 是好の息子(五月女)を母に合わせようと連れ出す岡田。
 桂小金治/関千恵子/十朱久雄
  ●京王井の頭線の切通し上の「望岳荘」(明大前駅北、玉川上水の橋の上から)
【岩国】
 債務者は名門のドラ息子。岡田の元情夫は市の教育委員である名士。
 大泉滉/伊藤雄之助
  ●錦帯橋
【山口】
 岡田の元情夫で今は市議の男に子供を連れてひと芝居。その市議に見合相手を紹
 介される岡田。佐田の探す債務者は北海道に転出のあと。
 市村俊幸/沢村貞子
  ●瑠璃光寺五重塔
【萩】
 売春宿転業のホテル。債務者を訪ねると盛大な葬式「しぇーっ!」。岡田の見合
 相手の醜悪な男。サロンモミヂ。初めての一夜も清い二人で岡田は御機嫌ななめ。
 トニー谷/瞳麗子
  ●東光寺 ●松下村塾 ●秋吉台 ●萩城趾
【松江】
 トニーをまいて舟で脱出。トニーのどじょうすくい。
  ●宍道湖 ●小泉八雲旧居
【尾道】
 五月女の母が一緒に逃げた「三番さん」の実家である瀬戸田へ向かう船が荒天欠
 航。場末の宿で2日目の夜。蚊帳の中でも岡田の誘いに乗らない佐田。
【瀬戸田】
 債務者でもある是好の妻の情夫は岡田の元情夫の弟だった。説得でめでたく息子
 をひきとる是好の元妻(五月女の母)。
 西村晃/北原隆/小林トシ子
  ●西日光耕三寺(→【52】はだしの花嫁
【徳島】
 かつて岡田を無理矢理「女」にした男を強請に行く佐田と岡田。阿波踊りの夜に
 心通じるその男と岡田。
 (花菱)アチャコ
  ●阿波踊り
【鳴門】
 ひとり港を去る佐田「むちゃくちゃでござりまするよ」。名物やきもち。
  ●渦潮


【61】ゴジラ(1954東宝)監督;本多猪四郎  →
【62】 →【60】

 東宝の特撮作品は、インターネット上でも、マニアックなファンが多く、かなり
細かい情報まで検索可能である。まして、ゴジラともなれば、画面のすみずみまで
語り尽くされているから、私ごときが語るべきことなどないのだが。
 新聞記者として活躍する堺左千夫。有楽町駅ホームを編集局の窓から望む、映画
の世界ではおなじみの毎朝新聞。
 ところが、堺が左腕に巻いている腕章には、毎「潮」新聞と書かれている。デジ
タルリマスターのおかげもあって、「潮」の字、サンズイが確認できた。
 まあ、朝でも潮でも、どちらでもよい。志村喬だって、大戸島(架空の島だが)
の発音を「おおどしま」と間違えている。こちらはみなさん御存知である。


【60】閉店時間(1962大映東京)監督;井上梅次  →
【61】 →【59】

「岡本かの子著、花は勁し(はなはつよし)、第一回。朗読は、マツノキミコでご
ざいます。」


【59】山鳩(1957東宝)監督;丸山誠治  →
【60】 →【58】

 浅間山を望む高原にある、軽便鉄道の小さな駅。駐在するヤモメ駅長・森繁久彌
のもとに、淫売宿から逃げて来た、三十も年下の娘・岡田茉莉子が転がりこむ。
 秋から冬、翌年の夏、そしておそらくその次の年の春。「落葉松沢(からまつざ
わ)」駅と、その奥の温泉宿「蓬莱館」の2ヶ所のみで物語は進む。
「カルメン故郷に帰る」(1950松竹大船/監督;木下惠介)で有名な草軽電鉄。
 ほとんどが駅での出来事なので、通称「カブトムシ」と呼ばれるゲテモノ電気機
関車と、オンボロ客車が、ひんぱんに登場する。
「こんなヨボヨボ電車に飛込んだら、電車の方がひっくりかえっちまうだら!」
(客・桜井巨郎)

 そして舞台の落葉松沢駅は、実際に「小瀬温泉」駅でロケが行われている。こぢ
んまりとはしているが、駅にあるべき一通りの設備はそろった、田舎の駅らしい駅
だ。
 退職金が払えないから、ある駅の駅長は、高齢だが辞めさせてもらえない、とい
う大赤字路線。実際に、ロケ地はその3年後に廃線、そのまた2年後の1962年に、
全線が廃止となった。

 →草軽交通サイト http://www.kkkg.co.jp/museum/gallary.html
  ※gallaryページのスチールは、駅長・森繁と、出奔する女中チヨ・須賀京子

 森繁と岡田の掛け合いは珠玉、逸品、名人芸。他の出演者も、オール東宝脇役総
見で素晴らしいが、まあ、それはここで語らなくとも、他の方が書いている。
 鉄道映画としての細部を見てみる。

 駅舎の中、一見、本物だが、もちろんセットだろう。
 壁に掛けられた、古風なガリガリハンドル式鉄道電話。よく聞くと、
「チリン、チリン、チリリリリン、チリン」
と鳴っている。これがこの駅特有の呼び出し音なのだ。
 符号で表すと「●●─●」となる。
 よくよく画面に目をこらすと、電話機の横に、その信号の一覧表が貼ってある。
「ここ、呼んでるんでねえか?」
送迎客を待って、駅長・森繁と将棋を指している旅館の番頭・田中春男が言う。
 信号の一覧表、落葉松沢の左に長日向(ながひなた)、右に鶴溜(つるだまり)、
一番右には、本社とある。ほとんど読めないこの掲示物の駅名が、実際の小瀬温泉
ではなく、わざわざ映画の中の架空の駅名だというのも、セットと決めつける根拠
の一つだ。
 それどころか、物語発端の夜の駅のホーム、進入する列車(といっても機関車1
両に客車1両のささやかな編成)のシーンも、セットではないかと推測している。
 実際、機関車などは、ベニヤ板で簡単に作れそうなデザインだ。

 ちなみに、当時を知る方のサイトによると、事故の原因となる、転轍てこ、あれ
は撮影用のダミーらしい。信号機も実際にはあの、「ガタン」と上下する腕木式は
使っていなかったそうだ。確かに、電灯式の信号機の裏側が映るシーンがあったり、
雪景色のシーンには、あるべき位置に腕木式信号機がなかったり、赤信号であるべ
き時に、青になっていることがあった。
 蛇足ついでに書いておくと、白黒だから色はわからないが、信号の腕木が横一文
字(水平)の時は赤、つまり停止。斜めに下がると青、進行である。場面転換のア
クセントに登場する信号機は、常に赤から青で、ストップを警告するカットはなかっ
た。


【58】次郎長社長と石松社員(1961ニュー東映東京)監督;瀬川昌治  →
【59】 →【57】

 人事課長・大村文武が、花形である営業部配属の新入社員の名前を読上げる。
「水原、土橋、山本、張本、西園寺」
東映フライヤーズだ。
 東映のサラリーマンもの、社長・進藤英太郎は実にかわいらしく、佐久間良子は
例によって、自覚があるのないのか知らねども、フェロモン全開である。
「そのようにはからい、そのように行え。」


「員数外」、名前で採用された新入社員、森川石松・中村賀津雄。ミス・シミロン
(社名)こと、社長専用のエレベーターガール、シラキミサト・佐久間良子。二人
が、会社の外で食事をするシーン。
 前のカットではロングショットで、高架上を走る寝台特急、ブルートレイン。東
京駅の近くなのだろう、ゆっくり画面を横切ってゆく。
 マニア向けの注釈をつけると、特急色塗装のEF58を先頭の20系客車。ヘッド
マーク付だが、残念ながら読みとれない。
 次のカットでは、食堂の窓の外を、同じく、ゆっくり通り過ぎる寝台特急をバッ
クに、賀津雄と佐久間が差し向かいで、カレーライスを食べる。
 これは前年公開の「大いなる驀進」(1960東映東京/監督;関川秀雄)のパロ
ディの可能性あり。その時、賀津雄が、カレーを食べる相手は三國連太郎だけれど。
「ここのカレー、まずいですよ。」と賀津雄のセリフがあれば……、それはやりす
ぎか。

「──驀進」では、賀津雄は給仕(ボーイ)として、特急「さくら」号に乗務する。
専務車掌が三國連太郎。夜の営業を終えた食堂車で、二人は遅い夕食をとる。
 賀津雄を慕う食堂車のウェイトレス・中原ひとみと軽くケンカ状態になった賀津
雄が、カレーを注文した三國に言う。
「ここのカレー、まずいですよ。」
 賀津雄の婚約者、客として乗ったヒロインの佐久間が、そこへやって来て、車掌
・三國に、電報を頼みにくる……。
「──驀進」は、結婚のために、もっと稼ぎのいい仕事につこうと、鉄道員を辞め
るという賀津雄を説得しに、佐久間が、賀津雄の乗務する長崎行き特急に、思いあ
まって飛び乗る、という話だ。

 一年後のこの作品からすると……、結局辞めちゃったのネ。


【57】サザエさんの青春(1957東宝)監督;青柳信雄  →
【58】 →【56】

「ちょっと針山とまちがえまして。」

 デパートの試着室に仮縫いの為に這入っている婦人客・岡村文子。担当のサザエ
さん・江利チエミが、カーテンの中に消えた途端に、岡村「ぎゃーっ」という悲鳴
とともに、尻を押さえて飛出して来る。そこで江利がいうのだ。
「ちょっと針山とまちがえまして。」

 これには、館内大爆笑。わざわざ、大映から岡村文子を呼んだだけの意味がある。
念のために書いておくと、でっぷり太ったおばさんなのだ。脚本は笠原良三。カラー
ながら、スタンダードサイズの画面。
 岡村文子は、スリップ姿のサービスつき。


 江利チエミの、漫画に迫る表情と動きは素晴らしい。小泉博氏が亡くなった際、
クイズグランプリの司会とともに、まず、「サザエさんの、マスオさん役」さんが
俳優としての経歴の代表として紹介されたのも、チエミのサザエさんが一世を風靡
した証であろう。とはいえもちろん、仲代達矢がもし亡くなっても、「サザエさん
のノリスケ役で」とは言われまいが。私の中では、小泉博、ときいて真先に思い浮
かぶのは、「結婚の夜」(1959東宝/監督;筧正典)である。
 一万慈鶴恵は、クライマックスのパン食い競走、サザエさんとともに、ゆれるパ
ンと、嬉しそうに格闘している。


【56】背後の人(1965松竹大船)監督;八木美津雄  →
【57】 →【55】

 松竹のスター女優のひとり、桑野みゆき。だいたい幸薄い役が多いので、手を差
し伸べてやりたい反面、ひどいめにあわせて、にらみつけられたい願望も少なから
ずあるという、何がいいたいかといえば、好きな女優のひとりなのである。
 さて、「背後の人」の桑野みゆきは看護婦だ。
 冒頭、病院のベッドで、悪夢にうなされる池部良。今回は池部得意の、迷惑なダ
メ色男。目を覚ますと、ベッドの脇にやって来た看護婦、その顔が、ぼおっと像を
結ぶ。
 一瞬、大滝秀治に見えて目を疑ったが、すぐに桑野みゆきになっていた。しかし、
桑野の顔の中に潜んだ秀治は消えることなく、悪魔のようにとりついたまま。私は
上等のサスペンスに身を委ねつつも、脳内で時折、桑野のセリフを秀治に吹替えさ
せているのであった。

 ちなみに、池部良の顔には、時に、由利徹がオーバーラップする。この場合は、
由利が意外に美男子だという証左である。ただ、池部のセリフに由利をあてるのは、
難しかった。


【55】重役の椅子(1958東宝)監督;筧正典  →
【56】 →【54】

「君は少しパーだね。」


【54】川のある下町の話(1955大映東京)監督;衣笠貞之助  →
【55】 →【53】

 日本一の美女と言われる女性が、客席の私の方を見て、「あら、はだか。」
山本富士子は目ざとい。


【53】泣いて笑った花嫁(1962松竹大船)監督;番匠義彰  →
【54】 →【52】

 →【53】キャスト・舞台情報

 蔵前の玩具問屋、京都の呉服屋。京都、熱海。浅草国際劇場のSKDレビュー。
季節は晩秋から歳末へ。
 吉田輝雄をめぐる倍賞千恵子鰐淵晴子
 中年ロマンスが佐野周二高峰三枝子
 今回は京都も舞台となるので、上方役者陣が加わり、藤山寛美の達者さが光る。
そして、活発な沢村貞子環三千世はバーのマダムで、なかなかいい役だ。

 倍賞千恵子は、SKD(松竹歌劇団)の団員、富永早苗、21歳。国際劇場の巨大
なステージでラインダンス、足を上げる。吉田輝雄は、その演出助手、杉山敏男、
26歳。
 吉田は蔵前の玩具問屋「ふじや」の若旦那で、劇場の演助をやっているのは父・
佐野周二には内緒だった。例によって、このへんがこじれて話の幕が開く。

 当時のSKD、トップスターの小月冴子、南条名美、上原町子、天野妙子を中心
にした、舞台のシーンがふんだんに登場する。バリ島のシーン他、何景もサービス。
スター達は、筋にこそからまないが、楽屋風景やオフの京都観光シーンなどで、他
の団員達とたびたび映る。
 倍賞は、トリオのユニットを組み、舞台フロントで、コーラスも勤める。


【52】はだしの花嫁(1962松竹大船)監督;番匠義彰  →
【53】 →【51】

 →【52】ムダに詳しく

 瀬戸内海、来島海峡横断の送電線敷設工事に携わる「電源開発」の技師ヤシロ・
寺島達夫をめぐって、雑誌編集者レイコ・鰐淵晴子と、鰐淵の父の戦友の娘ヨウコ
倍賞千恵子が恋の火花を散らす。
 その鰐淵に熱をあげる同僚のサワムラ・山本豊三、倍賞と縁談の進むクラモト・
早川保がからむ、恋愛ロードムービー。
 シニアのカップルは、鰐淵の父・佐野周二と、神戸のマダム・月丘夢路
 東京と尾道、松山、それに神戸と別府をまたにかけてつづられる物語。中をとり
もつポンポン蒸気と、関西汽船。風光明媚な瀬戸内の景色と、松竹名物・佐野周二
の困り顔が楽しい旅映画。
 本作の老舗の舞台設定は上野。天ぷら屋「天八」。寺島の実家で女将が高橋とよ。

 オープニング、おなじみ、雲上の富士山に「松竹映画」。続いて「高浜─尾道」
と書かれた船が映る。
「出航!」と三井弘次が叫ぶ。けたたましい汽笛に耳を押さえる倍賞千恵子。テー
マ曲が流れ、瀬戸内の風景をバックにタイトルが出る。船上では、早川保のハーモ
ニカに合わせて、倍賞が歌っている。
 石崎汽船が四国と山陽を結び、明治から続いた由緒ある高浜(松山)・尾道航路
も、しまなみ海道の開通で、今はない。

 一方、まだ緑と白のツートンカラーだった頃の関西汽船の「くれない丸」。関西
から松山(高浜港)経由の別府航路に就航した豪華客船。「週刊レデイ」編集部の
鰐淵が、作家ヤマソウ先生・南原宏治の取材旅行に同行して乗船。ここで、当時の
花形職業、技師の寺島と再会する。
 旅情を誘う、「関西汽船」の名前は、合併されてなくなってしまった。
 くれない丸は、同航路がフェリー化されて退役の後、2019年現在も、横浜港の
レストランクルーズ「ロイヤルウイング」として現役である。

 寺島が完成を目指すのは、瀬戸内海を横断する高圧線、220kvの「中四幹線」。
 大久野島山頂にそびえる226メートルという、日本で最も高い送電線鉄塔からは、
本州側へ、日本最長の径間長2,357メートルで送電線が海を渡る。幹線としての
役目は終えたが、今でも島へ電気を送っているという。
[出典]http://overhead-tml.net/historicalline.html#chusi
 登場する鉄塔がこれだと思っていたが、実際敷設工事の場面は別の場所で、今治
側の波止浜であった。


 番匠花嫁の人気者、大泉滉、今回は、月丘の店で働く環三千世と恋人役で御機嫌
を伺う。


【51】のれんと花嫁(1961松竹大船)監督;番匠義彰  →
【52】 →【50】

 →【51】よりマニアック

 メインは倍賞千恵子津川雅彦。横恋慕担当に瞳麗子。副本線が佐野周二月丘
夢路

 今回は老舗のカステラ屋「開花堂」を中心に騒動が起こる。場所は麹町だが、名
前からもわかる通り、「文明堂」を意識している。長崎の本家から、全国にのれん
分けされた店のうち、麹町にある月丘の東京店が、近代的改革に出て問題になる。

 舞台設定は麹町(月丘の開花堂)、深川・木場(平野町、佐野周二のマルチョウ
材木店)、上野(津川たちが二階借りしている藤間紫の御茶漬屋・さくら)。津川
の所属するコーラスグループが出演するのは銀座(音楽喫茶ニューオリンズ)。そ
れに都内某所(青山)「ラジオセンター」というスタジオ。長崎からやって来た、
伴淳三郎と大泉滉を小金治が案内する途中で東京タワーが映ったりする他は、東京
のシーンは室内のセット中心だ。
 終盤は、伴淳の営む、 加寿天以羅開花堂のある長崎に、主要キャストが集結する。

 冒頭、貯木場の風景が映るが、これは深川ではなくて有明。麹町の店頭シーンで
は、向いにクッキーの「泉屋」がちらりと見える。

 シリーズ前作「ふりむいた花嫁」に引続き、桂小金治と千之赫子がカップルのコ
メディリリーフ。大泉滉も伴淳の番頭役として活躍。
 津川の父でもある、女好きの伴淳を、ぴしゃりとたしなめる女房に、高橋とよ。
 小坂一也が、津川らとコーラスグループ「ブルーロビンズ」を組んでソロをとる。
メンバーは他に、山本豊三、小瀬朗、林洋介(林はプレスシートによる)。吹替を
ボニージャックスがやっているので、つまりは、小坂一也&ボニージャックスだ。
マネージャ役が瞳で、津川に惚れている。その瞳には小坂が思いを寄せる。
 瞳が持込む、音楽喫茶へ代打出演の理由が、
「『クレージードッグ』がテレビの収録になって」
というのは御愛嬌。

 例によって混戦の恋模様、長崎名所・グラバー邸ロケや、有名な祭・おくんちの
シーンもたっぷりサービスして大団円。

 さて、伴淳と滉が上京する特急は、ブルートレイン・20系「さくら」号。
 佐野と月丘が長崎へ飛ぶのは、日航のコンベア880。
 ビールはキリン。木場の食卓では、上野・酒悦の福神漬のアップから、カメラが
ひいてゆく。

 ラスト近く、店に伴淳を呼びに来る、おくんちの衆に大杉侃二郎。はじめて長崎
開花堂が映った時に、店を出て行く客は、一瞬だが、谷よしの。
 アクロバットヌードダンサー、R・テンプルが、ナイトクラブでくねくね踊る。


【50】ふりむいた花嫁(1961松竹大船)監督;番匠義彰  →
【51】 →【49】

 →【50】キャストなど

 花嫁役は、シリーズ初登場の倍賞千恵子。映画デビューしたばかりの20歳。
「初めて下町娘をやる」倍賞千恵子は、桑野みゆき、鰐淵晴子、岩下志麻に次ぐ
「松竹若手女優陣のホープ」と、プレスシート(宣伝資料)にある。輝かしき初の
下町娘の役を、ちゃきちゃき演じる。
 相手役は、いつも気弱な青年役の山本豊三、今回は毅然としている方だ。
 ストーリーの実質の主人公は、伴淳三郎。倍賞の父で、老舗どじょう料理屋の店
主だ。バーのマダム・淡島千景を、商社社長の三井弘次と、争奪戦。
 出演者クレジットのトップも、伴淳三郎と淡島千景である。

 舞台は下町、「どぜう隅田」。オープニングではとバスが、浅草の南の駒形に実
在する、モデルの「駒形どぜう」前に着く。
 浅草近辺の設定だが、ほとんど室内シーンで、実景は、どじょう供養の場面に、
東武鉄橋と言問橋の間の隅田川左岸が出てくるくらいだ。「抱かれた花嫁」で望月
優子と日守新一が再会した場所である。
 三井が社長で、豊三が勤める「フクハラ商事」は日本橋。どぜう隅田の跡取りで、
倍賞の兄の小坂一也は、「フジテレビ」で役者をやっている。
 地方ロケを、「抱かれた…」同様に、水郷で行っている。問屋の卸すどじょうが
品薄で、店員総出で、どじょうすくいに出かけるのだ。

 シリーズ中でも、脇役陣の活躍が目立つ作品で、レギュラーの桂小金治は、どじょ
う屋の「煮方」の職人。やきもち焼きの女中・千野赫子(ちのかくこ)とアツアツ。
スキを見ては倉庫でキスしている。このコンビが、とても楽しい。女中頭に、安定
の高橋とよ。
 大泉滉は、どじょうの研究者。サンダーバードのブレインズそのもの。元男爵家
の次男坊で浮世離れしているが、伴淳は「娘・倍賞の婿に」と考えている。
 そして、伴淳の恋敵、フクハラちゃんこと三井弘次が、実に三井弘次らしい役ど
ころで、スパイスをきかせる。

 どぜう隅田が出すビールはキリン。結婚披露宴では、キリン、サッポロ、アサヒ
が揃う。
 伴淳は意外に新し物好きか、ハイライトを吸っている。職人・小金治はパール。
若手サラリーマン豊三はピース。
 倍賞が店頭に打ち水、やって来た豊三に水がかかる。これが二人の出会い。脇に
立つ本物の電柱に、今や懐かしい、赤尾敏(大日本愛国党)のアジビラが貼られて
いる。


【49】わたしの凡てを(1954東宝)監督;市川崑  →
【50】 →【48】

 有馬稲子に、いつまで難しい顔をしてるの、ときかれた池部良
「百万年。」

 大阪の、使えない社長役に、東京で活動していた上方落語家の三遊亭百生。大事
な話があると令嬢・有馬稲子が言っているのに、小唄の会があるから、と社長室を
出て行ってしまう。

 ミスユニバース3位入賞で有名な八頭身美人、伊藤絹子(ウエスト21インチ)
を主軸に、その姉が、日高澄子。それを、池部良、有馬稲子、上原謙、二本柳寛、
沢村貞子、藤原釜足、加東大介といったスターと豪華な芸達者が、固める。
 そして、おなじみ東宝脇役陣が、ノンクレジットにもめげずに顔を出す。
一万慈鶴恵……ミスコンテストの審査員
河美智子……覆面ファッションモデル伊藤絹子の楽屋に、池部良を案内するスタッフ
 有馬の踊りの発表後、接待の座敷に、安芸津広、榊田敬二、勝本圭一郎、堤泰久。
 ミスコンテストの会場で一瞬アップになる、森啓子、千葉一郎。
 渋谷英男は見つからなかったが、どこかに眉毛だけでも映っていなかったか?

 どうでも良いが、我が家にあるサムソナイトのバニティケース(化粧品箱)を、
有馬の同僚モデル・塩沢登代路(とき)が持っている。


【48】愛人(1953東宝)監督;市川崑  →
【49】 →【47】

[僕が結婚しない理由は、奥さん、貴女なんですよ!]
 階段を上る越路吹雪に下から三国連太郎が言う。衝撃的なBGMがかかる。

 シリアスな恋愛ものが「恋人」。ラブコメが「愛人」。ボタンのかけ違いで混線
する人間模様。根太が腐ってたわむ床。輝く有馬稲子


【47】花嫁のおのろけ(1957松竹大船)監督;野村芳太郎  →
【48】 →【46】

 1953年公開の小津安二郎の代表作「東京物語」(松竹大船)。
 上京した笠智衆と東山千栄子が、亡き息子の嫁・原節子に連れられて、銀座のデ
パート、松屋の屋上にやってくる。お兄様の家はあのあたり、と展望塔(エレベー
ターハウス)の階段から指し示す。その名所、展望階段が、ラスト近くに登場する。

 さて、1958年の正月公開のこの作品、エンドクレジットでは、○C1957とある。
 製作された1957年、昭和32年の流行風俗が、ふんだんに取入れられていて、
現在観ると、そのあたりもなかなか楽しいのである。
 物語は結婚式場から始まる。結婚式ラッシュの大安「だいあん」でごったがえす。
係員もてんてこまいだ。
[なにしろ、今日だけで150組ですから。]

 以下、「世界結婚教育学園」なる花嫁学校をはじめ、当時の世相がぞろぞろ。

・流行性感冒トーキョーA57
  流感、つまりインフルエンザ。A57型が1957年に大流行。
 「今年のは死ぬんですってね。」岡田茉莉子が、元気の無い高橋貞二をからかう
 ように言う。高橋のために布団を敷くが、シーツも布団カバーも使わない、ここ
 にまた時代を感じる。
・人工衛星「スプートニク」と「ライカ犬」
  ソビエトの人工衛星スプートニク1号に続いて、ライカ犬を乗せた2号が57年
 11月に打上げられる。
  作中の、富士銀行入社試験の問題にライカ犬が出題される。
  岡田に相手にされない同僚「16番めの男」南原伸二(宏治)は自分を人工衛
 星に例える。宇宙をコンセプトにしたバーには、スプートニクなるカクテル。
・五千円札
 「五千円札使っちゃった。」と酔っぱらった岡田が、一緒に住む姉・小林トシ子
 に向かって嘆く。高橋を慰めようと、ハシゴ酒(そのもっと上という表現でエス
 カレーター、と言っていた)の結果である。
  当時の最高額紙幣、五千円札は57年10月に発行されたばかり。その上での
 嘆きなのだ。ちなみに、酔っぱらった岡田は、非常にキュートである。
・ゲイバー
  岡田が高橋を連れて着く店。もちろんゲイという言い方はしていない。当時の
 言い方だと、シスターボーイとなろう。
・民謡酒場
  同じく、岡田と高橋。「おばこ」という店。
・ビル内アーケードの万年筆売場
  岡田が、高橋にみつくろった見合い相手の立つ売場。
 「プラチナ萬年筆・オネスト」とある。57年発売、初めてのカートリッジ式が、
 これ。
・「皇太子妃はどこに?」
  岡田がカメラマンとして勤める婦人画報社「週刊女性」編集部の壁のポスター。
 美智子妃に決まるのは、本作公開後の58年11月。
  57年創刊の週刊女性は主婦の友社なので、社名が違う理由は不明。
・枠番連勝単式馬券
  高橋が嫁探しで朝丘雪路を紹介される東京競馬場。ゲート式発馬機ではなく、
 まだバリヤー式。1・2着を当てる連勝式は枠番だが、順番も当てる単式であっ
 た。
・♪港町十三番地
  喧嘩した学生夫婦、石浜朗と瞳麗子が仲直りする魚屋のシーン。ラジオからだ
 ろう、美空ひばりのヒット曲が流れている。
・「イデデイデデってのが流行っとるね」
  岡田に頼まれた易者・伊藤雄之助。いらぬことを言って、岡田につねられて、
 いてて、とうめく。何ですか、と手相を見られていた高橋に問われて、このせり
 ふ。言わずと知れた、浜村美智子の「バナナボート」。
・捕鯨船団出港[横須賀]
  母船「第二日新丸」、別れたばかりの小林の夫・佐田啓二を乗せて出港、南氷
 洋へ向かう。捕鯨ニッポン華やかなりし頃。大勢の見送り客、五色のテープ。
  設定では、11月25日。


 最後に、本作のハイライトは、小林トシ子と佐田啓二の別れのシーン。さすがは
名匠・野村芳太郎である。


【46】恋人(1951新東宝)監督;市川崑  →
【47】 →【45】

 敗戦が1945年。講和会議が1951年。
 条約が発効して日本が独立するのが、翌1952年。

 結婚式を明日に控えた良家のお嬢様キョウコ・久慈あさみ。家族ぐるみの付き合
いのボーイフレンド、セイちゃん・池部良と、最後のランデブー。

 小田急沿線、おそらくは世田谷区内に久慈の家はある。父は千田是也、母は村瀬
幸子。映画は、久慈が嫁いで静かになった千田夫妻のもとに、池部が訪ねて来ると
ころから始まる。
 どうやら、久慈は、見合いをして嫁いでいったらしい。回想シーン、結婚式前日、
仲人の北林谷栄が訪ねて来る。婆役ではなく、年相応。せわしなく世話を焼いて、
風のように去ってゆく。
 おかげで何もすることのない久慈。両親に、[自分はセイちゃんとランデブーに
行ってまいります]と、未だ兵隊のクセの抜けない無骨な池部の口調をまねて、デー
トに出かける。
 その対応から、池部は両親とも親しい間柄とわかる。詳しくは語られないが、幼
なじみかなにかなのだろう。こづかいをせびられた父・千田は、心おきなく楽しん
でこいと、気前良く財布ごと渡すのだった。
 ここで、千田は、遅くなってもいいから、と、くどいように言っている。ただの
能天気な感情ではなかったことは、後でわかる。

 銀座へ出る二人。映画館で「哀愁」を観て、天ぷらを食べて、ダンスホールで踊っ
て、アイススケートを滑る。ロバート・テーラーとヴィヴィアン・リーの「哀愁」
(1940MGM/監督;マーヴィン・ルロイ)は、有名な「別れの曲」で踊るシーン、
楽士たちがろうそくを消してゆくあのシーンがまるまる流れる。

 楽しい時間はあっという間に過ぎて、気づけば深夜。いよいよ、クライマックス
にさしかかる……。

 久慈の乗る終電の時刻がせまっていた。新宿駅構内の地下道を小田急へ、二人は
急ぐ。
 西口、まだ地上だけの時代の小田急の改札口と貧弱なホームが大々的に映る。
 60年前も今と同じく、最終は経堂止り。時刻もほとんど変わらぬ24:50発。
 階段を駆け上がるのも空しく、食パン顔の元国電のロクサン電車、二人の目の前
で発車してゆく。
 さあここで、明らかに久慈は一夜の思い出を求めている。しかし、池部はそれに
気づきながら、久慈をなんとか送り帰そうとする。
 地上の小田急改札から再び地下道に降りて、そんな攻防をする二人……。


 この閑散とした地下道のシーン。物語の山場だ。久慈が思いをぶつける、その顔
の後ろに何気なく、英字の乗り場案内板が映り込んでいる。
“ →9・10 ODAKYU LINES
  SAGAMI OTSUKA
  SOBUDAIMAE
  SAGAMI ONO ”
 相模大塚、相武台前、相模大野。さて、小田急沿線にお住まいの方へクイズであ
る。
 なぜ、下北沢でも新原町田でも小田原でもなく、このチョイスなのか。しかも、
相模大塚は、小田急ではなく、相鉄線なのだ。
 そのへんが気になって、肝心の久慈と池部の会話を聞きもらしそうになった。
 答えは、米軍施設の最寄り駅なのであった。進駐軍向けの表示なのだ。隣に京王
の案内板があって、こちらには、CHOFUなどとともに、
“403 AIR FORCE”
という文字も見える。
 オキュパイド・ジャパン、いまだ日本は占領下であった。


【45】33号車応答なし(1955東宝)監督;谷口千吉  →
【46】 →【44】

 →【45】さらにマニアック(ストーリー詳細/キャスト/舞台)

 戦後10年を経過した東京のクリスマスイブ。
 その夜を走る「パトロールカー」。

 蔓延するヒロポン。2日に1人が殺されるという事件の多さ。折しも、ヒロポン
密造犯が、警ら中の警官に瀕死の重傷を負わせて逃走する事件が発生し、ただでさ
え慌しい師走の街に、各所轄の警察署もてんてこまいだ。
 新婚7ヶ月で初めて夫婦喧嘩した、短気で子供と模型が好きな若い巡査・池部良。
5人目の子供が今晩生まれるという、人情家のベテラン巡査部長・志村喬。この2
人が乗込んだ警視庁所属のパトロールカー33号車は、クリスマスに浮かれる街で、
「警視庁24時」的エピソードを重ねるうち、凶悪事件に巻込まれる。


ムラカミ巡査 池部良 
ハラダ部長 志村喬 (巡査部長)
ムラカミの妻・アツコ 司葉子

 今回の一万慈鶴恵は、瀬良明が青酸カリを買いにきた、薬局の細君。
 パトロールカーの隊員に、中丸忠雄がちらりと2回。
 パトロールカー、池部と志村の乗る33号車はトヨタのBFR。ずんぐりしたサイ
のような車体はアメリカから払下げのシボレー。
 志村に「ご老体!」と声をかける上司(階級は同じく巡査部長)は千葉一郎、
「生きる」で雪中のブランコで歌う志村の姿を、通夜で報告するあの巡査である。

 →【45】さらにマニアック(ストーリー詳細/キャスト/舞台)

【44】真田風雲録(1963東映京都)監督;加藤泰  →
【45】 →【43】

  →→キャスト・歌詞など詳報

「言っちゃ悪いけど、捨てられたのね、アンタ。」
          千姫/本間千代子がお霧/渡辺美佐子に。
「諸君を、これからタイホします。」木村重成/大村文武
♪昨日の友は、今日の敵〜ぞ、昨日の敵も、今日の敵〜ぞ 
          由利鎌之助/ミッキー・カーチス
「無念じゃ……。」水没する徳川方武将/汐路章
「さあ、このわたしにも、最期を飾らせてくれませんかな、かっこよく。」
「か、かっこわるぃ……」真田幸村/千秋実

「真田隊軍歌」
 織田信長の謡いけり 人間わずか五十年
 夢まぼろしのごとくなり
 かどうだが しっちゃいないけど
 やりてえことをやりてえな てんでカッコよく死にてえな
 人間わずか五十年 てんでカッコよく死にてえな


「熱い!あつーい!!」大野治長/佐藤慶


【43】嵐を呼ぶ楽団(1960宝塚映画)監督;井上梅次  →
【44】 →【42】

 ミュージカル映画ではないけれど、この映画が、全盛期のMGMミュージカル好
きにとってどれほど素敵な作品であるかは、書出すとずいぶん長くなるから、機会
を移す。
 ここで書いておかねばならないことは、クライマックスの片隅の出来事だ。
 フィナーレのシーンの前。本編の最後といっていい場面。
 観ていない方のために結末は記さないが、再び観る方のために書いておく。
 サックスの江原達怡と、雪村いづみの姉・環三千世が、寄り添って、ほほえみあっ
ているのだ。環の手は、江原の手に、確かに重ねられている。
 そんな気配は全くなかったのに、いつの間にか、我々の知らないところで、もう
ひとつのロマンスが進行していたのである。画面の奥での出来事で、まずほとんど
の観客の目には止まらないと思われるが、比較的軽い役のこの二人にも、心憎い見
せ場が作ってあった。


【42】サラリーマン目白三平 うちの女房(1957東宝)監督;鈴木英夫  →
【43】 →【41】

 たった72分。ぎゅっと内容がつまっている。柔らかでほのぼのとした画面の裏で、
スタッフとキャスト、各々の名人芸が火花を散らす。
 のほほんと見て、笑って泣くだけでも十分。まさに小市民を描いたコメディの佳
作である。
 しかし、見返すごとに、作品の緻密さに気づかされる。
 井手俊郎の精巧な脚本。テーマがどうのと、拙文で語るのは気恥ずかしいが、庶
民の小さな喜怒哀楽のエピソードを並べながら、小さな幸せの素晴らしさを語ろう
としている。そういうことを前面に押出さないところが心憎いのである。間接的な
説明の仕方で進む筋書きを、巧みな役者を使って、監督がさりげなく組上げてゆく。
そう考えると、鈴木英夫監督、お得意のサスペンスと、作り方は一緒だ。
 主人公は、シリーズのうち、今回だけ佐野周二。茫洋として「つかみどころのな
い」小人物が実にはまっている。中1と小2の息子を持つ、国鉄の事務職員。
 そして主役は奥さん、望月優子。やきもちやきで、細かいことにこだわって、お
節介。子供には勉強しろとやかましく、八百屋に行けば値切ろうとする。典型的な
俗物のおばさんなのだが、あっからかんとしていて、笑って泣いて怒るけれど、案
外素直に謝ってしまう。この辺が、非常に可愛らしい。そしてなにより、家族が大
好き。
 お隣の奥さんの杉葉子がスタイル抜群の美人で、望月ママと並んで買い物に行く
とその対比が際立つが、二人は大の仲良し。杉も八百屋へ行けば、15円の大根に
高いとケチをつける。中身は望月と一緒なのだ。
 望月は、くるくる変わる感情を、実に豊かな表情で、一瞬にして表してしまう。
 佐野が、八百屋の娘の団令子と、仲良くしているのに腹を立て、女学校の同窓生・
久慈あさみとの1泊旅行。資産家の久慈だが、夫は妾宅に入り浸りという話をきか
されて、自分は幸せだ、と、ゴキゲンに帰宅。ところが、留守中、干した毛布が泥
棒に盗まれたときかされて、玄関先で、もう眉間にしわが寄る。でもすぐに長男が
見つけたときいて、けろりと笑顔。そのまま、かっぽう着を着て台所に立つ後ろ姿。
よく見ると訪問着のままだ、こういう演出が名人芸たる所以である。
 望月は、時間があると、簡単な編み機で、なにか布地を編んでいる。東宝マーク
に続く冒頭のタイトル。題字のバックは、編まれた布地。実にうまく編み込まれた
この作品、これ以上ほどきだすとキリがないので、ひとまずこれまで。

♪君忘れじのブルース/パイプ/かりんとう/手製のラジオ/「神武以来ね。」


【41】人形佐七捕物帖 めくら狼(1955滝村プロ)監督;マキノ雅弘  →
【42】 →【40】

 おそらく退団直前、「宝塚」のカッコ付クレジットで新珠三千代。観音様境内の
見世物小屋で、手裏剣を投げる曲芸の太夫役で出演。シャープな顔つきに、一見で
は新珠と気づかなかった。
 舞台で手裏剣を放られる的になるのが、R・テンプル。名前だけではオスマン・
ユセフだのハロルド・S・コンウェイのようにカタコトの日本語を話す外人俳優の
ようだが、歴としたヤマトナデシコである。日劇M・H(ミュージックホール)の
ストリップショーで、アクロバティックにヌードを披露していた、……らしい。あ
まり筆者は詳しくないが、かつて立川談志師匠が著書で、M・Hの思い出にその名
前を出していた。
 そのテンプル、堂々と出演者名にもクレジットされ、セリフまわしは素人くさい
が、たびたび登場しては、くねくねと体の柔らかいところを見せる。役名は「蛇踊
りお綱」。ヌードこそ披露しないが、猟奇的絵師の岬典膳・石黒達也のモデルとし
て、緊縛される。つまりは縄で縛られる。
 名匠マキノの描く、明るい横溝正史映画。テンプルちゃんの活躍も見所の1つな
のだ。


【40】流れる(1956東宝)監督;成瀬巳喜男  →
【41】 →【39】

 舞台は盛夏である。日本の夏といえば……、アッパッパー姿の賀原夏子


【39】結婚のすべて(1958東宝)監督;岡本喜八  →
【40】 →【38】

「あたしの呼び鈴だって鳴るのよ、鳴らそうとすればいくらでも。」

 今回の一万慈は、佐田豊の営む白百合結婚相談所(春日町、真砂坂)。机の下か
らのショット、貧乏ゆすりをする藤木悠の膝越しに、受付の一万慈鶴恵がちらりと
映る。


【38】踊りたい夜(1963松竹大船)監督;井上梅次  →
【39】 →【37】

 キャスト、歌詞等

2017.4.12
“南亀三”→“沖一郎”宅前
旧目黒区上目黒8丁目521番地
(菅刈小学校裏)


◆7つのミドコロ

1. 赤いアスコットタイ、大流行の謎 ……タイアップなのだろう
2. 鰐淵晴子、食べ方が汚い
3. 鰐淵、リンゴのむき方が大ざっぱ
4. 鰐淵、バレエシーンのワキの下
5. 岡村文子のカンペ疑惑
6. ジゼル、白鳥の湖の配役表に、原知佐子
7. 根上淳、出演最後のいいシーン、差出す手の人差指にバンソウコウ。
番外. 門司のナイトクラブ、佐田啓二の後ろでベースを弾く寒空はだか(生まれる前だが)


♪ピンクタイツ タイツはピンク
 ピンク(ハアン)ピンク(ウフン)
 ピンクタイツ〜
 ピンクタイツ タイツはピンク
 ピンク(ハアン)ピンク(ウフン)
 ピンクタイツ〜
 恋をさがして燃えている 乙女の胸は恋の色

 ピンクタイツ タイツはピンク
 ピンク(ハアン)ピンク(ウフン)
 ピンクタイツ〜
 ピンクタイツ タイツはピンク
 ピンク(ハアン)ピンク(ウフン)
 ピンクタイツ〜
 誰にあげよかこのハート 真っ赤になってバラの色

 (間奏)

 とても素敵な曲線美 目に毒だって無理ないわ

 ピンクタイツ タイツはピンク
 ピンク(ハアン)ピンク(ウフン)
 ピンクタイツ〜


「なにに使った、って、お前の衣裳とか、……ニンジンとかキャベツとか。」


【37】風流温泉日記(1958宝塚映画)監督;松林宗惠  →
【38】 →【36】

 近畿の奥座敷・南紀白浜温泉「南海荘」、それぞれの過去を背負いつつ、今日も
明るく働く女中たち。豪華キャストでハートウォーミング。
 宝塚製作なので、例によって、環三千世、活躍。
 さて、冒頭、白浜温泉につめかける観光客の描写が楽しい。番頭の山茶花究らが、
幟を持って出迎える。紀伊田辺とを結ぶ汽船で。あるいは蒸気機関車(C58)の引っ
張る列車で、全通前の紀勢西線「白浜口駅」(現・白浜駅)へ。極めつけは、空か
ら海面に着水する、日東航空の水陸両用機
 金持は大阪から、飛行艇で飛んで来るのであった。日東航空は、昭和30年代に、
空港のない地方都市の海上に、定期便を就航させていた、小さな航空会社。合併を
繰り返して、東亜国内航空から日本航空に至るが、もちろん、今や水陸両用機など、
飛ばしてはいない。
 水しぶきを上げて着水した艇から、ボートで客が上陸する様子など、なかなか興
味深いものがある。……着水シーンがあったと思っていたが、観直したら、肝心な
ところは映っていなかった。降下して来るカットの次には、もう乗客は、ボートを
降りて桟橋にいた。(コマ落ちかもしれないけれど。)
 このDHC-3オッター「つばめ号」。不幸にも、5年後に淡路島に墜落してしまう。


【36】喧嘩鴛鴦(1956大映京都)監督;田坂勝彦  →
【37】 →【35】

「こりゃーぶったまげた馬の屁だー。」


【35】早射ち野郎(1961日活)監督;野村孝  →
【36】 →【34】

 つねづね笹森礼子という魅力的な女優に感じていたシンパシー。彼女の面影に重
ねていた何か。観るたびに、もやもやしていたものが、この作品を観て氷解した。
 舞台は、ダムの建設工事で生まれたブームタウン。西部劇そのままのセットに、
カウボーイスタイルで気の荒い男たち。女性の衣裳も、西部開拓時代を彷彿とさせ
るデザインだ。
 気が強くて聡明な教師役の笹森礼子。強い風の中、両足を踏んばるように開いて
立つシーン。厚手の生地のスカートがまとわりつき、小柄ながらグラマラスな肢体
が浮き上がる。
 山上たつひこである。山上作品に登場する、強き肉感的女性像。表情といいスタ
イルといい、ぴたりと重なった。彼の作品のファンである私には、嬉しい発見なの
であった。

 ついでにいうと、「お月様には悪いけど」(1958年日活/監督;堀池清)。
 国際線スチュワーデスの東谷暎子。ショートカットで、とびきりキュート。これ
が手塚治虫の描く美人を思わせる。手塚作品のヒロインはモデルが彼女だった、と
いっても信じられそうなくらいだ。目がそっくりなのである。「太陽の季節」を観
たときには、そこまでは気づかなかった。


【34】香華(こうげ/1964松竹大船)監督;木下恵介  →
【35】 →【33】

 乙羽信子のダメ女ぶりは絶品。ワガママ、ジダラク、アッケラカン。本能のおも
むくまま、やりたい放題の末に死んでゆく。
 そんな無責任な母親に、60年に渡り、振り回され続ける娘・岡田茉莉子
 二部冒頭、敗戦直後の焼け跡で交わされる二人のやりとりは、間の良さもあって、
上質のコントのようである。……セットの書き割りっぽさも、加担しているが。

 作中登場する廓用語、「お職を張る」。
 時は大正、遊女になって、東京から静岡は二丁町(にちょうまち)に流れ着いた
乙羽、かなり年増だが、デビューしてすぐに、お職を張る。つまりナンバーワンに
なる。鼻高だか。
 ところが、別れた亭主の子を宿していたので、すぐハラボテになり、物置のよう
な部屋に押し込まれる。本作の乙羽を象徴するダメぶりだ。
 この時、やることがない乙羽、石臼でごりごり、茶の葉を挽かされている。なる
ほど、御茶をひくとは、こういうことか。

 半玉として修行の後、赤坂で水揚げされて、芸者の披露目にまわる岡田。見番の
男衆が付いて回って、「ツガワ(置屋の名)の、小牡丹さんです。」


【33】その壁を砕け(1959日活)監督;中平康  →
【34】 →【32】

 おどろくなかれ、この年、三国トンネルが開通するまで、自動車では上越国境を
越えることはできなかった。鉄道は、川端康成の「雪国」で有名な清水トンネルが
戦前に開通しているが、道路を使って東京から新潟へ行くには、歩いて峠越えをす
る以外、長野まわりか、会津を経由するかしかなかったのである。
 さっそくその新ルートを使うべく、自動車修理工の小高雄二は、五千円札40枚
を並べて買った、中古のトヨペットマスターライン・ライトバンで、新潟の看護婦・
芦川いづみを嫁に迎えるため、今ではとても国道とは思えない貧弱な道を登ってゆ
く。
 ところが、三国峠を越えた麓の村で、事件に巻き込まれるのだ。郵便局長・二木
草之助殺害事件の容疑者にされてしまった小高。人情派弁護士・芦田伸介とともに、
芦川は小高の嫌疑を晴らすべく奮闘する、良くできたミステリー映画。

 さて、事件の起こる直前に、話を戻す。物語とは全く関係ないが、もうひとつの
ミステリーが隠されているのだ。
 深夜、三国峠の頂上にたどりつき、小憩する小高。闇の中に、新潟県、群馬県と、
それぞれの境を示す矢印の標柱が、ヘッドライトに浮かび上がる。新潟側から定期
便のトラックが上がって来る。手を振って止めた小高は、トラックの運転手に、新
潟に朝までに着けるか、様子を問う──実際はノロケ──のだが……。
 なかなかいいシーンである。ただ、狐にだまされたか、これから起こる悪夢の前
兆かは知らねども、その交歓場所は本当の三国峠ではなかったのである。
 なぜならば……。
 峠のトップ、つまり国道上の県境はトンネルの中なので、このシーンはありえな
いのだった。


【32】おかあさん(1952新東宝)監督;成瀬巳喜男  →
【33】 →【31】

 私が書くまでもない周知のことだが、香川京子(18歳の役)、高島田姿を含め、
キュートな魅力満載。
 田中絹代かあさんも、優しくてしっかりもの。
 しかし、見所は、颯爽とした中北千枝子
 東宝を、いや日本を代表する名オバチャン女優、ニッセイのおばさん。成瀬作品
では特にダメ女役で光る彼女。今作では、修行中の美容師役。姉・絹代に息子を預
けてはいるものの、おしゃれで明るく、自信に満ちている。スタイルも良く、メガ
ネが似合う。
 彼女の唯一の主演作にして、世界のクロサワ作品「素晴らしき日曜日」は、若い
娘を演じ、スクリーンから観客に語り有名なシーンもあるが、演出上もあるのか、
少々不細工に見える。今回見せる、溌剌とした役がファンには嬉しい。
 そしてもうひとつ、見逃せないオープニングのキャストクレジット。
 1枚目に田中絹代、2枚目に香川京子と岡田英次ときて、4枚目。ずらりと並ぶ
オバチャンたちが壮観。
 三好榮子/中北千枝子/本間文子/一の宮あつ子/澤村貞子(順不同)


【31】愛染かつら 総集篇(1938・39松竹大船)監督;野村浩将  →
【32】 →【30】

 岡村文子の初認識が、「ある見習看護婦の記録 赤い制服」(1969大映東京)
というちょっと異色の歴史を刻んだわが映画歴。婆優としてもおなじみだが、舎監
など、こうるさいオールドミスがはまり役で、「〜赤い制服」では、「オババの方」
という婦長を演じている。
「愛染かつら」を後から観て、婦長役は、戦前の有名作品作に因んだものと知る。
「キットデスヨ!」

 若き草香田鶴子出雲八重子が、三枚目の看護婦コンビで活躍するのも嬉しい。


【30】赤い鷹(1965松竹大船)監督;井上梅次  →
【31】 →【29】

 松竹+ビクター+ヤクザ+井上梅次=「赤い鷹」。主演は橋幸夫。助演の待田京介
の視点から描くと「残侠小唄」となる。
 さて、今回の見所は、ゴーゴーバーの支配人室。壁に貼られた、「紫シマ子」と
文字だけ書かれた、何の変哲もないポスター。別段、本作とは関係ない名前だ。
 ところが、この「紫シマ子」が主人公の映画が別にある。
「バナナ」(1960松竹大船/監督;渋谷実)
 暴走するキュートな岡田茉莉子演じるサキベエこと島村サキコ、突然、シャンソ
ン歌手になるといいだして、その芸名がアナグラムで「紫シマ子」なのだ。マネー
ジャー・伊藤雄之助が街中に、べたべたとポスターを貼りまくる。
 そのポスターが、5年後にまだ残っていたのである!
 劇場でそのシーンを観て、私は叫びそうになった。同じ松竹だが、監督も美術も
別人だし、実際には同じポスターかどうかは分からないが、なぜ5年の時を超えて
再びその名が登場したのか?

 小道具の使い回しは、意図的なシャレや、単なる融通の場合もあろうが、気づく
と楽しい。
満員電車」(1957大映東京/監督;市川崑)の舞台となる「ラクダビール」社、
その名入りケースが積んであるのを、別の作品の、倉庫だかトラックの荷台だかで
目撃して、ニヤリとした。「真昼の対決」(1957大映東京/監督;田中重樹)だ。
 マンガ作品の、青木雄二著「ナニワ金融道」は、すみずみまで描き込まれた画風
で知られ、背景に看板の名称までいちいち凝っていて、ここにもラクダビールを発
見。これは単なるキリンに対するパロディか、アシスタントに市川崑マニアがいる
のか?
 ウェブ検索をすると、私は未見の「香港クレージー作戦」(1963東宝/監督;
杉江敏男)にもラクダビール社は登場するようなので、そちらかもしれない。

※追記 「不適な男」(1958大映東京/監督;増村保造)は、くどいくらいASAHI
ビールのラベルが映るが、ラストの撃ち合いシーンで、「ラクダビール」の木製ケー
スが画面の隅に置いてあった。主演は満員電車と同じく、川口浩である。


【29】人間狩り(1962日活)監督;松尾昭典  →
【30】 →【28】

 クライマックスは深夜0時、京成線の町屋駅、高架上のホーム。
 その名場面の前、緊迫したフィルムの中、深閑としたガード下を、酔っぱらって
鼻歌まじりに自転車で通り過ぎる男。丸に「大工」と書かれた印ばんてんの後ろ姿
しか映らないが、その声は、榎木兵衛に違いあるまい。


【28】[シリーズ]事件記者(1959〜1962日活)監督;山崎徳次郎
  →
【29】 →【27】  →【日活版事件記者おぼえがき】

 1958年(昭和33年)4月から、8年に渡り放送された、NHKテレビの人気ドラマ
「事件記者」を、日活が映画化。
 テレビ放送開始翌年の1959年から、1時間前後のSP映画(2本立て興行のうち
の添え物映画)として10本が公開された。
 監督は山崎徳次郎。
 島田一男原作、警視庁の記者クラブ詰めの新聞記者たちの活躍を描く。永井智雄
演じる相沢キャップの「東京日報」を中心に物語が進むのは同じだが、当時、生放
送でスタジオ撮影のテレビドラマとは異なり、ロケを多用。また、出演者も、メイ
ンキャストに映画オリジナルの日活若手スター・沢本忠雄を起用し、テレビ版の主
要キャストの、アラさん・清村耕次や、シロさん・近藤洋介といった面々は出演し
ていない。三保敬太郎のハードなジャズの音楽効果もあって、テレビとはかなり異
なった印象である。
 後に製作された、東京映画版の「新・事件記者」シリーズは、出演者を含め、テ
レビ版に近い設定で、こちらの方がテレビの世界観をよく伝えていそうである。

 10本それぞれ、扱うテーマや事件の舞台を変え、演出方法も作品ごとに趣向を凝
らす。限られた時間の中で、テンポ良く話は進む。
 ある時は競争し、またある時は協力し、一喜一憂する各社記者たち。新米記者、
スガちゃん・沢本忠雄の成長。食いしん坊ガンさん・山田吾一のコメディリリーフ
ぶり。重鎮の八田老人・大森義夫や「バッキャロー」が口癖の浦瀬キャップなど、
個性あふれる出演者が追いかける、難事件、怪事件。
 舞台となるのは、オリンピックで変貌する前、人口900万の首都、東京各地。東
京タワーはすでにあるが、首都高速道路の建設もまだ始まらず、街中を縦横に都電
が走る。山崎監督は、鉄道好きなのか、必要以上に電車が映りこむ。
 そして、胃腸薬「ワカ末錠」(中村滝製薬)を始めとするタイアップ商品の登場
も楽しい。
 必要なときに、都合よく現れる電話ボックス、タクシー、拳銃、そういうことは
気にせずに、職人芸の映画造りを堪能しよう。


【27】地図のない町(1960日活)監督;中平康  →
【28】 →【26】

「センセイ、よっぽど映画がお好きなんですねェ。よく見かけますぜ、ここで!」

 言われているのは葉山良二だが、「黒い画集 あるサラリーマン〜」同様、観てい
る方も、どきりとするではないか。
 劇中のスクリーンに映っているのは、石原裕次郎、「狂った果実」。


【26】黒い画集 あるサラリーマンの証言(1960東宝)監督;堀川弘通  →
【27】 →【25】

 ※2022.1.9〜19 ラピュタ阿佐ヶ谷

「あなたはいつも映画を見ておられる!」
 そう西村晃に怒鳴られると分かっていても、原知佐子のホットパンツ姿を見たさ
に、私は、またも劇場に足を運んでしまうのであった。


【25】吹けよ春風(1953東宝)監督;谷口千吉  →
【26】 →【24】

 前章で、運転手役者というポジションの哀感を替歌にのせてみたのだが、東宝の
看板役者・ミフネがタクシー運転手役の映画があった。それが本作。
 三船敏郎演じる人情運転手が主人公なので、役は運転手でも、いやそれゆえに、
彼の出演作中でも、全体における登場時間の割合は、屈指のものだろう。
 プロローグとエピローグを含めて、9つのエピソードが語られる。谷口監督が2
年後に発表する、「33号車応答なし」と姉妹作品といえそうだ。かの作品では、
これまた大スター・池部良が、パトロールカーを「運転」する。

 さて、本題に戻して、主題から目をそらす。
 日本三大汚婆の1人、三好栄子。今回は大阪育ちの上品な婆さん。もと料理人の
小川虎之助(日本三大社長)と老夫婦。銀婚だときいた三船、途中で立寄ったガソ
リンスタンドで、花を分けてもらってプレゼント。感激した2人に自宅へ呼ばれて
御馳走になる。その日石のスタンド。おそらく、今もビルの下で営業を続けている、
宮益坂上(金王坂上)のエネオスだ。日本石油渋谷給油所とある。
 その証拠に、スタンドを後にするタクシー、青山通り沿いに、数年前まで奇跡の
ように存在した、「小川はかり店」が映り込んでいる。

 日劇前からスター、アワジヒカル・越路吹雪を乗せた三船。彼女の大ファンとい
う妻のためにサインを、と差出した手帖。そこに越路は、三船が書いた歌詞、「黄
色いリボン」の替歌を見つける。
 ♪オイラの黄色いクルマ カタチはいささか古いけど
  素敵な黄色いクルマ 乗れば心も軽くなる
  君よ 知るや 町の砂漠に咲いた花
  君よ 知るや 黄色いクルマのこの秘密
 外苑を2人でデュエットしながら快走するシーンは楽しい。

 心暖まる物語が綴られるこの映画、全篇を流れる芥川也寸志の音楽が、これまた
素晴らしい。

「どんなもんでえ。」「パーパ、ニーホイライラ。」
「なんていうんだっけな……、メリークリスマス!」

[ノンクレジット備忘録]
河美智子……ピストル強盗から逃込む中華料理店の店員 ※女中・店員の第一人者
山本廉………子供達を満載して日本橋交叉点、交通整理の巡査
岡豊…………遺影(小川・三好夫婦の息子) ※東宝三大豊(佐田豊/中山豊)
渋谷英男……新宿駅前?のタクシー整理係 ※ほんの一瞬、横顔しか映らないが、
      あの眉毛は、渋谷英男に違いない。

※戦前型ダッジ、左ハンドル観音開き。社名は“ORIENT”、ナンバーは3-76175。

  →◆◆エピソード詳細◆◆


【24】彼奴を逃すな(きゃつをにがすな 1956東宝)監督;鈴木英夫  →
【25】 →【23】

 サスペンス映画の名作。見せ方が抜群に巧い。
 光、音、アングル・画面構成。スタンダードサイズに、きゅっと締まって、どき
どきする。キャスティングがまたいいのである。東郷晴子が少々お上品すぎる気が
するけれども。
 国電の高架築堤下、線路に向って直角に伸びる商店街。
「鹿島町」という架空の町。
 画面下手から、豆腐屋、路地、主人公の木村功津島恵子夫婦の「藤崎洋裁店」、
畳屋、カメラ屋、酒屋、つきあたりに道路を隔てて、国電の築堤。
 洋裁店の向いが、事件の起こる「平和住宅社」、当時で云う周旋屋である。
 おそらく商店街はセットで、築堤上を走る電車は合成だ。

 東宝マークのバックに蒸気機関車の汽笛。夜空、見上げる築堤上を、右から左へ
貨物列車が走り抜ける。旧き佳き、二軸貨車主体の雑多な編成だ。有蓋車、無蓋車、
タンク車……。
 貨車の流れに乗って、右からタイトルが出てきてストップ。再び左へ消えてゆく。
続いて、スタッフ、キャスト、監督名が一瞬止まりながら流れてゆく。
 その間、ずっと列車は画面を横切り続けている。100両まで数えたところであきら
めた。

 私・寒空はだかが勝手に調査対象にしている、定点観測役者の1人、河美智子は、
失業中に趣味のラジオ修理で家計を助ける木村功に、修理を頼みに来る、近所の主
婦役として登場。
 黒澤明監督の「天国と地獄」(1963東宝)のお抱え運転手役で名高い佐田豊
ここでもタクシー運転手を演じる。

♪教えてください この世に生きとし生ける者の
 全ての役者が 運転手をやるのならば
 三船はやりますか 池部はやりますか 加山はどうですか いき雄はそうですね
 教えて〜ください〜  (さだゆたか/ワキ守の詩)


【23】我が家は楽し(1951松竹大船)監督;中村登  →
【24】 →【22】

 家族が大好き、山田五十鈴かあさん。四六時中、家族のことばかり気にかけてい
る。
 夫・笠智衆の勤続25周年表彰の金一封を持って、夫婦で高島屋へお買い物に。
 呉服売り場に連れてゆく笠、でもやはりまず、子供の買い物を、という五十鈴に
「忘れさせてやろうかな?」
「まあ、悪いおとうさん。」

 画家の卵、娘・高峰秀子のモデルになってポーズをとる五十鈴は、そのままで、
日本画のようである。


【22】花ひらく娘たち(1969日活)監督;齋藤武市  →
【23】 →【21】

「バイバイ、ココアちゃん。」
キーパーソン、バーみんくすバーテンのシンジ・渡哲也。忽然と登場し、危険な香
りをぷんぷん振りまきつつも、カッコ良さだけを残して去ってゆく。
 ココアちゃんというのは、コーヒーは苦くて嫌いだが、ココアは大好きという、
ウブなタミコ・吉永小百合に勝手につけたアダ名である。この映画はバンホーテン
とタイアップなのだ。
 ビールは珍しくもサントリー。ジョッキの描かれた青ラベル。
 全篇、清水市内(哀しいかな現在は静岡市清水区)で進行するこの映画、地元企
業の鈴与やシャンソン化粧品も協賛している模様である。白赤ツートンカラー時代
の静岡鉄道の電車もひんぱんに映る。主役の「柿崎家」は三保の松原近辺。
 清水港の観光船に乗ったり、今はなき狐ヶ崎ヤングランドも登場。結婚式も同市
内の日本平観光ホテル(現・日本平ホテル)。

 元士族の裕福な家庭。清水将夫と坪内美詠子に4人の子供達。
 上から吉永小百合、和泉雅子、沖雅也、松原マモル。ヒロイン吉永のお相手は、
おなじみ浜田光夫というラブロマンス。対抗のコメディリリーフに杉良太郎
 歌のゲストに、ピンキーとキラーズ。大ヒット曲「恋の季節」を、例の恰好で、
こってりと。

 水割りも知らない箱入り娘のサユリちゃん、クライマックスに衝撃の仰天告白。


【21】麦秋(1951松竹大船)監督;小津安二郎  →
【22】 →【20】

「紀子さん、パン食べない?アンパン。」


【20】浮草(1959大映)監督;小津安二郎  →
【21】 →【19】

 舞台は盛夏である。日本の夏といえば……、シミーズ姿の賀原夏子


【19】鉄砲玉の美学(1973白楊社・ATG)監督;中島貞夫  →
【20】 →【18】

「ワイはテンユウ会のコイケキヨシや!」

渡瀬恒彦「吠えェ!」杉本美樹「ワンワンワン!」

森みつる[アンタのウサギ、大きくなったよ……。]

 そして、渡瀬が、フライパンから直接食べる焼きそば。ウサギのエサにと八百屋
の店先から拾ってきたキャベツしか入っていない、と思われるソース焼きそばが、
妙に美味しそうなのである。


【18】最後の切札(1960松竹大船)監督;野村芳太郎  →【19】 →【17】

 松竹の二枚目スター・佐田啓二が、金と女に執着を燃やす貪欲な男を演じる異色
作品。新興宗教の暗部をついて、一世一代の強請りを仕掛ける。ピカレスクロマン
とかクライムサスペンスとかいう類いであるが、非常に丁寧に美しく、しかもテン
ポよく撮られている。
 にもかかわらず、盛夏の東京に、アクの強い曲者をそろえて、汗だらだら、欲ぎ
らぎら。
「セイテンセイコンセイシン、フーメツ、フーメツ、フーメツ!」印を結んで目を
見開き、経文を唱える、取調室の不滅教会幹部ツヤマを演じる浜村純に、開始早々、
マニアはまず狂喜乱舞だ。
 宮口精二、加藤嘉、殿山泰司、柳永二郎、河野秋武、三井弘次、多々良純、上田
吉二郎、ジェリー藤尾、佐藤慶
、……。
 ものまねしてもらうために作られたような映画である。坂本頼光氏なら、1人で
全部吹替えられるだろう。
 クライマックスに、満を持して、人夫役の西村晃小池朝雄。「掘るだけだ〜よ。」

 あらゆる資料に、炎加世子の名が出演者として載っているが、まず間違いだ。劇
場で3回観たが、タイトルバックにクレジットもされていない。頭の弱い家出娘・
マミコ役と表記されているが、本編クレジットから類推すると、若葉慶子(S.K.D.)
が演じている。顔は似た感じなのだが、炎らしい華がない。

 健気なクラブ歌手、桑野みゆき。佐田作詞の「タンポポ」に、曲をつけて歌う。
(♪かるやかに) ※チャチャチャのアレンジ
  タンポポ、タンポポ、野原にぽっつり
  タンポポ、一りん、タンポポ、ひっそり
  優しい声で、小さな声で
  もしもしそこ行くお百姓さん
  お仕事どっさりごくろうさん
  ポポ、タンポポ、タンポポ、野原にぽっつり
  タンポポ、一りん、野原のタンポポ

 土をかけられる佐田啓二。死んだはずの佐田啓二。土が当ったか、まぶたが、ぴ
くぴく動く。


【17】黄色いさくらんぼ(1960松竹大船)監督;野村芳太郎  →
【18】 →【16】

 メインの三人娘が、芳村真理、九条映子、国景子。芳村の彼氏が穂積隆信という、
今見ると、およそそそられない配役なのだが、そのあかぬけなさが愛おしい。タイ
トルの通り、スリーキャッツのコーラスをブリッジに話は進む。
 九条映子はSKD出身、後の寺山修司夫人で、令嬢役がよく似合う。
 大々的に熱海ロケ敢行。人望の厚い好漢・建築技師の穂積が監督する現場の、ケ
ンカっぱやい作業員に大杉莞児(侃二郎)、その妻が谷よしの(1シーンしか出な
いが)、というザ・松竹端役タッグが嬉しい。
 初期のカラー作品らしい、カラフルでオシャレな衣裳は、三愛の提供か。

 余談ながら、杉葉子、芳村真理、芹明香を秘かに、700系トリオと呼ぶことにす
る。


【16】「空の大怪獣 ラドン」(1956東宝)監督;本多猪四郎  →
【17】 →【15】

「ゴジラ」「ゴジラの逆襲」に続く円谷特撮怪獣映画で、スタンダードサイズなが
らカラーに。ミニチュアシーンの見事さは、いうまでもない。
 もう一つ特筆すべきは、東宝の常連端役の、今泉廉宇野晃司の代表作なのであ
る。クレジットありなしの当落線上の役者さん達の中では記名率は高いが、認知度
は低いこの2人。
「33号車応答なし」(1955東宝/監督;谷口千吉)で、志村喬に必死に呼びか
ける警視庁の無線係、「ゴジラ」(1954東宝/監督;本多猪四郎)でも、船会社
の無線係をこなして、無線役者と私の中で位置づけられている今泉廉。本作では、
地震研究所のスナガワ博士として、重要な役を演じている。対策本部の決定にも不
服で、反論する。
 かたや、東宝のシスターボーイといえばこの人、ホテルのフロントも得意な宇野
晃司。個人的にも他人のような気のしない彼。セリフは少ないものの、セイブ新聞
の記者として、イゼキ記者・田島義文とともに、対策本部に同行取材。宇野史上、
空前の露出度を記録している。

※今泉廉は他に、
「脱獄囚」(1957東宝/監督;鈴木英夫)
「奴が殺人者だ」(1958東宝/監督;丸林久信)
でも、警視庁の無線係を演じている。
「殉愛」(1956東宝/監督;鈴木英夫)では、海軍の無線兵。キャストクレジッ
トで、山本廉と並ぶ。


【15】「涙を、獅子のたて髪に」(1962松竹大船)監督;篠田正浩  →
【16】 →【14】

「よォ、ノブコさんじゃありませんか!」
 特別出演とカッコ付の丹波哲郎、唐突に登場。役名は知らないが、「丹波哲郎」
という役でも問題ない。


【14】「特急にっぽん」(1961東宝)監督;川島雄三  →
【15】 →【13】

 新幹線開通前の国鉄の花形特急「こだま」。東京から大阪へ向う乗務員の物語。
ダイヤ通りに走れば6時間半。
 主人公は食堂車乗務員のカップル、キーやん・フランキー堺と、サヨちゃん・
令子
。そこに性格の悪い、元華族出身の美人乗務員イマデガワ・白川由美がからむ。
食堂車中心に描かれているところが楽しい。日本食堂の大阪の営業所チームだ。
 プレスシートによると、車内シーンは全てセットとあるが、非常に良くできてい
る。忠実に再現された車内には、当時でも珍しい、ビジネスデスク、エアータオル、
車内電話などが登場する。細かいところでは、引掛け式の小テーブル。少し前、肘
掛けの中に収納されていたタイプのテーブル、あれがその頃はまだ着脱式になって
いて、シート裏の網ポケットに収納されたいた。今でも見られる網ポケットはその
名残だ。乗客(社長・小沢栄太郎)が網ポケットから取出して、取付けるのが映っ
ている。
 昼間に、東京と大阪を結ぶ特急が4往復しかなかった時代、乗っているのは名士
や金持ばかり。車掌以外に、白川や横山道代の扮する容姿端麗な女性乗務員「スチュ
ワーデス」が、乗客にサービス……。ところがこれはフィクション。「こだま」登
場以前から、東海道の主役として活躍した特急「つばめ」と「はと」には、「つば
めガール」「はとガール」というアテンダントがいたのだが、前年のリニューアル
時(「こだま」同様に電車化された)に廃止になった。
 そうなると、冒頭、泊り勤務の食堂車の男性乗務員が、車内のテーブルの上で寝
ているのも、演出上の嘘かもしれない。しかし、かつて夜行列車の食堂車の乗務員
は、テーブルの上で仮眠したということなので、このへんは怪しくても気にすまい。
 あまりその向きばかり書いていると、飽きそうなので、役者の見所。
 言われなければ絶対気づかない出演者、藤岡琢也。ビュフェのバーテン役。ヒゲ
もメガネもないので、なかなか分からないはずだ。宿泊所で煙草を喫うと、[禁煙
でっせ]とフランキーに言われ、[東京の営業所はハイカラになっちゃって]と
東京弁を揶揄して返す。
 そして、「困ってしまう」が口癖のマザコン男・滝田裕介(溺愛する母親は沢村
貞子)や、チャイナドレスの中島そのみと「さっささくら、さくらガム」とでれで
れ歌う、さくらガム社長・小沢栄太郎。フランキーを叱咤するチーフコック・森川
信。その他にも、おなじみの東宝らしい出演者が脇を固める中に、見慣れぬ美人が
一人。
 ドクターこと宇野晃司が面倒を見るシナリオライター。車内でも寸暇を惜しんで
執筆作業。誰あろう、姿圭子。「俺にまかせろ」(1958東宝/監督;日高繁明)
でヒロイン、ナイトクラブ・オークルゼイロのマリを印象的に演じたきり、めった
に姿を見せない彼女の美貌が拝めるのである。


【13】「だめですかあ……。」  →
【14】 →【12】

 本を抱えた女、男とぶつかる
「! ごめんなさい。」
「あのう……。」
「?」
「薬学部の実験室はどっちでしょうか。」
「ああ、それなら、この先よ。」
「どうもありがとう。」男、意味ありげに振返りつつ、そのまま歩いてゆく。
 女、続いて何か気になったか振返るが、そのまま反対方向へ歩き去る。エンドロ
ール。


【12】幸福の黄色いハンカチ(1977松竹)監督;山田洋次  →
【13】 →【11】

「……あんたは奥さんですか?」

 炭坑町夕張のスーパー。チョンガー高倉健は、思いを寄せるレジ係の倍賞千恵子
の列に今日もならぶ。
 無愛想ではないが親しげというほどでもない、常連らしい、ごく普通の店員と客
のやりとり。スーパーでは珍しい、イイ歳をした男性客であることが、なんとなく
気になっていたのだろう、商品に目をやり機械を打ちながら倍賞、
「奥さん病気なの?」
独り者だと答える高倉。
倍賞「あ、ごめんなさい。」
高倉「あのー、……あんたは奥さんですか?」
 思いが先走った、高倉の妙で、恰好悪い言い回し。語られるのは後半だが、物語
の発端であるこのシーン、ラストと並ぶ名場面だ。


【11】お国と五平(1952東宝)監督;成瀬巳喜男  →
【12】 →【10】

「死ぬのはいやだ!」
 自ら怠け者で嘘つきで、と認める侍、友之丞・山村聡が、仇討ちの場面で叫ぶ。
子供のような目をした情けない山村、おそるべし。
 ウェブ上の大概の資料の出演者に、柳谷寛の名前があるが、出ているだろうか。
「配役」として、役名付きのクレジットがなのだが、確かめ損ねる。少なくとも、
薬売りではない。旅役者の中に堺左千夫の顔。
 武家の妻、誰もが振返る美貌のお国・木暮実千代は、殺された夫、伊織・田崎潤
の仇を討つため、小者の五平・大谷友右衛門(四代目中村雀右衛門)と旅に出る。
[このまま友之丞様が見つからずに、奥方様と旅を続けられたらと……]
 ついに、若い供侍五平・友右衛門に、本音を言わせた時のお国・木暮の妖艶なこと。


【10】アパートの鍵借ります  →
【11】 →【09】

 映画の実景に登場する場所。時おり気になるのが、豪邸として登場する門や洋館。
なんとなく前にも観たような、ということがある。旧古河庭園くらい有名なら別だ
が、2本続けた時に、両方に出ているのでなければ、さすがに記憶には残らない。
東宝の撮影所に近い、成城あたりの御屋敷は、常連のロケ地がありそうである。で
も今回は、豪邸ほど借りにくくはない場所の話。

「可愛いめんどりが歌った」(1961大映東京/監督;富本壮吉)
「夢でありたい」(1962大映東京/監督;富本壮吉)
 この2本を続けて観た時である。なんの変哲もない2階建てのアパート。私は発
見に、ひとり興奮したのであった。
 前者で、映画の主役に抜擢された大空真弓に、脚本家の菅原謙二が借りてやる
「光アパート」。菅原の夫人・左幸子に、2人が一緒にいるところを踏み込まれる
(この嗅覚のするどい女は、左のハマリ役だ)。同じ建物に、翌年には、建築士の
田宮二郎が住んでいて、日比谷辺りの真珠店に勤める山本富士子が訪ねてくる。後
者では、代官山という設定になっている。前者で、大空真弓がアパートから坂を降
りて踏切にさしかかると、東急のアオガエル(渋谷ハチ公前で、足をもがれた無惨
な姿でさらされているあの電車)が通り過ぎる。律儀にも、東横線の沿線でロケし
ていることは、まちがいなさそうだ。
 誰かにこの興奮(アパートが意味もなく同じであったこと)を伝えたくて、恥ず
かしくも迷惑を省みず、劇場の受付嬢(実は支配人)に発見を話しかけたら、「ミ
ラクルですね。」と呆れずに受け止めてくれた。この映画館を贔屓にしよう、とそ
の時思ったのであった。


【09】充たされた生活(1962にんじんくらぶ)監督;羽仁進  →
【10】 →【08】

「じゅん子よ!ガスのせん、閉めたか?」(アパートのドアの貼紙)
??

【08】人間蒸発(1967今村プロ/日本映画新社/ATG)監督;今村昌平  →
【09】 →【07】

「人間蒸発」という題名だから、本多猪四郎×円谷英二の特撮ものかと思ったら、
今村昌平の、ドキュメンタリー仕掛けの作品であった。それはそうだ、今はATG
特集だもの。「セット飛ばせ!
 明らかに、ネズミ・早川佳江の姉、サヨ(チャアちゃん)が嘘をついているが、
決して口を割らない。証人、おとと屋の店員が出てきて、勝負あったかと思われた
が、それ以上に敵は手強かった。
 前半の地道な取材映像にかわって、サヨとの行方の見えない攻防は飽きさせない。
露口茂、今村監督、当事者の2人に、証人の5人で行われていたノンフィクション
の裁判。その狭い部屋がセットという作り物の中で行われていた、と分かった時の
驚きたるや。
「今村昌平ワールド」というサイトに、詳しい製作裏話あり。


【07】若い樹(1956東宝)監督;本多猪四郎  →【08】 →【06】

 はたして「うどんかけ」なる表現はいつまで生きていたのか?
 かけうどんの陰ででいつ絶滅したのかは知らぬが、うどんかけという言葉、かの
「生きる」(1952東宝/監督;黒澤明)の中で生きている。
 ……などと、本題と関係のない導入部は感心しないが、このうどんかけ、古い映
画を観ていると、ちょいちょい耳にするわけである。

[うどんかけ、上がり〜。]
 母を亡くし、熊本から東京の叔母・清川虹子のもとへ預けられるのが、本作の主
人公の、ばってんさん・青山京子、東宝の健康優良児。世田谷は千歳船橋駅界隈の、
やぶ新というそば屋である。
 清花女学院なる女子高が舞台の、明朗学園物。はじめ、ばってんさん・青山に嫉
妬する資産家の娘に森啓子。この父役が、「生きる」で、昼食は毎日、うどんかけ、
と揶揄された志村喬。この作品では、無論、そんなものは食べない。上流階級なの
で、妻役は指定席、一の宮あつ子。
 さあそして、女中役に定着する前の河美智子が、クラスメート・オオハタハルエ
として、熱しやすく冷めやすい、いかにも女の子の典型として、活躍しているのが
嬉しい。

※「洲崎パラダイス赤信号」(1956日活/川島雄三)でも「うどんかけ上がり〜」


【06】こだまは呼んでいる(1959東宝)監督;本多猪四郎  →
【07】 →【05】

 ラピュタ阿佐ヶ谷のモーニングショー、「怪獣の出ない」本多猪四郎特集のライ
ンナップに、「こだまは呼んでいる」を見つけて、今から楽しみである。
 運転手・池部良、車掌・雪村いづみのコンビが乗る田舎のバス。営業所は、スイ
ッチバック時代の韮崎駅(中央本線・山梨県)でロケを行なっている。すれちがう
のもやっとの砂利道を、砂ぼこりをあげて、山交のボンネットバスが進む。増富温
泉、あるいは昇仙峡あたりへ向う路線を、漠然と、モデルと推察するが、実際につ
づれ折の細い山道を進む様子は、手に汗握る。
 以前に韮崎駅前を探索したことがあるのだが、全く面影はなくなっていた。駅か
らすぐとおぼしき商店街のシーンは、別の街かもしれない。(協賛に、甲府市とあ
る。)
 山奥の、とあるバスの終点に池部は下宿しているのだが、ここの大家の夫婦が、
左卜全と飯田蝶子。ありそうでないゴールデンコンビ。
 雪村を嫁に、と思っている麓の街のボンボンが藤木悠で、母親が沢村貞子、とい
うだけで、東宝ファンはたまらない。おなじみの東宝バイプレーヤーズ、あの人も
この人も。

※いすゞBX41/山梨2 い0147 韮崎駅〜紅葉沢〜青霧峠〜宿木(村)
※韮崎以外の地名は架空


【05】抱かれた花嫁(1957 松竹大船)監督;番匠義彰  →
【06】 →【04】

 →【05】キャスト・舞台情報

「さすがはグランドスコープですねえ!」

 まずは松竹を代表する2代脇役俳優そろいぶみを確認しておく。
谷よしの……舞台となる「鮨忠」の女中(クレジットもあるが、セリフはない)
大杉莞児(侃二郎)……美茄子(ビーナス)座員。鮨忠での狂言を頼まれた内の1人。

 音楽は花嫁シリーズおなじみの牧野由多加。軽快な、ガーシュインのMGM映画
調オーケストレーションで楽しい。日光のシーンなどは、「巴里のアメリカ人」調。

 さて冒頭、三社祭の浅草。本堂前での見合いのだましうちを終えて店に戻る、鮨
忠の望月優子有馬稲子は、今の浅草中央通を、新仲見世の方から南下。「三角」
の角を左に曲がる。今もそこで営業する、瀬戸物の京や、魚料理の三角が映る。舞
台設定を西南角の「紀文寿司」だと記憶していたが、左折しているので、今の鈴楼
の方に向ったどこかになる。作品中で、有馬稲子が乗ったスクーターには、「雷門
柳小路 鮨忠」とあるので、この通りを意識しているのは間違いない。

「先生、いい時代だったですねえ、何もかも!」
 レストラン「バンジョー」の支配人・高屋朗。かつて結ばれなかったオペラ歌手・
日守新一と、鮨忠の女将・望月優子のために、店を早仕舞して、貸切にする。日守演
じる古島東陽という歌い手の、若き日のレコードをバックにかける。
望月「マルタね……。」
 感極まって、日守の手をとって強引に踊りだす。それを、店の片隅で、高屋と、花
売りの少女が見守っている。暗い店の中、松竹グランドスコープの上下(かみしも)
で、ぼうっと灯りに浮かんだ2人と2人。いい時代であった……。


【04】新・事件記者 殺意の丘(1966 東京映画)監督;井上和男  →
【05】 →【03】

 事件記者シリーズの日活全10作に続く、東京映画版2作中の最終作。
 脚本はこの作品のみ、高橋二三と井上和男。
「南多摩市」郊外の別荘で起きた、原因不明の火災現場から6人の死体。事故か
他殺か、心中か。警視庁・桜田記者クラブの面々は、現場に滞在し、スクープ合
戦に明け暮れる。死者、関係者にそれぞれ、複雑な過去の因縁が絡んでいる。
 今回、12作を通じて初めて登場するのが、警察犬と、クラブでの麻雀、地方版
担当の通信員ならびに前線本部。
 かつて2・26事件のスクープをものにした敏腕記者、今は地方記者に甘んじ
ているイシカワロクゾウに芦田伸介。彼がメインゲスト。
 前作で主役の三上真一郎は、出演なし。
 漫才師Wけんじが、チョイ役以上に活躍しながら、往年の「ヤンナ!」他、テ
ンポの良い掛合いを披露している。
 難航の末、他殺に傾いた捜査の焦点は、容疑者の動機と、現場に残された特徴
的な靴痕。


[事件の顛末]
★9月6日(火)
 都下南多摩市、住吉町のバー黒猫から、2台のタクシーで、別荘の主人を含む
6人の男女が、悪徳不動産屋鬼頭・伊沢一郎の別荘にやってくる。
 泥酔状態で乱痴気騒ぎの末、プロパンガスによる中毒で全員死亡。
 タクシー運転手フジタ・富田仲次郎は、別荘に客を送り届けた後、無届の事故の
示談金を支払うため、「小形村(おがたむら)」へ。
 真犯人の運転手トミナガ・福田豊士は、夜半、風呂焚きに使われていたプロパン
ガスの栓を閉めた後、再び開栓し、別荘内にガスを充満させる。6人は中毒死。
★9月7日(水)
 別荘内での集団死を知らずに、ペンキ屋・東けんじ、宮城けんじ、屋根を塗る。
★9月8日(木)
 朝6時頃、死亡を知った運転手トミナガ、証拠隠滅を図るため、放火。火災発生。
 各新聞社の通信員より記者クラブに、第一報。各社、記者を現場に飛ばす中、現
地に通信員をおいていない中央日日だけ情報が入らず、事態がつかめないが、無理
矢理、他社を追いかける。
 鎮火した南多摩市の火災現場。鑑識による靴痕の採取や、消防署による検証作業。
 この時点では、原因不明。6人のうち、鬼頭以外の5人の身元は不明。
 通信員の見当たらない東京日報、本社記者たちが独自に聞込み。野次馬の中のペ
ンキ屋2人、関わり合いになりたくなくて、証言せず。
 所轄・南多摩署の捜査本部で会見。依然1人身元不明。死亡原因は、事故、心中、
他殺の可能性ありと発表。死亡推定の6日夜、別荘へ向かったタクシー運転手が、
今朝から行方不明との情報は伏せられる。
 東京日報の記者たちは、通信員の娘・大空真弓から、通信員イシカワ・芦田伸介
の行方を知る。旅館「新宿屋」で前線本部を立上げていた上に、スクープをとるた
め、2人の運転手を捕獲していた。
 日報前線本部は、前線キャップのベーさん・原保美、イナちゃん・滝田裕介、ア
サノのダンナ・綾川香、カメラマンツジ・北浦昭義の4人。
 一方、出遅れた日日は、焼けた別荘の持ち主で、死んだ鬼頭の夫人の、独占イン
タビューに成功。女中を丸め込んで、鬼頭の写真を入手。その上、偶然にも、代金
の請求に来たペンキ屋(空白の時間に立会った重要参考人)から、代金と引換えに
取材に成功。誇大広告で欠陥住宅地を売りつけていた、その恨みではないか、とペ
ンキ屋は語る。現地にツテのない日日取材陣は、仕方なく、連込み宿に投宿。
 当初、アリバイがなく、最も怪しいと目された、バー黒猫バーテン・稲吉靖。の
ちに、賭博行為がバレぬようにアリバイを証明できなかった、とシロに判定される。
 同夜、タクシー運転手の事情聴取。フジタは、鬼頭と、同乗した2人の女の間で
口論、と証言。 トミナガ、水虫がひどいと云う提示あり。(証言に合わせた回想シ
ーン。さりげなく、フジタの靴がアップになる。後に登場する黒いドライバーシュ
ーズではなく、白い革靴を履いていた。)
★9月9日(金)
 日報と日日の特ダネが紙面を飾る。日報通信員イシカワのもとに、運転手フジタ、
後部座席に忘れられていた、と云う生命保険のパンフレットを届ける。保険金殺人
の可能性をイシカワに示唆されたイナちゃん、パンフレットに記された営業所と外
交員の名前を手がかりに、「極東生命世田谷営業所」(設定では三軒茶屋、ロケ地
は小田急沿線)へ。
 外交員佐々木が、火災当日から出勤していないこと、また契約医から、鬼頭が保
険加入のための検査を受けていたことを聞き出す。さらに、一人暮らしの佐々木が
月に1回外泊をする、またネタ元は不明だが、佐々木が三国人との情報を得る。
 東京都内は「ひさご」で報告を受けた、相沢キャップ・永井智雄、佐々木は鬼頭
の愛人と推理(日報相沢の勇み足)。
★9月10日(土)
 日報のスクープ、6人目の被害者は、生保外交員の三国人。記事を見て駆けつけ
た、佐々木の娘、松尾嘉代と赤沢亜沙子から、鬼頭との関係はない、また三国人報
道による不利益を抗議される。誤報に落込む、前線キャップのベーさん。
 鬼頭夫人・三戸部スエは、生命保険締結の事実を知らず、シロ。保険金殺人の線
は消える。
 観客向けに、運転手トミナガの妻・瞳麗子が、焼死した麻雀店主、オオサワと肉
体関係があり、トミナガが根に持っている、と云うシーンの提示。
★9月11日(日)
 捜査本部に運転手トミナガ出向き、運転手フジタが、死んだ鬼頭に恨みをもって
いた、と証言。捜査陣、フジタ犯人説に傾く。焼け跡に残された特徴的な靴痕と、
フジタのドライバーシューズが一致したため、本庁刑事ムラチョウ・宮坂将嘉、フ
ジタを任意聴取。フジタ、6日の別荘の後のアリバイを主張するも、受入れられず。
この模様を、ヤブ蚊にめげず、新日タイムス記者セイカイどん・前田昌明が窓の外
から盗聴に成功。
 同時に、捜査本部では、プロパンガスによる窒息死の後、何らかの原因で、ガス
に引火して火災発生との見解が発表される。
★9月12日(月)
 タイムス朝刊、久々のスクープ。犯人は運転手フジタ、靴痕の一致と、怨恨と云
う動機。ところが、フジタは、6日夜は、件の靴は履いていなかったと新証言。呆
然とする、ムラチョウ、ヤマチョウ・野口元夫。
★9月13日(火)
 各紙朝刊をにぎわす、捜査本部の「黒星」。
 証拠品の靴から、水虫薬の成分が大量に検出され、真犯人は、運転手トミナガと
断定される。
 外出先から帰ったトミナガは、捜査陣の張込みに気づき、武蔵野の雑木林を逃亡。
 一方、記者達に、夫トミナガの容疑を聞かされた妻・瞳麗子、原因は自分にある
と証言。死んだ麻雀店主オオサワから夫が作った借金返済のため、妻はオオサワに
体を与え、その恨みが犯行の引き金と説明する。記者からの質問に思い詰めたか、
妻は衝動的に家を飛出し、陸橋下の線路に飛降りて、重傷を負う。
 逃亡中に、爆薬「カーリット」を手に入れたトミナガ。警察犬による捜査で追い
つめられる。爆薬を手に子供達を人質にするが、刑事達の決死の突入で、逮捕され
る。事件は、ひとまず解決する。

★9月14日(水)
 三国人報道の為に就職が取消された佐々木の娘、通信員イシカワを訪れ、仕事の
斡旋を頼む。
 事件現場に手向けられた花と線香。それは既にこの土地を取得し、売り物にする
手はずを整えた業者の供えたものだった。

  さらに検証


【03】空かける花嫁(1959 松竹大船)監督;番匠義彰  →
【04】 →【02】

 ラストは羽田空港。有馬稲子が乗込むはずだった、パリ行エールフランス機は、
3枚の垂直尾翼が特徴的なロッキードスーパーコンステレーション、Super
Starliner。飛立った後のシーンでも、よく観ると映りこんでいる。
 大阪行日航機はこれもプロペラ4基のダグラスDC-4。JA6002高千穂、6008蔵王、
最後に飛立つハッピーエンドは6007穂高。

「きっちゃてんにでも。」と有馬の祖父・志村喬に誘われた浅草・ペリカン座の作
家・高橋貞二が「もっといいところが」あるとつれて行くのは劇場の屋上。今はな
き、東京クラブか常盤座。バックにこれもなつかしき仁丹塔や、遠く国際劇場の屋
上が見える。金龍の舞が、仲見世から本堂前を練り歩き、松屋デパート屋上のスカ
イクルーザーのシーンなど、浅草実景がふんだんに登場するが、シンボル・雷門は
出てこない。なぜならば。
 あの大提灯でおなじみの、雷門はその頃、なかったはずなのだ。


【02】現代っ子(1963 日活)監督;中平康  →
【03】 →【01】
 ヤスシ・鈴木やすし、チコ・中山千夏、ヨシオ・市川好郎の三兄弟。人情コメ
ディ。日活脇役陣充実。二木草之助、セリフ多し。
 舞台は、月島、佃島、小川運輸の事務所のある「越前堀」こと南高橋。佃渡船
も登場する。千夏、菅井きん親子が住み込む事になる、小川運輸社長の屋敷は明
石町あたりの設定か。
 越前堀(新川)と湊を結ぶトラス橋、南高橋(みなみたかばし)は、今も同じ
くそこにかかっている。ダルマ船の溜り場になっていて、田原さん・嵯峨善兵の
船に、鈴木やすしと市川好郎が転がり込む。うっかり検証しそこねたのだが、
「愛情の決算」(1956東宝/監督;佐分利信)で、佐分利の勤めていた会社も
多分、場所はここである。
 中学生、中山千夏、[ケンカもう終わった?][日本橋の灯りがきれいだよ。]
(それに比べて越前堀は暗い。)「あたしが数学の神様だったら、越前堀と日本橋
を足して2で割るのに。貧乏と金持ちを足して2で割るのに……。」(このシーン
は、観たものだけが、思い出せば良い。)
 父の死をきいて、末っ子ヨシオ・市川好郎が走って渡る橋は、明石橋。今は埋立
てられて、全く面影がない。築地の料亭「治作」の前の橋で、人情もの「おヤエの
あんま天国」で、傷心の若水ヤエ子が、最後に渡る橋。好郎の通う中学は月島の設
定なので、実際の位置関係とはくいちがう。
 どうでも良いが、高校の同級生の鈴木やすしと市村博コンビ、役名が、ヤスシと
キヨシだ。
 屈指の名場面は、歌う小沢栄太郎。妻・岸輝子がピアノを弾く。二人がアップに
なるカット。ローレライ。「さび〜しくくゥれゆゥく〜、ラ〜インのなァがれ〜。」

「今、細かいのがないんです!」
「よろめき市況、特定銘柄、アコ120円13円高、チコ出来ず。」
「(ぽちゃんぽちゃん;効果音)ネズミもデートしてるのね。」
「──演技力でカバーしますから。ギャラのほうは、よろしく。」


【01】七人の刑事 終着駅の女(1965 民芸映画社/日活)監督;若杉光夫  →
【02】

  →作品詳細捜査結果

 企画は大塚和(おおつかかの)、撮影は井上莞。
 舞台は昭和40年、冬の上野駅。
 大部分が、実際の上野駅内外での営業中のロケと、捜査本部で撮影されている。
つまり、駅でのシーンは、実際に客の雑踏するホームやコンコースで、ドキュメン
タリー風に撮られている。井上莞といえば、日本のドキュメンタリー撮影の草分け
だそうだ。
 資料によると、地方でしか公開されなかったといういわく付の映画である。
 スタッフのクレジットに「音響」渡辺宙明。この作品には劇伴、つまり効果音楽
がない。全て、雑踏の音や会話で構成されて、実際に現場に流れている音楽、とし
て5曲が聴こえるだけである。
 当時の上野駅は高架ホームが1〜10番線。地平ホーム(地上レベルのホーム)が
11〜17番線。
 その15・16番線ホームで事件が起こる。16番線を20:40発の、常磐線回り青森
行に乗ろうとした客が、刺殺されていた(雑踏の中ゆえに目撃者なし)。
 殺された女性の手がかりが、ハンドバッグから見つかった北上ゆきの切符のみ。
第一発見者の駅員・庄司永建(死んでいると知って気を失うなど、頼りない)の証
言から、死体の足元にあったはずの消えた白いカバンの行方が、まずは捜査の焦点
となる。「置引きの目撃者として、ホーム売店員の女性、このシーンのみの出演だ
が、日色とも『え』」──と記述していたが、間違いであった。
日色の役は食堂のウェイトレス」、という日活研究家・蟹氏の情報により、観直
してみると、確かに、ウェイトレスが日色であった。売店嬢は、日色より面長でホ
リが深い。
 上野駅が舞台とあって、「東北」が大事なバックボーンとなっている。さらに雑
多な人々が離合集散する巨大なターミナル駅、この圧倒的ななまなましさ。
 東北出身の久保田刑事・天田俊明は、たまたま知り合った、山形から就職に上京
した少女を気づかう。また、東北出身とおぼしき被害者の女に、他の刑事以上に心
を痛める。老刑事ニシさん・美川陽一郎は、音信不通の娘を捜しに盛岡在から上京
している老婆アヤ・北林谷栄の世話を焼いてやる。
 東北出身の娘、笹森礼子に、被害者とともに売春を強要していた、大沢興業こと
大沢組。組長が「事件記者」のハッタ老人・大森義夫、幹部ヤマナも「事件記者」
でおなじみの刑事ムラチョウ・宮坂将嘉。所轄「上野署」の課長は「事件記者」二
代目捜査一課長・松下達夫。ニヤリとするキャスティングだ。
 そして、いぶし銀、所轄のベテラン刑事に、大滝秀治。管轄内で彼を知らない曲
者は、モグリである。嘘つき浮浪者にヤクザ、彼らとのやりとりが惚れ惚れするほ
ど巧い。
 笹森礼子、なぜ、売春組織から逃げ出そうとしないかを刑事たちに問われ、堕ち
た女たちの胸の内を淡々と、東北訛りで語る。刑事たちに囲まれたヒキのショット
で淡々と。笹森礼子、やはりいい役者だ。
 ラストでは、今まで登場した、東北出身者たちが、悲喜こもごもに交錯する。涙
腺がゆるむ。


“UENO station, ... always the same. People come, people go. Nothing ever happens.”

 陳腐な表現をすれば、時代を切取った名作。

【以下蛇足】

 ホーム詰所の黒板には3月とチョークで書かれている。スキー客も多く、混雑す
るコンコース雑踏に映る日付は12日と、14日・日曜日。
 捜査本部の置かれる警察署は架空の「台東署」。本来ならば上野署。松下達夫が
課長。(※署長との記述を訂正、削除)
 準急行券の自動券売機が珍しい。中央改札上に並ぶ発車案内板、ショバ屋、地下
食堂街。
 事件の起きた、当時の15・16番線ホーム。後年、18・19番線ホームになり、
東北新幹線開業後に廃止された。ただし、実際の事件現場の撮影は、国電ホームの
3・4番線で行われている。終電後ということになろう。
 ヤマさん・菅原謙二らに現行犯逮捕される置引きは、プレスシートに玉村駿太郎
とあるが、福田秀美。
 撮影の井上莞については、「山形国際ドキュメンタリー映画祭 井上莞」で検索
してみると良い。
 昼間、閑散とした16番線に休むDD13。クライマックスで発車するのはEF58。
進入してきて、笹森礼子の悲痛な驚きの顔を呼ぶのがEF57。特筆すべきは、当時
まだ蒸気機関車が乗入れているにもかかわらず、登場しない。山崎徳次郎作品なら
当然、映しているところである。必要以上に郷愁へ傾けない、ここにもドライで醒
めた姿勢がうかがえる。

 ▲ページ冒頭▲ 即席映画狂第2部【101〜】

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