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【45】33号車応答なし(1955東宝)監督;谷口千吉  →
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 ※2017.6.18 訂正加筆  ▼キャスト▼  ▼舞台設定/ロケ地▼

ムラカミ巡査 池部良 
ハラダ部長 志村喬 (巡査部長) ※鼻が赤い
ムラカミの妻・アツコ 司葉子


 戦後10年を経過した東京のクリスマスイブ。
 その夜を走る「パトロールカー」。

 蔓延するヒロポン。2日に1人が殺されるという事件の多さ。折しも、ヒロポン
密造犯が、警ら中の警官に瀕死の重傷を負わせて逃走する事件が発生し、ただでさ
え慌しい師走の街に、各所轄の警察署もてんてこまいだ。
 新婚7ヶ月で初めて夫婦喧嘩した、短気で子供と模型が好きな若い巡査・池部良。
5人目の子供が今晩生まれるという、人情家のベテラン巡査部長・志村喬。この2
人が乗込んだ警視庁所属のパトロールカー33号車は、クリスマスに浮かれる街で、
「警視庁24時」的エピソードを重ねるうち、凶悪事件に巻込まれる。



「賛助 警視庁」→東宝マーク(輝き)→車のフロントグラス、車内からの視点、
外は雪の夜。タイトル「33号車應答なし」、続いてスタッフ、キャスト。バック
の窓外は、雨になってワイパーが動き出したりまた雪になったり。最後に「監督 
谷口千吉」。

 一転、画面いっぱいに青空。凧が上がっている。

■プロローグ 若い警官夫婦の暮らすオンボロアパート

 池部の妻アツコ・司葉子が、買い物から帰ってくる。アパートには米屋の御用聞
きが来ている。
 中野俊子ら主婦たちが、
「ウチは配給は全部お鏡にして、それからヤミを3枚、3枚よ。」
 一見、歳末らしい、微笑ましい光景だ。しかし、司が帰って来たのに気づいて、
慌てて米屋を追立てる主婦たち。司には愛想笑い。その理由はすぐ分かる。
 近所の子供たちと、模型の飛行機を作っている池部。司は子供たちを帰すと、叔
父からの転職の話を蒸し返す。「あなたみたいに」運転ができて無線の免許があれ
ば……。ここで池部が警察官だと明かされる。
 冒頭の主婦たちのよそよそしい態度は、警官の妻だからなのだった。ヤミの話を
警官の妻の前ではできないではないか。
「そんなに収入が増えたいのかい?」
 司は、もっと人に愛される職業に就いてほしいのだという。
 むっとする池部に、さびしそうな横顔を見せる。
「また今夜も眠れないんだわ……。」
 窓ガラスに残る投石の跡を指差し、夜、下で電話が鳴ると(二人の部屋は2階に
あって、電話は階下の管理人から呼出しである)、胸がどきんとして、「気がつく
と、お床の上に、下駄はいて、きちっと座ってるの」と、いかにいつも心配かを語
る。
 司なりに、警察官の妻であろうと努めるいじらしさがにじむ。
 険悪なムードがゆるんで、夜勤に出かける池部の支度を手伝う司。お守りといっ
て、手製のマスコットを渡す。「これアツコよ、似てるでしょ。一緒にパトロール
カーに乗るの」。
 子供と模型作りをする池部も子供っぽいが、自分を「アツコ」と名前で呼び、
「一緒に車に乗るの」という若妻も無邪気だ。
「お夜食」と言って、バナナを一房、器用に紙でくるくる包む。一人で食べずに、
ちゃんとハラダさんにも分けて、と釘を刺す司。
「ハハハ、バカ。」と池部。
 和気あいあいと廊下で歩きながら見送る途中、忘年会費のついでに小遣いをねだ
る池部。そのかわり、と司は、鼻歌を歌いながら帰ってくるのはやめて、と、軽い
気持ちでお願いする。
 理由をきかれて、しまった、と思う司だが、池部にしつこくただされて、仕方な
く答える。この間、ほろ酔いで鼻歌まじりで帰ってきた池部の姿を見て、アパート
の主婦たちが言ったのだ。
──弱い商売の者をいたぶってタダ酒を呑んだ。
「君はそれをきいて黙っていたのかい?」
 急に怒り出す池部。はじめはなだめていたが、とりつく島がなく、司もついに、
ぷいっと横を向く。このふてくされた顔が良い。ついに、夫婦喧嘩勃発。
「僕はね、他の人と違って、好きでこの仕事をやってるんだ。簡単には辞めないよ。
考え直すなら今のうちだね。」
「はい、鍵です!あたし、しばらくお姉さんのところに行ってきます!」

 出勤する池部と入違いに、司の姉・中北千枝子がやってくる。地味な司に比べて、
派手めな衣裳と化粧である。
「新婚7ヶ月目、まだ成績いいほうよ。あたしんときは、二十日目におっぱじまっ
ちゃった。」
 司、ラジオを点けると、ヒロポン密造犯が、スズキというの警官を昏倒させて逃
走のニュース。聞いていられず、すぐラジオを消す。
 ダンスホール(キャバレー)でダンサーをしている中北。二人のためにと、パー
ティー券を持ってきてくれたのだ。きょとんとする司に、
「あんた、いくんち(幾日)だと思ってるの?」
「……ああ、クリスマスね?」満面の微笑み。
「ああ、クリスマスね?」中北、表情と口調を真似て、あきれる。
「カレシ、プレゼントなにくれた?」、司の頬の涙を見て、
「ああ、これね。この真珠。」
 衣裳は貸すから、司一人でも踊りに来いと誘う。司に、忠実すぎるといい、たま
には遊びに行って、亭主を緊張させないといけないと諭す。


■警視庁、庁舎内 点呼風景

 画面替わって、拳銃の回転弾倉のアップ。1発ずつ、指で弾が詰められてゆく。
 いきなり緊張感のある画面になるところがニクイ。ここからしばらくは、男の世
界。千葉一郎演じる巡査部長が、警ら隊交代前の訓示を垂れている。東京では、2
日に1人の割合で、人が殺されているという。池部の隣には、パートナーの志村喬。
 千葉が、荒川署のスズキ巡査を襲った手配犯の写真を配る。写っているのは平田
昭彦

 出発の号令に重なるように、電話のベルが鳴る。警部補の階級章を付けた清水元
がとる。
「スズキ巡査、死にましたか!」
 子供が4人もいる、という電話の内容をきいて顔が曇る志村。清水は続けて、次
は逃走用の自動車の強奪だな、と犯人の行動を推理する。

 自動車警ら隊の中に、広瀬正一、中丸忠雄ら。

 交代する巡査・大村千吉と引継ぎの車体点検をする池部。
 方向指示器の点検。フロントグラス横のピラーについた「アポロ」という、腕木
式。
 後部トランクを開けて、内蔵された無線機の点検、「異常ないね?」「異常なし!」
 大村、手袋を脱いで、
「さあて、うがいでもするかな。」
この後、テレビの素人のど自慢に出るのだ。鐘3つ鳴らさなかったら二度と顔を出
すな、という池部に、
「この次は、映画の主役でお目にかかるよ!」
 志村、千葉に「33号車、出庫します。」
「寒いから気をつけてな、ご老体!」
「ごろ……、ふんッ!」
 千葉の方が若いが、指令を出す立場にいる。ただし、袖章は同じV字2本の巡査
部長だ。(ところがこのシーンだけ、なぜか志村の袖章がV字1本のヒラ巡査であ
る。)
 次々と、警視庁から出てゆくパトロールカー。トヨタBFRと、シボレー。

「警視33より警視庁。これから3時間の環状線警らに出庫します。乗務員は、ハラ
ダ部長、ムラカミ巡査。」
助手席のハラダ巡査部長・志村喬、早速、無線連絡。
 受ける無線係は、ミスター無線、今泉廉。
 ハンドルを握る池部、ルームミラーに、司の作ったマスコットをぶら下げる。
 志村には、今晩、5人目の子供が生まれる予定だ。池部、自分にはまだ子供の予
定はないというと、
「不勉強でいかんな、近頃の若い者は。」
 夫婦喧嘩を思い出し、司の愚痴をこぼす池部に志村、
「じゃあとりかえるか、ウチのは、ずいぶんいたんでるけどな。」
 さすがは人生の先輩、酸いも甘いもかみ分けた志村と、正義感にあふれているが
すぐカリカリするのが玉にキズの池部。名コンビで、クリスマスイブの東京の街へ、
いざ出発である。


■パトロールカー

 閑話休題。

 パトロールカーの重要な装備が無線である。もともと、無線を積んで、本庁と連
絡を取りながら、市中を警らできるというのが、パトロールカー登場の意義らしい。
 本作品中でも、無線が、重要な役割を果たしている。
 というわけで本庁の無線係の今泉廉が、終始活躍する。前年公開の「ゴジラ」で
も、遭難する船会社の無線係としてマイクを握っていた。画面奥の無線係同僚に東
宝のチョイ役王、渋谷英男。渋谷は、代々木の運転手殺しに向かう、52号車乗務
員の声もあてている。そしてもう1人、「さようならみなさん!」の橘正晃。
 どうでも良いが、志村喬、平田昭彦、河内桃子という主な出演者が、ゴジラと重
なる。それ以上にどうでも良いが、「ユタカテレビ」という受像機が、両作品にタ
イアップして、画面の中で地味に目を引いている。のど自慢で「アラビヤの唄」を
熱唱する大村千吉を映し出すのもユタカテレビ。アイススケート場のスタンドにも
大きな広告が。

 さて、池部と志村が乗込む33号車は、トヨタBFRというパトカー。或いはその
改良型のBHR。
 ネット上で画像を探してみたが、1点しか写真が出てこない。側窓に網がついて
いる以外はその写真では、映画に写る車体にぴたりと一致する。その他には、本作
品の映像を取り込んだサイトと、「ゴジラ」に登場するパトカーの映像くらいで、
探し出せなかった。
●参考サイト ノスタルジック・パトロールカー
       クラウン生誕50周年記念企画『クラウンパトロールカー伝説』
 この後に登場する、トヨタパトロールFH26、BH26になると、資料が多くなる。
 トヨタBFRの特徴は次の通り。
 ・方向指示器はピラーに付いた腕木式の「アポロ」
 ・屋上の赤色灯は、回転灯ではない
 ・後ろ扉は後ろ開き(非・観音開き)
 ・ボンネットサイドのルーバー(穴)なし
 ・フードクレストマーク(フードマスコット、ボンネット先端中央の立体エンブ
 レム)あり
 ・タイヤに白い縁取り
 ・ドアの窓ガラスのふちに、金網取付け用の穴が開いている

 なお、「キネマ写真館 33号車」と検索すると、本作のスチール写真を見るこ
とができる。
←※サイトが閉鎖された模様


■踏切で足止め

 話を戻す。

 品川駅前を走行中、大森で強盗侵入中の110番通報があったと無線がはいる。
 張切る二人だが、国道上にもかかわらず、酔っぱらい達が道をふさぐ。そんなク
リスマスの人ごみをかきわけ、サイレン(空気式)を鳴らして現場へ急行。
 ウーウーウーウー。
志村「このサイレンっていうのは意味ないよ、80キロを過ぎると、クルマの方が
   早くなっちまう。」

 本庁無線係・今泉から催促の無線。応答する志村、
「第一京浜、大井町駅前を通過。」
「夜中なら3分かからんですがねえ。」


 急ぐ池部たちの前に、踏切が邪魔をする。
 前方をツートンカラーの電車が通り過ぎて、踏切の竿が上がる。しかし、そのす
ぐ先の踏切の警報機がチンチンと鳴りだして、遮断ロープが降りてくる。
 D51に牽引された貨物列車が、ゆっくりとやって来る。
「どうだい、きかんしゃくん、もうちょっと早く歩けんかね?」
志村は観念したように、そう言うが、イライラしている池部は、ドアを開けて降り
ようとする。
「後押しでもする気かね?」
 33号車の後ろには、ついに、同僚、42号車が追いついてしまった。


 さてこの踏切である。セリフ通りに考えると、第一京浜国道こと国道15号上で、
踏切につかまっていることになるが、大森へ向う途中に、踏切はないのだ。
 犯行現場は、大田区役所の角を入るという設定である。そもそも、この頃の区役
所は、現在の大田文化の森にあった。もともと、第一京浜ではなく、池上通り沿い
だ。
 ということは、33号車は、品川駅前を後に第一京浜を進むが、青物横丁を左に
折れて、池上通りに入ったと推定される。
「ただいま大井町駅前を通過」と無線連絡をしているが、実は、第一京浜は大井町
駅前を通らない。この池上通りならば、大井町駅前を通り過ぎて、すぐ東海道本線
(京浜東北線)の踏切にぶつかるのだ。この先、道は、三ッ又から大森駅前山王を
経由して、区役所へと通じている。これで、謎が解決した。
 ……ところがである。
 実際にロケをしている踏切は、大井町駅南側の踏切ではない。現在も当時も、大
井町を貨物列車は走らないからだ。
 結論を先に言うと、2012年に廃止されるまで、開かずの踏切で有名だった、
「総持寺踏切」が、ロケ地である。
 大井町、大森、蒲田、川崎と京浜東北線を南に進んで、その先、鶴見駅を過ぎた
所にある。
 通り過ぎたツートンカラーの電車は横須賀線ではなく、京浜急行。その先、隣接
する国鉄の踏切は、手前から高島線という貨物線、東海道線(横須賀線)、京浜東
北線、東海道貨物線がそれぞれ複線で敷かれていた。画面からはそれほど長い踏切
には見えないのだが、遠くその奥には、鶴見線の高架線があって、それも映ってい
る。
 ただし、カーブを切りながら近づいて来るデゴイチ・D51 558は、1953年の、
同じ谷口監督作品「吹けよ春風」の踏切シーンの使い回しか。
←訂正2018.12.24
 高島線の貨物列車(上り)がようやく通り過ぎると、33号車は何度もバウンドし
ながら踏切を渡って、対岸の鶴見線ガード下に達する。
 この「嘘」が、映画をずいぶん楽しくしている。


■110番通報の現場到着

 現場付近にたどりついた池部、車を降りて、「大森2丁目28番地」、通報の主を
捜して聞込み歩く。古くて小さな木造家屋が密集した地域。貧民窟の趣は、みんな
あけすけに暮らしているから聞込みには好都合だが、なかなか要領を得ない。
[このへんは番地が飛び飛びで……。]
 ようやく捜し当てた番地は、空き地。そこで焚き火をしていた身なりの汚い男た
ちの中から、目覚し時計をぶらさげたバタ屋(くず屋)・沢村いき雄が、ふらふら
とやって来て、ニコニコ叫ぶ。
「まったく早えなあ、たった4分半で来やがった!」
 イタズラと知って、怒り心頭の池部に、志村は、
「ポン中(ヒロポン中毒)、ポン中。」
と、怒っても仕方ないと手を振るが、池部は落ちていた一斗缶を蹴飛ばす。志村が
諭す。
「公僕、公僕だよ。オレたちは。」

 大森警察署に沢村を引渡して、玄関から出て来た池部。署の主任に嫌々そうな対
応を受けたと、またカリカリしている。
 発車してすぐ志村は無線機をとって、
「さきほどのヒャクトーバン通報は、ポン中のバタ屋のイタズラ……。」
 その途中で池部は車を止める。そこは、電器屋の店先だ。
 テレビの、のど自慢に人々が群がっている。画面に映るのは、さっき交代したパ
トカーの警官・大村千吉である。手を大きく振りながら、
「♪さーばくゥに日はおちてェー」(アラビヤの唄)

 パトカーから降りて来た警官に驚いた店主・榊田敬二、驚いてスイッチを切る。
榊田「何かありましたか?」
池部「いえ、ちょっと見せてもらおうと。」
 安心した店主が、スイッチを入れる。続いて降りて来た志村も、ニコニコと、観
衆に加わる。
「また警官がサボってましたと、投書されんかな?」
 そこへ、店の前を猛スピードで走りすぎるタクシー。あわてて、車に戻り発進さ
せる池部と志村。背後に聞こえてくるのど自慢の鐘の音2つ、不合格。


■スピード違反検挙、後部座席によく笑う娘、根岸明美

 サイレンを鳴らして追走するが、一向に止まる気配がない。
池部「ゆうに80キロは出てますよ。」
 ひょっとすると、警官殺人の指名手配犯ではないか、という緊張感が走る。
 やっと止まったタクシー、運転手は人の良さそうな男、柳谷寛。おずおずと窓か
ら顔を出す。
「……超しましたか?
 そんなはず……、ないんだがな……。」
「ウチのメーターが壊れているのかな?
 一緒に工場に持って行って見てもらうか?」
 志村が、自分の鼻をこすりながら、ウィットのある応え。助手席に置かれた自動
車の高そうなおもちゃ、有線のリモコン付。半年前から約束の、子供へのクリスマ
スプレゼントだという。池部が嬉々として取上げると、それを走らせてみる。
柳谷「へへ、カエルの子はカエルでさァ。」
池部「これ、アンテナだね。」
 冒頭でも、子供相手に模型飛行機を作っていたように、池部はこの手のおもちゃ
が好きなようだ。すると、突然、後部座席で、けたたましく、若い女の笑い声が響
く。志村が憮然と言う。
「失礼ですが、顔になにかついてますかな?」
「ごめんなさい、アタシってホント失礼な……。」
 傍らに鳥籠に入ったオウムを置いた女・根岸明美。オウムは弟や妹への土産だと
いう。
「でも……、あっはっは、鼻が赤くてパパそっくりなんですもの!」

 タクシーを送り出す。
志村「幸せを絵に描いたような娘さんだったなァ。」
 しかし、あまりに大笑いする根岸について、池部は気がかかる。さっきのポン中
の件もあるのだろう。
「少しイカレテるんじゃないですかね?」
「なあに、箸が転んでも可笑しい年頃さ。」
 そこに、車内の無線が110番通報を告げる。

──このあと、パトロールカー風景といったエピソードが続いて、その1話に埋没
しかけるこの一件。赤ハナの志村喬という、クリスマスらしい設定を含め、前後の
伏線がからむ重要な場面が、さらりと描かれている。


■ブリキ屋の一家心中と、篤志家・沢村宗之助

 薬局店内。憔悴した様子で、うなだれたまま無言の瀬良明。不審に思った店主・
河崎竪男からの110番通報であった。たまに来店する客だが、今日買いに来たのは、
青酸カリだというのだ。
ブルキ屋のおじさんだよ。」という野次馬の情報で、瀬良を家まで連れて行くと、
突然、悲鳴をあげて逃げようとする。
 池部と志村が家に上がると、座卓につっぷしている小さい男児。様子がおかしい、
近寄って、顔色の変わる池部と志村。絞殺されていた。他に2児の絞殺体。

 警察署内で、池部と志村に応対する主任・勝本圭一郎
「ま、どうぞ、どうぞ。」
 タバコを吸わないとみえて、すすめるのはキャラメルだ。紙包みをむいて口にい
れながら、勝本が瀬良の身の上を語る。どうやら、妻に逃げられた瀬良が一家心中
をはかろうと、子供たちを殺したらしい。
 その時、奥から、万引きした少年を引取りに来た、篤志家、須川・沢村宗之助
出てくる。渋谷で玩具工場を経営しながら、浮浪児の面倒を見ているのだ。ああい
う人を知っていれば、子供を殺すようなこともなかったろう、と嘆く勝本。志村は、
少年にキャラメルを指出す。
 よく見ると、白黒画面でわかりづらいが、宗之助の鼻が赤い。その上、志村同様、
左目の下にホクロがあるが、特に池部たちも、気にとめない。

 パトカーに戻って、子供を殺した親に憤る池部。
「カッパライでも万引きでもなんでもして」子供のために生き延びろ吐捨てる池部
を、志村は警官にあるまじき物言いだと、たしなめる。幼な子を道連れにする父親
を、なお非難する池部に、志村は、それは子供がないから言える、と瀬良の胸中を
推し量る。
「こんな世の中に、子供を残して一人だけ死ねるかい。」
 言い合いにはなるが、2人とも、大の子供好きだ。重い空気の流れる車内。
 その時さしかかった、ガード下につながる急カーブ、ブレーキを踏む池部。ヘッ
ドライトが照らし出したのは、キスする男女。慌てて走り去るカップル。
「罪なことをしたなァ。」

 緊張と緩和をうまく組合せた巧妙な脚本と名演出。カップルの女は、飛鳥みさ子
だと思われる。


■キャバレーでボッタクリ騒ぎ

 気を取り直して、パトロールを続ける。じきに、「代々木で他殺体」という無線
を傍受する。
 信濃町付近を走行中の52号車に先を越されるが、志村は、負けじと、加勢を申し
出る。
「33号車、ただいま、五反田駅前ロータリーを走行中。」
「52号車にお願いしましたから、33号車は、次の指令に待機してください。」
 がっかりする志村。
「いいのは、みんな他へ持っていかれる。」
「どうせ次は酔っぱらいのケンカが関の山ですよ。」と池部。
 あにはからんや、次に向うことになったのは新宿、キャバレーのボッタクリ。ビー
ル2本しか頼んでいないのに、3万円とられたというのだ。
 「ルージュ」という店の入口で到着を待っていた、通報者・佐田豊。被害者の友
人の元に池部と志村を連れて行く。
 テーブル席で、楽しそうにしている、初老の客・上田吉二郎と女給(ダンサー?)・
持田和代。ボッタクリというのは佐田の勘違いで、女っ気のない山奥の現場から久々
に都会に降りて来た上田が、キスさせてくれ、と3万円で持田を口説いていた、そ
れが真相だった。
上田「(飯場にいるのは)女っ気いうたら、メン(雌)の犬が一匹だけや。わかりまっ
   しゃろ?」
志村「わかりませんな。」
 あきれて立ち去ろうとする警官2人。突然、照明が落ちてショータイム。ストリッ
パー・メリー・真珠、出口に向う池部達に踊りながらまとわりつく。志村は、メリー
のふとももを抱えるハメになるが、笑顔の余裕でフロアを突っ切ってゆく。
 カメラがパンすると(ぐるっと角度をかえると)、一件を知らずに控え室にいた
のは、姉・中北千枝子に連れられて来た、池部の妻アツコ・司葉子であった。衣裳
のドレスを、中北が司に見つくろっている。
「まだちょっとユルイわ。」
「ゼイタクいうんじゃないの。」
 フロアに出るが、華やかさにあてられて、帰ると言い出す司。しょうがないから、
一曲だけ踊ってあげる、と中北。連れては来たものの、司のお守りでは、ダンサー
の書き入れ時にあがったりだと中北は嘆く。
 ここへ来るまでにも、散々、司は行くの行かないのと、中北を困らせていたのだ
ろう。
 しかし、隣のテーブルの常連客、相原巨典大友伸が、司に興味を示していた。
 日活版「事件記者」シリーズの日日記者クワどん・相原巨典。もともと東宝の第
1期ニューフェイスで、三船敏郎や堀雄二の同期。本作は、日活移籍直前の出演の
ようである。


■一旦帰庁、休憩

 夜9時半。3時間の警ら、パトロールを終えて、警官達が帰ってくる。1時間の
休憩だ。
 粉だらけで帰ってきた警官は「オカマとパンパンのケンカで」と訴える。それを
聞いて大笑いする広瀬正一。
 池部、志村とも、休憩室の電話を家にかける。志村はもちろん、妻の出産の状況
を聞く。相手は長女か。
「まだ5、6時間かかる?」
 池部は、曙荘の管理人に取り次いでもらうが留守だと言われ、気をもむ。心配す
るなと志村。
 そこに52号車からの無線連絡、代々木の殺人現場報告が休憩室に流れる。
「油のしみた軍手から、運転手などと推定、所持品は無いが、付近にアンテナ付き
の自動車のおもちゃ有り……。」

 池部と志村は顔を見合わせるなり、弾かれるように車に向う。


■代々木の他殺体発見現場

 ムシロをかけられ、足だけがのぞく遺体。傍らには、轍につぶされた、自動車の
おもちゃが残されていた。

 現場検証する刑事に、検挙したタクシーの様子を伝える志村。
「空色のプリンス、ナンバーは、5の93743。」
 その時の客が、裕福そうな18、9歳の娘というと、刑事も志村も犯人ではないな、
と同意しあう。
──刑事役は牧壮吉(参考;プレスシート、web東宝資料室、web荻窪東宝・図鑑)
 新聞記者・桜井巨郎が、手帳片手に、志村に尋ねる。
「その娘ってのは、美人でしたか?」
「無論、その部類に入るねえ。」
「その娘が犯人だった、てことになると。面白いんだがなあ。」

 パトカー車内。
池部「酒の好きそうな男でしたね。」
志村「カミさんは、一本つけて待ってるんだろうな……。」
池部「子供も、自動車(のおもちゃ)を待ってるでしょうねえ……。」
志村「疲れたろう、運転替わろうか?」
池部「いえ、まだ大丈夫です。」


■出産間近の妊婦と夫を乗せる  (※この章、セリフの確度よりニュアンス優先)

 口笛を吹きながら、懸命に自転車をこぐ男・土屋嘉男、着古したジャンパー姿。
リヤカーの上には、毛布にくるまり横たわる河内桃子。口笛は、「前線へ送る夕
(ゆうべ)」で有名な、ハイケンスのセレナーデ。
 後ろからゆっくり近づくパトカー。「慈恵会病院」まで妊婦を運ぶときいて、2
人に乗ってゆけと勧める志村。池部は、近所の交番に、リヤカーを預かってもらう。
 夫婦の暮らしは苦しそうだが、いたわり合う様子がいじらしい。後部座席で、つ
らそうな河内を抱えながら、土屋は、口笛を吹き続ける。
池部「どういうんでしょうねえ、あれ。」
志村「さあ……、安産のまじないかな?」

 河内が、弱々しいが、ほっとした様子でつぶやく。
「寒かったわ……。」
「ごめんよ、原稿料がはいってれば、タクシー代くらい……。」
「そうじゃないの、助かったっていってるのよ。」
「そうだね、良かったね。」
「なにか御礼しないと悪いかしら……。」

 ハンドルを握る池部、ルームミラー越しに、夫婦の様子を見ながら、志村にきく。
「ハラダさんは、(自分の奥さんが)心配にならないんですか?」
「なあに、あんな駆け出しとはちがうよ。」

 土屋が河内に言う。
「おちついたら、あらためて礼をするさ。」
「あなた、また本を売るんじゃないの?」
「まだいらない辞書とかもあるからね。」
「うそ!あなたこないだ、本を売るくらいなら血を売るって言ってたじゃない。」
 志村がふりかえって、口をはさむ。
「礼なんか気にせんでください。ふだんは犯人か酔っぱらいしか乗らない場所だ、
気持ち悪いでしょうが、それでよければ遠慮なく……。」

 苦しみ出す河内。土屋、はげますように、再び口笛を吹き始める。
「遅いなあ、このクルマ。」
 志村、池部、同時にサイレンのスイッチに手が伸びて、苦笑。

 病院玄関。
 一仕事終えて気分上々、例の口笛を吹きながら出てくる池部。
「細君の一番好きな曲だそうです。」

 そば屋の前。車を止めて、夜食にラーメンを運んでもらう。若い女中・上野明美
に軽口を叩く志村。(のれんには「原宿 大むら庵」)
池部「いい夫婦でしたね。」
志村「キミんとこだって、いいカミさんじゃないか。」
池部「ウチなんかもうだめです。」
志村「やっぱりなんか、やったな?あした謝るんだな。」
 すねる池部を、志村が諭す。
「警察官が事故を起こすときは、決まって、家がもめてる時だ。」


■アイススケート場 司と中北

 一方、司と中北。「ルージュ」常連客の相原と大友に、店外デートに誘われたら
しく、スケートリンクで滑っている。酔ってゴキゲンの司。陽気なら陽気で、相変
わらず手を焼く中北。
 そんな中、流れとは反対方向に、泥酔した塩沢登代路(とき)が滑ってくる。
「どけどけどけー!」
と、他の客をなぎたおしながら、ついに司たちともぶつかって、尻餅をつく。
 かけつけたパトカーのサイレンに、「火事かしら」と浮かれて外に出る司。
 スケート場の前では、叫びながら暴れる登代路を取り押えようと、警官達が四苦
八苦しているが、野次馬は登代路に加勢。中北も楽しそうに、
「自分の奥さんならひっぱたけるけど、つらいとこだなー。」
 司は、池部を思い出したのだろう、涙を浮かべている。中北は無邪気に、
「あ、また帽子とばされちゃったー。なくすと怒られるんでしょ?」


■殺された運転手の家、弔問に訪れる池部と志村

 画面かわって、焼香する池部と志村。前には、タクシー運転手・柳谷の遺影。静
かに迎える亡夫の妻・本間文子。奥では子供が寝ている。
 柱時計が、2時を打つ。
志村「ホトケさんは?」
本間「なんだか解剖するとかで……。」
 池部、ブッキラボーに、
「あの、これ、坊やに。」
と、箱を置いて玄関を辞す。
 本間、箱を開けると、安っぽいが、自動車のおもちゃが出て来た。思わす、泣き
じゃくる本間。

 細い路地を歩いて車に向いながら、池部、
「二人の忘年会費合わせても、アンテナ付きのは買えませんでしたね……。」
 その時、目の前の塀の上から飛降りて、逃げる少年。追いかける池部と志村。少
年が駆け込んだ家。玄関の脇に看板に懐中電灯をかざす。
「須川玩具製作所」


■須川玩具製作所

 池部を車に帰して、単身、訪ねる志村。時計は2時10分。
 玄関に出て来たのは、一家心中騒ぎの警察で、浮浪児を引取りに来た男、スガワ・
沢村宗之助であった。ここで赤鼻どうしが改めて対面する。
「(子供たちが)またなにかやりましたか……。」
 未遂らしいが、家宅侵入した少年がここへ逃込んだと聞いた宗之助、
「わたし、もうやめます。明日、工場もたたみます。」
と、消沈して言う。自らも浮浪児あがりなので、彼らを理解し更生させようとした
が、もう疲れたとあきらめ顔。少年・石橋蓮(蓮司)を呼んで、一緒に頭を下げる。
 志村の去り際、奥から、オウムの鳴き声がする。
「子供たちに、せがまれまして……。」
 志村、池部の待つ車に向って、狭い路地を戻ろうとした時、不審な自動車のタイ
ヤ痕を見つける。たどって行った先の車庫に止められた車には、偽造ナンバープレー
トがかぶせてある。その下に隠されたナンバーは「93743」。
 殺された運転手・柳谷の車と気づいて志村が驚いたとき、ふいに背後から、背の
高い少年にスパナで後頭部を殴られ、昏倒する。

 パトカーの池部に、さっきの家宅侵入の少年・石橋蓮が、
「もうひとりのおじさんが呼んでるよ。」
と、誘い出しに来る。
 玩具工場の玄関で、いきなり、少年たちの襲撃を受け、乱闘となるが、池部は、
背中にピストルを突きつけられる。そこに立っていたのは、警官殺しの指名手配犯
アサヌマ・平田昭彦だった。

 奥の部屋には、後ろ手に縛られて気絶している志村。
 平田は、紳士的な口調で、志村を取り押えたてんまつを話す。
「手荒な真似はしたくなかったんだけど、タクシーを見つけられたら、ぼくらもあ
わてちゃってね。」
 志村を殴打した背の高い少年、池部の首を後ろから締めあげて、こちらも気絶さ
せる。

 手配写真に、筆で帽子を書き入れながら、平田は宗之助に、
「よく似合うでしょう、パパ。似合うはずなのさ、復員して半年ばかり、警官をやっ
ていたからね。」
 池部たちにかぎつけられたのを逆手にとって、検問突破の手段に、警官に扮装し
てパトカーを利用する、と宗之助にプランを打明ける。無線の応答対策に、池部た
ちは生かしておく必要がある、と説明。
 宗之助は、平田が指名手配を受けている上、警官が2人もノビている異常な状況
にも、悠然としているので、早く出て行ってくれとせがむ。しかし、浦安橋で待ち
合せる、高飛び用の「ボート」の時間があるので、急いでも仕方ない、と動く様子
は無い。いらだつ宗之助に、温厚だった平田の表情が、曇る。
──右目の下、ほほの傷がぴくぴく動く平田の顔が怖い。

 気を失っていた池部が、目を覚ます。
 志村を殴打した背の高い少年が、ピストルをいじくっている。
「こういうものは素手で触っちゃいけないって言ってるだろう。よく拭いておきな
さい。」
 志村同様に縛られた池部に、
「お願いがあるんだけど。」
と、平田は、ゆったりとした口調で、取引を切出す。逃走の船が着く場所まで、パ
トロールカーで送ってほしいというのだ。
「送ってくれたら、命の保証はする。」
「いやだと言ったらどうする?」
「どうしようもないんだなあ。」
 タクシーで逃げるしかないから、パトカーはどこか遠くに捨てて、池部と志村に
は死んでもらうと言う。
 その時、玄関の外に、駆け込んで来る足音が聞こえて、身構える宗之助たち。
 はいって来たのは、腕時計を2本、盗んで来た、別の少年だった。嬉しそうな
顔で宗之助に差出すと、かわりに、ヒロポンらしきアンプルを2本渡される。
平田「よく稼ぐ子だねえ。」

 続いて、禁断症状の出た少年・石橋が、
「よう!ポン打ってくれよう!もうエンマしねえからさあ。」
と宗之助に懇願する。仕方なくアンプルを渡す。腕に打とうとするのを、
「馬鹿、足に打つんだ!こういうダンナたち(池部たち警官)に腕をまくられたら
どうする!」
と叫ぶ宗之助。足の指の股に注射針を刺そうとする石橋に、目を背ける池部。
 宗之助は、善人を装っていたが、引取った浮浪児たちにヒロポンの味を覚えさせ
て、窃盗の手先にする、悪者だったのだ。


 そこに、白っぽいシルクのドレスで、さっそうと2階から、若い女が降りて来る。
「どう、ヒロシが好きだって言ったアフタヌーンよ。」
 殺されたタクシー運転手が乗せていた高笑いの女・根岸明美である。
 よく似合う、と誉める平田に、背中から寄添う。
「抱いて。」
 後ろから平田に肩を抱かれて、うっとり左右にスイング。能天気で奔放な様子に
あきれる父・宗之助。
 根岸は、倒れている男が、赤鼻の志村だと気づいて、大声で笑い出す。
「さっき、パパとそっくりだって話した人よ。」
「読めた!それでタクシーのことがバレたんだな。」
 一刻も早く始末してくれ、と宗之助。
 背の高い少年が、池部に、スパナを振り上げる。

根岸「殺しちゃうの?野蛮ね。だいいち床にシミがつくじゃない。」

 手足が不自由だが、体ごと平田にぶつかってゆく池部、あえなく突き飛ばされて
ガラス戸棚に激突。それを見てケラケラ笑う平田と根岸。
 奥の部屋で倒れたままの、志村を殴り殺そうとする、背の高い少年。
 物音を近所に悟られないように、工作機械の電源を入れる平田。
「やめろッ!やめろー!」
叫ぶ池部、万事休すか……。


■33号車内 平田たちの高飛び地点に走る

 パトロールカー33号車内。平田と根岸の、香港への高飛び用のボートと落合う、
浦安橋を目指して走行中。
 運転席に池部、助手席に平田。平田は、志村の制服を着込んでいる。後部に根岸
と志村。志村は、後ろ手に縛られて、根岸の足もとに転がされている。根岸は、オ
ウムのはいった鳥かごを抱えている。池部は、手錠でハンドルに右腕を繋がれた上、
平田に銃口を向けられている。
 根岸の手にも、小型拳銃(コルト)。
平田「気をつけた方がいいよ、ユリは僕より撃ち方がうまいからね。」
根岸「ユリは、こうやって撃つからムダがないの。」
と、志村の後頭部にピストルをあててみせる。
志村「そうやって、タクシーの運転手も殺したのかい?」
 平田に、ピストルをしまっておけと言われて、根岸は、くるくるくると、器用に
指でピストルをまわしながらポケットにおさめる。
 
 常に温厚な物言いで非情にふるまう平田。より冷酷に、あっけらかんと怖い言動
をしてのける根岸。その中でも、ベテランらしく落着きを失わず、洒落た受け答え
を忘れない志村。池部は相変わらず、不自由ながらも直情的に平田たちに食ってか
かる。

 そこに、警視庁から無線の呼出しがかかった。池部たちを同乗させたのも、無線
に応答しないことで、本庁にあやしまれないようにするためだ。
 連絡がとだえていた言い訳を平田が考え、池部にマイクを向ける。
──道玄坂で酔っぱらいを逮捕。渋谷署に連行。
ユシマ警部補に引渡す。」との池部の報告に、意味ありげな笑みを浮かべる志村。
「只今、浅草雷門付近を走行中……。」
と言うなり、平田がマイクを引ったくる。
「感心に本当のことを言わなかったねえ……。」

 一方、本庁の無線係たち(渋谷英男、橘正晃)は、ぶっきらぼうな無線の切り方
に、
「ムラカミ、酔っぱらいに手を焼いたな。」
「おこりんぼだからな。」
などと、合点している。

 車内の緊張感とは関係なく、クリスマスイブの街は、酔った人々が浮かれている。
その中を縫うように33号車は走り続ける。
 再び、本庁からの無線、志村の妻、無事出産の知らせがはいる。なにか伝言があ
るかと尋ねるので、根岸に、志村の体を起こさせる。
 しゃべらせても平気かと問う根岸に、平田は、
「余計なことを言ったら、これで目をつぶしちゃいなさい。」
と、ナイフを渡す。
根岸「目をつぶってたらどうするの?」
平田「えぐっちゃいなさい。」
志村「大丈夫、目はちゃんと明いてますよ。まぶたを切られたら入れ目もはいらな
   い。」
 この極限状況で、目を見開き、動じないで冗談をとばす、あっぱれな志村。しか
し、根岸はその上をゆく。
「あっはっは、面白いおじさんね!」
 平田は後部座席にマイクを伸ばし、スイッチを入れる。
「よくやった……、と言ってやってください。どうか丈夫に育ててください……。」
 突然、オウムが鳴くので、平田があわててスイッチを切る。根岸は、怒った顔で
ナイフを鳥かごにかざすと、
「うるさいわね、首、ちょん切っちゃうぞ!」

「老人、遺言めいたことを言うな。」
と、本庁の警部補・清水元。それでもまだ、不審には思わないが、ぶつぶつ切れる
無線に、故障ではないか、と係たちは、現在位置をきいてみる。
「上野付近を走行中。」
「異常ないようだな……。」
 その時、本庁の110番指令台に、神田神保町で強請(ゆすり)の通報。ちょうど
距離の近い33号車に急行するよう指令を出すが、再び応答が無い。

 時計を見る平田、4時30分。
 あと10分ほどで目的地、応答してもしなくても不審に思われる、と、平田はダン
マリを決めこむことにして、アクセルに乗せた池部の足を、上から踏んでスピード
を出させる。

 本庁、無線係。
「33号車がまた連絡を切りました!」
「サボりにしてもひどすぎるな」と、無線担当の警部補・村上冬樹が、通信記録に
目をやる。
「渋谷署にユシマなんて警部補いたか?」
「きいたことないな。」と、不審に思った警部補・清水元がすぐさま渋谷署に電話
で問合せ、ユシマが架空の名前で、パトカーが寄った形跡もないことを知る。緊迫
する警視庁。
 モールス信号で、各警察署に一斉手配。休憩中のパトカーに出動命令。
「警視33、3時半頃より行方不明──。」

 33号車内。
 緊急手配の無線を傍受して、さすがの平田も焦りの色が浮かぶ。
 根岸は根岸だ、
「ねえ、捕まったらヒロシは死刑になる?ユリは?
 このおじさん、捨てちゃおうか、少しは軽くなるでしょ。」

 疾走するパトカーを、深川・万年橋たもとの交番が目撃(5:10)。
 続いて、警ら艇(24号すみだ丸)が、葛西橋を渡る33号車を目撃。
 1車線をつぶして、片側のみ1車線と狭くなっている工事現場。夜間工事が続く
中を、スピードを落とさず走り抜ける。なんとかサインを送りたい池部だが、平田
に牽制される。
「ユリ、どきどきしてきちゃった。すっごいスリルね。」
相変わらず、イカレた根岸。
 あの大きなクレーンの先にボートが待っている、と平田。

■クライマックス 目的地 石炭会社  ※妙見島の設定か?

 石炭会社のヤードの入口。画面奥から、ヘッドライトを揺らしながら、33号車が
近づいて来る。手前には引込線のレールが横断している。突然、画面をさえぎるよ
うに左から、機関車に引かれた貨物列車。
 驚く車内、池部、とっさにハンドルをきる。

 ゆっくり画面を横切る短い列車。通り過ぎると、腹を斜めにこちらにみせて、横
転している車。平田の座っていた助手席のフロントガラスには、ひびがはいってい
る。
 額に傷を負った平田は、天に向いたドアから這い上がり、続いて根岸を引っ張り
上げる。逃げる二人。ふりむきざまに、平田は車の腹にむけて、ピストルを2発。
 池部は手元にピストルが落ちていたのを幸い、手錠のくさりを撃ち切ると、車内
をよじのぼって、後を追う。志村の声がとぶ。
「気をつけろよ、ムラカミ!」
 平田と根岸は、石炭を運ぶ、細いベルトコンベアを、流れと反対に登ってゆく。
 車内に残された志村、手錠で背中側に繋がれた両手を、なんとか伸ばして、無線
機のマイクを握る。
「こちら警視33、葛西橋上流1キロの石炭会社……。」
背後で銃声が響く。

 警視庁ではその通信を、大勢が無線機にかじりつくように聴いていた。絶叫する
無線係・今泉、
「ハラダ部長!ハラダ部長ーッ!!」

 コンベアの上を逃げる平田と根岸、その反対側から、石炭の吐出し口が、唸りを
あげながら近づいて来る。後ろからは池部。
 一足先に、吐出し口の機械に飛び乗る平田。手を伸ばし、根岸を促すが、下に向
かって流れてゆくコンベアに足をとられて、なかなか飛びつけない。ついにバラン
スを崩し落下する根岸。
 根岸の体はゆっくりと石炭の山に落ち、頭を打って、根岸は動かなくなる。落ち
る人形が絶妙の演技。
 無念の表情の平田だが、振り切るように逃げる。追う池部。平田、発砲するも弾
が切れる。
 ここから、石炭の山で、組んずほぐれつ転がりながら、壮絶な殴り合いが始まる。
 平田を迎えにきた小型船の乗組員がライフル銃をかまえるが、二人が至近距離で
戦っているので、なかなかうまく撃つことができない。
 雪が横殴りに降り始める。
 警視庁を出発した、装甲の指示車、警官を乗せたトラック、おびたただしい数の
パトロールカー、 サイレンを鳴らしながら、葛西橋を猛然と通過。さいぜんの工
事現場では、なにごとかと駆け寄って来る作業員。一行は、ようやく、横転した
33号車の現場に到着。
 平田の一味の小型船の周りには、3隻の警ら艇(1隻は「指揮艇」“さぎり”)
が取囲む。
 なおも雪の中、顔を真っ黒にしながら殴り合う池部と平田。しかし、ついに、平
田は力尽き、動かなくなる。
 黒い空をバックに、雪の中、強風をシャツにはらませながら、石炭に汚れ熱闘に
腫上がった顔の池部、石炭の山に仁王立ち。
──ふくれあがった顔は、小川安三の吹替え(ウソ)。

 ※志村のセリフに「葛西橋上流1キロ」とあるが、流れから考えると、浦安橋が正
しいのではないか?


■エピローグ 池部と司夫婦のアパート前

 晴れた空。池部のアパート前の広い空地。
 飄々と口笛「ハイケンスのセレナーデ」を吹きながら、空き地を横切って帰って
来る池部。おでこにガーゼと絆創膏。アパートが目に入ると、昨日の司の言葉を思
い出したか、口笛をやめる。
 2階の池部の部屋の窓に、ひと気が無いのを感じ、ポケットから鍵を取出す。リ
ヤカーで売りに来ている八百屋からネギを買う。味噌汁の具にしようというのだろ
う。
 そこに、大きな包みを抱えた妻アツコ・司葉子が帰って来る。昨日のことなどど
こ吹く風、こぼれるような笑顔だ。つられて池部も顔がほころぶ。
 司は、池部のおでこの傷の理由をきくが、なんでもない、と司を気づかう池部。
「お仕事の話、いつもアツコには、してくださらないのね。」
こんどは、池部が包みの中身をきくと、耳打ちする司。
「ホントか?」
と、池部は家を待ちきれず、包みを開ける。
 箱の中には、小型エンジン付の模型飛行機(Uコン)がはいっていた。驚いた池
部が言う。
「これ高いんだぜ。」
「平気平気、ボーナスの残りよ。」
 さっそく、池部は、近所の子供に手伝ってもらって、飛行機を飛ばす。それを嬉
しそうに見守る司。
 青空を軽快に飛ぶ模型飛行機。エンドマーク「終」。



◆◆キャスト◆◆     ▲▲ページ冒頭▲▲  ▼舞台設定/ロケ地▼


本庁ヒラ巡査ムラカミ……池部良
本庁巡査部長ハラダ………志村喬
ムラカミの妻アツコ………司葉子
司・アツコの姉……………中北千枝子

指名手配犯アサヌマ………平田昭彦  ヒロポン密造、荒川の警官殺し
アサヌマの情婦ユリ………根岸明美  平田以上に冷酷非情なグラマー美女
玩具工場主スガワ…………沢村宗之助  元浮浪児を育てる裏で悪事を働く

本庁無線係…………………今泉廉
本庁、池部と志村の上役…千葉一郎
本庁警部補…………………清水元
本庁パトロールカー同僚…大村千吉  のど自慢出演

曙荘管理人…………………三田輝子
ポン中のバタ屋……………沢村いき雄 コバヤシゼンゾウ
 大森・唖の娘……………北野八代子
 大森・唖の娘のオヤジ…伊藤実?
 大森「空地ですよ」……小野松枝  質屋の半天
電器店の主…………………榊田敬二
タクシー運転手……………柳谷寛
薬局店主……………………河崎堅男
 薬局店主の妻……………一万慈鶴恵
 「ブルキ屋のおじさんだよ。」…小沢経子
 薬局の野次馬……………宮田芳子  銭湯帰りらしく手に風呂桶(他にも出演)
一家心中のブリキ屋………瀬良明
心中事件所轄の主任………勝本圭一郎  森永キャラメル
通報したキャバレーの客…佐田豊
佐田豊友人の客……………上田吉二郎  岐阜の山奥で材木の切出し
上田吉二郎の口説く女給…持田和代
キャバレーのストリッパー…メリー・眞珠
司葉子を口説こうとする客…相原巨典  メガネ
相原巨典の友人の客………大友伸
 キャバレーの女給………宮田芳子  フロア入口付近で客のダンスの相手
 キャバレーの女給………飛鳥みさ子
そば屋の小女キミちゃん…上野明美
代々木他殺体現場の刑事…牧壮吉
代々木他殺体現場の記者…桜井巨郎
 同現場の警察幹部………安芸津広  制帽に金筋、所轄の捜査課長か?
スケートリンクの泥酔女…塩沢登代路(とき)
タクシー運転手柳谷の妻…本間文子
逃込んだ浮浪児……………石橋蓮(蓮司) 「ポン打ってくれよう!」
アサヌマ平田昭彦の手下…茨田正夫?  ボートで銃を構える男
アサヌマ平田昭彦の手下…鈴木治夫  ボート上「親分を撃つなよ」

本庁パトロールカー同僚…広瀬正一  クレジット「廣瀬」
 同パトロールカー同僚…中丸忠雄
本庁無線係…………………渋谷英男
本庁無線係…………………橘正晃
本庁無線係…………………坂本晴哉
本庁警部補(無線担当?)…村上冬樹
本庁110番通報係…………宇野晃司  「神田神保町で強請(ゆすり)」


◆◆舞台設定/ロケ地◆◆  ▲▲ページ冒頭▲▲  ▲キャスト▲

(田端)……「曙荘」初の夫婦喧嘩、凶悪犯逃走中のラジオニュース/中北千枝子
警視庁……点呼、パトロールカー出動/千葉一郎、清水元、大村千吉、今泉廉

「品川駅前」……大森で強盗侵入中の110番通報を無線で受ける
踏切……足止め食う ※大森へ行く途中の設定だが、池上通り、大井町駅南の踏切か?
   ただし、大井町を貨物列車は通らない。ロケは、鶴見の総持寺踏切と断定。
「大森」……ポン中バタヤのイタズラ通報/沢村いき雄 「大田区役所入る草津湯先」
大森警察署前……カリカリ出て来る池部
(大井町)……電器屋のテレビのど自慢/大村千吉、榊田敬二 ※大井銀座と映込む
    →スピード違反タクシー追跡/柳谷寛、根岸明美
某所……薬局から110番通報、ブリキ屋一家心中/河崎竪男、瀬良明
某警察署……報告、篤志家須川と遭遇/勝本圭一郎、沢村宗之助
ガード下……キスする男女/飛鳥みさ子?
(五反田駅ロータリー)……110番通報「代々木で殺人事件」
「新宿角筈」……キャバレーでぼったくりの通報/上田吉次郎、佐田豊
    →ストリッパーにからまれる志村/メリー・真珠
    →すれちがいで、司と中北、司に興味示す男/相原巨典、大友伸

警視庁……休憩帰庁。池部、アパートに電話するが司不在
   →代々木殺人事件の無線報告、被害者に心当りあり急行
「代々木」……遺体とつぶされたリモコンカー/牧壮吉、桜井巨郎
某所……産院に向かうリヤカーの夫婦を送る/土屋嘉男、河内桃子
「ジケイ会」病院前……病院から出て来る池部 ※御成門の慈恵医大、現F棟
(原宿)……そば屋からラーメンの出前/上野明美 ※のれんに「原宿大むら庵」
後楽園アイスパレス……酔っぱらいに手を焼く巡査/塩沢登代路(塩沢とき)
「渋谷」……殺されたタクシー運転手に焼香/本間文子
同 須川玩具製作所…不審な少年を追い盗難タクシー発見・遭難/石橋蓮、平田昭彦
(深川・万年橋)……疾走する33号車を目撃する交番。 ※特徴あるトラス橋
「葛西橋」渡り浦安橋へ……異常に気づく警視庁/村上冬樹
「葛西橋上流1キロ」……石炭会社の捕物 ※ロケ地不明
       志村のセリフで「葛西橋…」とあるが浦安橋のまちがいではないか

(田端)……アパート前の空地で仲直り ※田端駅上のこの空地は2014年時点も存
在していたが、2015年8月現在、保育園建設用地として、柵に囲われた。

  ▲▲ページ冒頭▲▲  ▲キャスト▲


【101】〜
【100】君も出世ができる(1964)
【99】父子草(1967)
【98】地方記者(1962)
【97】花のお江戸の法界坊(1965)
【96】童貞先生行状記(1957)
【95】駅 STATION(1981)
【94】大いなる驀進(1960)
【93】三十六人の乗客(1957)
【92】高度7000米 恐怖の四時間(1959)
【91】キングコング対ゴジラ(1962)
【90】かも(1965)
【89】警視庁物語 ウラ付け捜査(1963)
【88】拳銃0号(1959)
【87】希望の乙女(1958)
【86】旅情(1959)
【85】人間に賭けるな(1964)
【84】日本暴力列島 京阪神殺しの軍団(1975)
【83】東京湾(1962)
【82】野獣狩り(1973)
【81】ひとりぼっちの二人だが(1962)
【80】ギャング同盟(1963)
【79】明日は月給日(1952)
【78】もぐら横丁(1953)
【77】好人物の夫婦(1956)
【76】愛情の都(1958)
【75】警視庁物語 行方不明(1964)
【74】喜劇 男の泣きどころ(1973)
【73】橋(1959)
【72】東京の恋人(1952)
【71】特急三百哩(1928)
【70】アリバイ(1963)
【69】私は負けない(1966)
【68】月曜日のユカ(1964)
【67】おんなの細道 濡れた海峡(1980)
【66】続・酔いどれ博士(1966)
【65】ダニ(1965)
【64】硝子のジョニー 野獣のように見えて(1962日活)
【63】誘惑(1957)
【62】集金旅行(1957)
【61】ゴジラ(1954)
【60】閉店時間(1962)
【59】山鳩(1957)
【58】次郎長社長と石松社員(1961)
【57】サザエさんの青春(1957)
【56】背後の人(1965)
【55】重役の椅子(1958)
【54】川のある下町の話(1955)
【53】泣いて笑った花嫁(1962)
【52】はだしの花嫁(1962)
【51】のれんと花嫁(1961)
【50】ふりむいた花嫁(1961)
【49】わたしの凡てを(1954)
【48】愛人(1953)
【47】花嫁のおのろけ(1957)
【46】恋人(1951)
【45】33号車応答なし(1955)
【44】真田風雲録(1963)
【43】嵐を呼ぶ楽団(1960)
【42】サラリーマン目白三平 うちの女房(1957)
【41】人形佐七捕物帖 めくら狼(1955)
【40】流れる(1956)
【39】結婚のすべて(1958)
【38】踊りたい夜(1963)
【37】風流温泉日記(1958)
【36】喧嘩鴛鴦(1956)
【35】早射ち野郎(1961)
【34】香華(こうげ 1964)
【33】その壁を砕け(1959)
【32】おかあさん(1952)
【31】愛染かつら 総集篇(1938・39)
【30】赤い鷹(1965)
【29】人間狩り(1962)
【28】[シリーズ]事件記者(1959〜1962)
【27】地図のない町(1960)
【26】黒い画集 あるサラリーマンの証言(1960)
【25】吹けよ春風(1953)
【24】彼奴を逃がすな(きゃつをにがすな 1956)
【23】我が家は楽し(1951)
【22】花ひらく娘たち(1969)
【21】麦秋(1951)
【20】浮草(1959)
【19】鉄砲玉の美学(1973)
【18】最後の切札(1960)
【17】黄色いさくらんぼ(1960)
【16】空の大怪獣 ラドン(1956)
【15】涙を、獅子のたて髪に(1962)
【14】特急にっぽん(1961)
【13】時をかける少女(1983)
【12】幸福の黄色いハンカチ(1977)
【11】お国と五平(1952東宝)
【10】可愛いめんどりが歌った(1961)/夢でありたい(1962)
【09】充たされた生活(1962)
【08】人間蒸発(1967)
【07】若い樹(1956)
【06】こだまは呼んでいる(1959)
【05】抱かれた花嫁(1957)
【04】新・事件記者 殺意の丘(1966)
【03】空かける花嫁(1959)
【02】現代っ子(1963)
【01】七人の刑事 終着駅の女(1965)

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寒空はだか窓口 紹介 予定 随記 即席映画狂トップ 日活版「事件記者」